2021.06.25
【セミナーレポート】変革は地方から~コロナを超える地方の知恵~
コロナとデジタル
関治之氏(一般社団法人コードフォージャパン)からは「コロナとデジタル」と題した講演がありました。「コードフォージャパン」は関氏が2013年に立ち上げた非営利団体で、「ともに考えともにつくる」を合言葉に、これまでシビックテックアプローチで行政課題に取り組んできました。その経験を踏まえ、関氏はコロナ禍で見えてきた自治体のデジタル化の遅れ、課題などについて解説しました。例えば、国と自治体間のシステムがつながっていないこと、自治体から国への情報伝達の回路がないこと、国民のデジタルIDが普及していないことから国から直接国民に給付ができないこと、システムが個別に乱立していること、ラストワンマイルでアナログな業務が残っていること、などです。もちろんこれまでも自治体のデジタル化の取り組みは少しずつ進んではきましたが、ここに来てプライオリティが急速に高まっているとしました。
関氏はデジタル庁の創設にも関わっており、今後取り組んでいくこととして「ベースリジストリ」という計画を紹介しました。これはこれまで個別に存在していた各種台帳の情報を、データ化するとともに、フォーマットをそれることで、データを繋げていくという計画です。今秋に予定されているデジタル庁発足に向け、これからの動きに注視が必要と感じました。
リモートデジタルへの挑戦
経済産業省の浅野大介氏からは、リモートシステムを活用した教育についての解説がありました。浅野氏は2018年頃からGIGAスクール構想に関わってきた経緯があり、教育DXを進めるためにこれまで取り組んできた事例やその想いについて語りました。
コロナ禍によってGIGAスクールは一気に進みましたが、まだまだ現場の課題も多いと指摘しました。例えば、端末を家に持ち帰ることを自治体が許可しない、セキュリティを気にするあまり使えるアプリや閲覧可能なサイトが限られてしまっている、などです。
全校生徒10名の大熊町の小中学校におけるedTechの取り組みについても解説がありました。異年齢の生徒が教室で端末を利用しながら、自律的に学びを進めている様子が紹介されました。
withコロナ時代の教育改革
戸ヶ﨑勤氏(戸田市教育委員会教育長)からは、埼玉県戸田市で取り組んだ教育改革についての講演がありました。これまでの「経験と勘と気合い」から「客観的な根拠」を元にした教育への変換が大切であり、優れた教師の経験や勘、指導技術を言語化・可視化・定量化するなどして、若手教師に効率的・効果的に伝承していくべきであるという視点に立ち、教師の個人プレーだけに頼らず、教室や授業を科学していくための取り組みを紹介していただきました。
「児童生徒が出ていく社会を知ろうとしないのは不誠実」である、という考えの元に行われた職員の意識改革は、教育の中身だけではなく教員の働き方にも影響しており、学力の向上、教職員志望者の増加に繋がっているとのことでした。
コロナ危機と政策対応
小林慶一郎氏(慶應義塾大学経済学部教授)による「新型コロナに対する経済政策対応について」の講演では、夏までにステージ2のレベルまで感染状況を落ち着かせるべきとして、ワクチンの予約システムが現在早い者勝ちで混乱を招いているとして自治体の予約システムの改善方法の相談に応じる仕組みの紹介、生活困窮者への迅速公正な支援の仕組みとして、事前審査なしで支給することで迅速に、また税務署の審査が入ることで公正に支援できる所得連動型給付金の提案などがなされました。
コロナによる世界的な財政危機に対しては、全世界が共通して課税するトービン税の提案を行い、世界銀行やIMFに加え、世界財政機関の必要を説かれました。
一極集中は解消できるか
金井利之氏(東京大学法学部教授)より、「一極集中は解消できるか」と題した講演がありました。一極集中というのは、戦後の日本を貫いてきた課題であるとしたうえで、人間は基本的に動物であるため、食べられる範囲で食べられるところに生息するものである、と指摘しました。そのうえで、ではなぜ戦後顕著に東京一極集中が進んだのかということに対して、エネルギー構造の変化(薪炭エネルギー社会の終わり)や工業化などを挙げ、そうなるべくして、大都市圏への人口集中が起こっているとしました。
さらに、エッセンシャルワーカーの賃金が低いことから、東京に人は集まってくるものの、その結果スラム化が起きやすいということを指摘しました。大都市圏スラムは世界的にも課題となっています。これに対し、行政が低賃金労働者の支援をすることが必要であるとしました。