地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2021.05.25 予算・決算

番外編 令和3年度当初予算編

LINEで送る

予算修正が当たり前になった所沢市議会

 筆者の古巣である所沢市議会でも令和3年度当初予算をめぐり、予算修正が行われた。一時は、「修正は難しそうだ」、「付帯決議がせいぜい」となりそうだったとのことであるが、普段であれば修正案を提出することがまれな会派から修正案が提案されることとなった。そこで、一気に形勢が変わり、修正に4会派が賛成、予算常任委員会での修正可決にこぎつけた。また、今回は珍しく市長からの再議請求もなかったため、修正案は確定した。

 所沢市議会も、予算修正の実績は豊富だ。平成以降は、平成19年9月に予算案の増額修正、平成29年3月定例会で一般会計補正予算の修正案可決。ただし、再議請求されて原案執行。平成30年3月定例会で当初予算案の修正案が予算特別委員会で修正可決。しかし、本会議で否決。続いて、平成30年6月定例会では補正予算案が修正可決、などである。

 まず、修正案(表5)を見てみよう。修正案の形式は、これまでの連載でも紹介したとおり、修正部分列挙形式である。当初予算であるため、修正部分訂正形式による修正案の場合、頁数は今回のケースのように1頁では済まず、数頁になり煩雑である。所沢市議会では、修正部分列挙形式による修正案作成が定番化した。
yosan_hyo05

表5 令和3年度所沢市一般会計予算に対する修正案

 また、増額修正ではなく、減額修正である。修正理由は、松戸市議会の場合、具体的な事業内容ではなく、修正対象の款と項について、「予算措置理由が認めがたい」という表現。所沢市議会は、「本案は所沢カルチャーパーク施設整備工事のうち、大型遊具の整備に関わる費用を減額するため」となっており、減額する項目について目節まで絞り込んだ具体的な表現となっている。

 どちらの市議会の修正理由の表現も一長一短がある。松戸市議会の提案理由に「市役所機能再編整備基本計画に関わる費用を減額するため」と加え、所沢市議会の提案理由には松戸市議会の「予算措置理由が認めがたい」という表現を加えると、住民に対し、より正確で分かりやすくなるのではないだろうか。

 修正案で注目いただきたいのが、歳入部分の修正である。歳出の減額に対応して、どの歳入部分を減額するかの判断が非常に難しく、このことが、予算修正案の提出を躊躇(ちゅうちょ)する要因の一つになると、つとに指摘してきたところである。今回は、市債の減額で対応している。この修正案を作成したK議員は、前職は市の幹部であり、しかも財政や監査事務局も経験されている。私も現職時代は、財政に関わる部分について分からないことがあると、頼っていた議員である。

 筆者が修正案を作成するならば、おそらく財政調整基金繰入額の減額で対応していたと思う。というのも、市債を起債する執行部内部のプロセスについて教科書的には理解しているが、実態は不明なためである。K議員は、むしろ、大型遊具部分の財源は市債により賄うのであるから、市債を減額することがより正確であるとの考えであるようだ。

 さすがに、自ら予算編成に携わってこられた方の対応である。もちろん、そのような経験のない議員であって、もし減額したい予算項目があれば、財源部分について歳入のどこの部分を充当しているかについて、質疑で確認すればよい。

 確かに、財政調整基金繰入額の減額で対応すると、市債の起債予算は否定されないことになり、起債は認めるが執行は認めないということになってしまう。実際は、歳出が確定していないので起債はあり得ないが、修正予算について正確を期すには、確かに市債の減額がよい。

 今回の争点は、松戸市議会とは違い、事業の大きな方向性は是認しつつも、事業の一部分についての見直しを求めるものだ。

 所沢カルチャーパークは、「武蔵野の雑木林の保全・活用を図り、市民が身近な自然とふれあう場となる『自然環境保全型の総合公園』として、令和3年度までの完成を目指し、整備を進めている」(令和3年度所沢市事業概要調書)ものである。

 この所沢カルチャーパークに築山を築く予算が、令和2年度予算として計上され可決した。その後、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、所沢市議会は、「新型コロナウイルス感染症対策に関する決議」を令和2年5月に議決。決議では、「10 新型コロナウイルス感染症対策に必要な予算を創出するために年度当初に予定されていた事業を凍結又は縮小し、組み替えを行うこと」として、「凍結候補事業・予算」に所沢カルチャーパーク築造事業(築山)を書き込んだ。しかし、議会の凍結の意向はくみ取られることなく、事業は執行された。築山の築造については、令和元年度には約9,000万円を見込んでいたが、令和3年度には、築山関連の予算が約1億2,600万円と、約3,600万円増額されたことが予算常任委員会の審査で明らかになった。この築山は、土木的に山を形成する以外に、ローラー滑り台3,000万円、クライミングネット8,000万円、ターザンロープ800万円で、健康遊具50万円なども含んでいる。

 大型遊具のみを減額する意見と、所沢カルチャーパーク施設整備工事費1億9,130万9,000円全体を減額するべきという意見があったようだ。しかし、最終的には、令和元年度時点の計画を超える約3,600万円を減額することで合意ができたようだ。

 議会の修正提案も、突然出てきたものではなく、「新型コロナウイルス感染症対策に関する決議」や議員からの見直しを求める一般質問など、議会からの執行部に対する様々な働きかけがあったにもかかわらず、執行部側がそうした議会意思を無視した予算提案を行ったことが、修正案の提案の背景にあるようだ。

 以上、2市議会の事例を見てきた。皆さんの議会でも、予算案に修正すべき箇所があるようなら、これら2市議会の事例を参照いただき、ぜひとも修正に挑んでいただきたい。

(1) これまでの連載ではポジティブリスト方式と命名していたが、より正確を期すため、連載内容を再録した前掲自治体議員が知っておくべき政策財務の基礎知識で名称を変更した。

(2) 前掲注(1)同様、ネガティブリスト方式から名称を変更した。

(3) 山中啓之議員のウェブサイト「令和3年度松戸市一般会計予算『修正案』が委員会可決[2021年03月18日(Thu)]」

************************************
◆書籍情報
『自治体議員が知っておくべき政策財務の基礎知識―予算・決算・監査を政策サイクルでとらえて財政にコミットできる議員になる―』(2021/3/11発売開始)

江藤俊昭 新川達郎 編著(定価3,300円 (本体:3,000円))
02031016_6019f97c38bd8
 自治体議員が地方財政に主体的に関与・改善したいと考えたときに、本書を読むことで、政策財務の考え方、特に予算・決算・監査に関する基礎的知識や方法論、他議会の先進的取り組み、予算案修正の具体的な手法を知ることができる。

◆ご購入はこちらからどうぞ

この記事の著者

編集 者

今日は何の日?

2025年 616

新潟地震(震度6)起こる(昭和39年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る