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2021.07.28 予算・決算

番外編 初めての決算監査

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前所沢市議会議員 木田 弥

 6月議会の人事で、初めて監査委員に就任された方も多いかと思う。旧知の議員の方から、監査委員に就任したので、「ぜひとも監査委員として監査に臨む心構えなどを伝授してほしい」との要望があった。筆者が議選監査委員としての経験をもとに本連載を行っていたことを知っていたからだ。本連載の一部をまとめたのが、本年3月に発刊された江藤俊昭・新川達郎編著『自治体議員が知っておくべき政策財務の基礎知識』(第一法規)第3部第9章「議選監査の実践的活用」である。そこで、その方には、同章をよくお読みくださいとお伝えした。
 しかし、当面する決算審査をまずしのぐには、39頁にわたる同書第9章全てを読む必要はない。そもそも、この章は、少数の新任の議選監査委員のためというより、そうではない大多数の議員に監査の仕組みそのものをよく理解してもらい、監査結果を議会活動に活用していただきたいという観点で書き下ろしている。よって、新任監査委員が知っておくべき知識など必要な部分は、文中に散らばっている。申出のあった方には、改めて直接お会いし、最低限必要な部分だけをお伝えした。
 おそらく同じように戸惑っている議員の方も多いかと思い、同書第9章の必要な部分を紹介しつつ、決算監査に臨む基本的な知識と心構えをお伝えすることとしたい。決算監査をひとまず終えたなら、改めて同書第9章全体を通読いただきたい。さらに見通しよく読めるはずである。もちろん、議選監査委員になっていない議員の方にも、決算監査の様子を理解していただくために、ぜひお読みいただき、来るべき日に備えていただきたい。

監査委員の決算審査に不認定はない

 「議選監査委員が決算審査で配慮しなくてはならず、かつ、戸惑うのは、決算審査と議会の決算認定の着眼点の違いである。監査委員の行う決算審査は、『決算等が(中略)その内容を適正に表示していること、及び予算の執行又は事業の経営が適正に、効果的で効率的かつ経済的に行われていること』(都市監査基準(全国都市監査委員会)3条)をチェックするものだ。議員にとっての決算認定とは、自分たちが可決した、あるいは反対した予算や条例が、しっかり執行されているか否かを確認する機会でもある。よって、議会はその決算を『認定』するか、『不認定』とするかの判断が求められる。一方、監査委員の決算審査に求められるのは、『意見』である。」(同書255頁)
 監査委員にとって重要な決算に対する「意見」であるが、例えば、議会の決算審議の意見や予算の意見など、議会活動で表明される「意見」とは当然性質が違う。
 議会における「意見」は、その議案に対して、賛成か反対かなどの自分の政治的立場についての理由を表明し、他者の賛同を得ようとすることが目的であろう。しかし、監査委員の「意見」は、自分の政治的な立場を表明するためのものであってはならない。あくまでも客観的かつ独立な立場に立脚して「意見」を述べるものである。議選監査委員が監査活動を実施する際には、この点に留意して、よって立つ位置をしっかりと切り替えなくてはならない。こうした切り替えがうまくできないと、「やはり議選監査委員は問題が多い」、「一般質問と監査活動における質問を混同している」と評されてしまうのだ。

監査委員が独任制であることの意味

 「監査活動の中核をなしているのが、定期(財務)監査や決算審査」(同書253頁)である。決算審査は地方自治法233条で規定された「義務」であり、「会計管理者の調製した決算が正確であるか」をチェックし、「意見」を付す。議会では、決算審査を経た決算を基に、首長が決算認定を議会に付すことになる。
「意見」は「監査委員の合議で決定し付す」(同条4項)ことになっている。気をつけていただきたいのは、多数決ではないことだ。合議がまとまるまで、しっかりと監査委員間で話し合うということだ。そこに多数決はありえない。
 なぜなら、監査委員は独任制だからである。独任制ということは、監査委員個々に権限が付与されているということである。地方議員の場合、議会に様々な権限が付与されているが、原則として議員そのものに、単独で権限が付与されているわけではない。したがって、議会が閉会中は、議員には何の権限もないと解するのが自然である。ところが、監査委員は任期中ずっと監査委員であるから、その権限は継続する。
 この点を理解いただくために、東京都の監査事務局の説明が秀でているので、引用する。
 「監査委員は独任制の機関です。これは、それぞれの監査委員が独立して職権を行使する、ということを意味します。教育委員会や選挙管理委員会や人事委員会といったほかの行政委員会と違って、委員会制をとっていないため、監査委員を対外的に代表する委員長もいません。『代表監査委員』は、監査委員に関する庶務等を処理する職務に従事する者(地方自治法第199条の3第2項)で、監査委員の代表ということではありません。」(https://www.kansa.metro.tokyo.lg.jp/kansazimukyoku/index.html
 独任制なので、理論的には、監査委員が財務や事務執行に疑問を抱いた場合、その監査委員の発意で、監査事務局を使って監査を行うことができる。もっとも、監査事務局の資源にも限度がある。そのため、筆者の場合は、「任意」に実施される(といっても監査計画では毎年実施される)行政監査や財政援助団体等監査におけるテーマや対象設定に当たって、議員としての経験に基づいて積極的に提案し、事務局提案のテーマや対象の一部を変更していただいた。それができるのも、監査委員の上記権限が背景にあるからだ。
 もちろん、独任制だからといって、強引に自分の考えを「決算審査意見書」に盛り込む権限がある、独自に監査が実施可能、などと誤解し、行動することは、厳に慎まなくてはならない。そのような強引な行為は、その後の監査活動に著しく支障を来す。
 実施が任意である行政監査や財政援助団体等監査などは、実施しなくても法的には問題がない。執行部としても、もし監査委員が権限を振り回すようであれば、協力を拒否することで対抗できる可能性もあるのだ。

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