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2021.07.28 予算・決算

番外編 初めての決算監査

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「意見」を付すに値する議論がなされているのか?

 さて、そうはいっても、決算審査に「意見」を付す際には、事務局案を丸のみすることなく、審査の過程で問題点が明らかになってきたなら、そのことをぜひ「意見」中に加えることを試みていただきたい。これまで、議会の決算審査に当たって、「決算審査意見書」に物足りなさを感じていた議員も多いことと思う。
自分が監査委員になれば、もっと充実した役に立つ「意見」を書き込めるのに、と思っていることだろう。その心意気やよし。ただし、「意見」の充実は、二つの意味でハードルが高い。一つ目は、多くの市町村では、そもそも意見の中で、踏み込んだ内容を書き込むような様式になっていないこと。もちろん例外もあり、「四日市市監査委員は、7項目の意見を5頁にわたって記述、会津若松市監査委員は、10頁にわたって個別意見を記述」(同書258頁)している。筆者が経験した所沢市の場合も、「決算審査で指摘された事項が全て記述されるわけではなく、『決算審査意見書』の『むすび』に指摘事項の中でも特に配慮を要すべき項目について記述することになる」(同書258頁)。
 6月議会において、就任したばかりで意見書の形式について提案し、実施するのは相当難しい。すでに、最終的な「決算審査意見書」の形を前年どおりと想定して、審査日程が組み立てられている場合が多いからだ。そうした大きな変更は、「毎年3月に、次年度の監査計画を策定」(同書269頁)するときに、形式の変更も含めて議論し提案する必要がある。現状の形式の中で、より具体的な意見を盛り込めるように頑張っていただきたい。
 二つ目は、そもそも意見書に掲載できるだけの審査が新任の議選監査委員に行えるかという問題である。初めての決算審査を迎えるに当たり、「監査委員の仕事や役割などについて事前のレクチャーなどがなされるかと期待していたが、そういった準備はほとんどなく、大量の資料を渡され、いきなり実際の決算審査に臨むことになる」(同書255頁)からだ。ヘタをすると、質問のタイミングを逃して、ただ黙って席を温めている状況に陥ってしまう。所沢市監査委員の場合は、決算内容に対する「着眼点案についても準備する体制になっている」(同書257頁)ので、「この着眼点案のおかげで、どんな点を質問すべきかが、実践を通じて理解することができた」(同書257頁)。筆者も、1度目の決算審査では、審査をこなすのが精一杯であった。こうした着眼点案が用意されない場合には、過去の決算監査の議事録を確認することも重要だろう。確認することで、議会の決算審議との方向性の違いもよく見えてくるはずだ。
 「意見」を付すためには、その「意見」が形成されるに至った議論が執行部と監査委員との間で展開されていなければならず、その議論の末に問題点が発見され、「意見」形成に至る。この点は、議会で表明される「意見」でも、何ら質疑が行われず、事実確認もなされないのに「意見」表明することがはばかられる点と事情は似ている。
 筆者もようやく2度目の決算審査からは、事務局案ではない独自の「意見」を付すことを前提にして審査を行い、何とか審査から導き出された問題点を盛り込むことができた。
 執行部としても、納得性のある「意見」でなければ、とうてい受容できない。ポイントは、「人間関係などもあって、なかなか内部では指摘できないポイントを、監査委員はよくぞ意見として指摘してくれた」と思ってもらうことであろう。このポイントは、決算審査に限らず、あらゆる監査活動に共通するのではないだろうか。
 皆さんにはハードルが高いとはいえ、以上の点を参考に、1度目の審査で「意見」を付すことに挑戦していただきたい。

