2021.05.25 予算・決算
番外編 令和3年度当初予算編
松戸市議会では、修正案が二つ提案されたことで、いかに状況を整理するか、議会関係者は知恵を絞ったようだ。松戸市議会議員の山中啓之議員のウェブサイト(3)を参照しながら、審議の順を追って、状況を説明していきたい。
まず、予算審査特別委員会における一般会計予算の質疑が全項目終了した段階で委員長が休憩を宣言。休憩中の委員会で表1と表2が配布された。いずれも、「修正部分列挙形式」に近い形での提案である。ただし、この形式では、修正案としての形式を満たしておらず、あくまでも提案を提出した会派の提案内容の説明資料にとどまっている。委員会再開後に、どのような話し合いが当事者間でなされたかは不明であるが、それぞれの修正提案会派から、表3と表4に整えられた修正案が正式に予算審査特別委員会に提出された。この修正案は、修正部分訂正形式として整えられている。そしてさらに注目すべきは、表3では、「市役所機能再編整備基本計画策定業務委託」を除いた案(以下「修正案A’」という)となっていることである。一方、表4では、表2と同様に、「市役所機能再編整備基本計画策定業務委託」のみの減額修正案(以下「修正案B’」という)となっている。
筆者はこの顛末を現役の松戸市議会議員から聞いたときに、「なるほど、うまくさばいたな」と、感心した。
表4
ここで、改めて採決の諮り方について確認しておきたい。
会議原則では、修正案の採決の場合、より原案に遠いものから諮ることになっている。実際に、松戸市議会会議規則77条(表決の順序)2項においても、「同一の議題について、議員から数個の修正案が提出されたときは、議長が表決の順序を決める。その順序は、原案に最も遠いものから先に表決をとる」とされている。もし仮に、二つの提案された修正案に重複がなければ、原則どおり、より遠い、より修正部分の多いものから諮ることになる。しかし、今回のように修正内容が原案から遠いものが原案から近い修正提案を包含している場合、このまま諮られてしまうと、提案Bにのみ賛成したい議員にとっては、はなはだ悩ましい状況が生じる。もし、重複部分を削除しないままの提案Aをもとに修正案を作成した場合、「市役所機能再編整備基本計画策定業務委託」以外の修正にも賛成することになる。そうしたくない場合、提案Aに反対すると、今度は「一事不再議原則」で、「市役所機能再編整備基本計画策定業務委託」に自動的に賛成することになる。ここで提案Aを提出した会派が、重複部分の削除を認めない場合、議会によっては、付帯決議や修正動議の出し合いで事を収めようとする。「せっかく修正提案を出そうと思ったのに、会議原則のせいで、結局出せないようになっているのではないか」という不満が残る結果となる。
以前の連載(2018年2月26日号)で、千葉市議会では、平成22年度当初予算に対して、2会派から組み替え動議が、1会派から修正案が提出された例を紹介した。いずれも否決。結局、組み替え動議から正式な予算修正案に切り替えて3会派が提出し、この案が可決された事例を紹介した。この事例なども、議会内での調整がうまく行われていれば、もう少しスムーズに事が運んだのだろう。
そもそも、筆者は組み替え動議については否定的であり、組み替え動議を提案するぐらいなら、修正提案として提案するべきであると考えている。組み替え動議は、歳入を考えなくてよい利点はあるが、これまでの連載で述べてきたように、デメリットの方が多い。
松戸市議会が今回お見事だったのは、提案Aを出した会派が、実際の修正提案に際しては、修正案A’として提案したことである。また、議案の表決まで考えて、状況を整理されたようだ。実際の表決結果は、まず「提案Aから提案Bと重複する部分を引いた修正案A’」が採決され、提案者2人のみの賛成で否決された。
次に「修正案B’」が採決され、修正案A’に賛成した2人と修正案B’を提案した6人を加えて8人が賛成して、可決した。続いて、「修正された部分を除く原案」について採決され、10人が賛成して可決した。結果としては、提案Aの提出者にも配慮した形に収まっている。
その後、令和3年3月24日開催の松戸市議会本会議でも修正が確定した。松戸市長も再議請求を行わない意向のようである。