議会への報告を

 せっかく議会から議選監査委員を送り込んでいるのであれば、議会の決算審議の前に、監査委員の決算審査についての報告ができれば、その後の議会における決算審議の充実が期待できる。この点については筆者も試みたが、うまくいかなかった。
 議選監査委員制度を廃止した滋賀県大津市の事例はちょっと変則的であるが、ご紹介する。
 「〔地方自治〕法改正後、いち早く議選監査委員制度を廃止した、滋賀県大津市では、制度廃止に伴う補償措置を講じた。」(同書288頁)
 「さらにこれまでの議論の経緯から、議選監査委員が果たしてきた役割を踏まえて、議会と監査委員との情報共有の仕組みを考えていこうということになった。具体的には、監査情報の共有という意味で、これまでも決算常任委員会において代表監査委員から意見陳述をしてもらっていたが時間的にも短かったので、今後は質疑応答も含めて半日確保するなど、議事日程の観点から充実を図ることとした。定期監査結果は、市長には年2回報告されていたが、議会には書面が回ってくるだけだったので、全員協議会で定期監査結果の報告を受けることになった。」(同書289頁)
 議選監査委員に限らず、監査委員から議会に対して審議内容を報告するという仕組みは、もっと広がってよいだろう。
 全市町村の事例を調査したわけではないが、議選監査委員制度を廃止していない市町村議会の例では、例えば岐阜県可児市議会や大阪府阪南市議会などでは、議選監査委員が決算審査の内容を議会に報告していることが確認できた。可児市議会では、「予算決算委員会では、所管課からの説明と議員選出の監査委員からの報告を受けた後に」(「可児市議会だより」78号、第5回臨時会・第6回定例会、2020年)決算の審議を行っている。
 可児市議会令和2年8月26日予算決算委員会議事録を確認したところ、議選監査委員から、決算審査意見書を用いての説明と議員による質疑が約30分程度行われていた。特に同意見書の「むすび」部分の説明がなされていた。
 制度的に、議選監査委員が、決算審議を行う委員会の冒頭で概略を説明する仕組みは、今年、議選監査委員に就任された議員からも働きかけてもらいたいし、議選監査委員ではない議員からも要望していくことが重要であろう。可児市議会の質疑応答でも、監査「意見」に関しては「当局におもねる表現はよくないと思いますので、しっかりとした立ち位置を認識した表現をお願いしたい」との期待も表明されている。こうした議会と監査委員とのやりとりを通じて、監査「意見」のあり方が変化していくことが期待できる。
 阪南市議会の議選監査委員による監査報告は、より一歩踏み込んだ報告をされている。令和2年9月3日の報告では、「行財政構造改革プランを着実に実行する以外に道はないと思料」、「組織の発展というものは、公であれ民であれ、人、物、金の三つがバランスして初めて成り立つものであり、有能な職員が退職しているという現実をしっかりと受け止めて、今の仕事の在り方を省みる必要があり」などの報告がなされている。筆者としてはこういうスタイルは嫌いではないが、少し踏み込みすぎている印象もあり、いずれにせよ制度の過渡期であるので、トライアルアンドエラーを繰り返していく必要があるのだろう。
 議選監査委員の議会に対する報告に関連して、監査で知りえた情報をどこまで話してよいかという守秘義務の問題についても、ここで整理しておきたい。
 筆者も議選監査委員であったときに、最も気を使ったのが守秘義務の問題である。例えば、監査委員は、納税、特に滞納等に関わる個人情報に接する機会がある。こうした情報についての漏えいなどは論外である。一方、個人や法人が特定されないような情報に関しては、監査資料や議事録なども情報公開制度で入手可能であることから、守秘義務について厳密にとらえすぎる必要はないと考えている。
 監査委員は、法的には地方自治法198条の3第2項で、「監査委員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、同様とする」とされている。一方、秘密漏えいに対する罰則は担保されていない。さらには、「地方公務員法34条の守秘義務規定では地方議員は適用除外」(同書257頁)になっている。
 このへんは、やはり議選監査委員のバランス感覚の問題であるとは思うが、守秘義務を四角四面に解釈しすぎると、せっかくの監査の成果を議会活動に活かすことが不可能になってしまう。
 以上、大急ぎで、新たに議選監査委員に就任された方へのエールの意味を込めて、本稿をまとめた。少しでもお役に立てれば幸いである。

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◆書籍情報
『自治体議員が知っておくべき政策財務の基礎知識―予算・決算・監査を政策サイクルでとらえて財政にコミットできる議員になる―』(2021/3/11発売開始)

江藤俊昭 新川達郎 編著(定価3,300円 (本体:3,000円))
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 自治体議員が地方財政に主体的に関与・改善したいと考えたときに、本書を読むことで、政策財務の考え方、特に予算・決算・監査に関する基礎的知識や方法論を紹介。先進的な議会の予算決算に関する取り組みや予算案修正の際の考え方や手続き、具体的な修正の手法を知ることができる。

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