2021.04.26 一般質問
第11回 一般質問を議会の政策資源に ①鷹栖町「週刊誌中づり広告風議会チラシ」とその核心
鷹栖町議会「週刊誌中づり広告風議会チラシ」のインパクト
本例は、見たほうが早い。というより、「一般質問を市民と議会とをつなぐ資源にする」という発想そのものにとっても「見れば分かる」好例である。
図1 鷹栖町議会2019年12月定例会チラシ(表面)
これは、2019年12月議会への傍聴を呼びかける新聞折り込みチラシの表面である。電車内の週刊誌の中づり広告を思わせるデザインで人目を引くだけでなく、一般質問の内容やポイント、それに臨む議員の姿があり、議会が自治体〈政策・制度〉をめぐる議論の場であることがよく伝わる。
図2 鷹栖町議会2020年9月定例会チラシ(裏面)
裏面、こちらは2020年9月議会チラシの裏面だが、議会日程や傍聴のための案内が分かりやすく紹介されている。傍聴してみたい気持ちにさせる、そうでなくとも記載されている内容から「我がまちの課題」を見知ることになるだろう。
「週刊誌中づり広告風議会チラシ」を実現させたもの
筆者もよくこの取組みを紹介し、どうやってこれが生まれたかという質問を受けることも少なくないが、その質問には二つ、この手法がなぜ着想されどう制作されたのかという点と、議会の中でどう合意形成ができたのかという点が重なっている。
前者についていえば、片山議員の発想とデザインがあって、というのが直接の答えになる。チラシを新聞折り込みで配布するということ自体は従前から行われていたという。ただ、それが「この」デザインになったのは、議会の議論の内容つまり論点を伝えようという模索と、片山議員の所属する別の団体で週刊誌中づり広告風の広報物をつくった経験で生まれたという。作業そのものも、同僚議員の通告書から見出しを考え、Adobe Illustlatorを使って、片山議員が制作している。着想については、北海道美深町が、議論の論点を目を引く見出しにした地元経済雑誌風のデザインで「議会報速報版」をつくっていたことや、筆者の「一般質問を議員ひとりのものにしない」という指摘を耳にしたこともかかわっているという。
むしろ後者が、「なぜ議会としてこれを実現できたか」という疑問の方が深いかもしれない。どうしてこんなチラシを議会として出すことができたのだろう、という疑問だ。耳目を引くこと、傍聴者の勧誘に効果的であることは分かる。しかし一方で、チラシの雰囲気や見出しのつけ方、質問する議員(だけ)の写真を載せていることなど、実現に至る前に慎重な「声」が起こることも想定され、「こんな広報をしてみたいが、自分の議会では合意できそうにない。なぜ鷹栖町では」という疑問である。
もちろん、鷹栖町だからできたという事情はある。木下議長によれば、鷹栖町議会選挙は3期連続無投票となっていて、議会に何とか町民の関心を集めたいという危機感が議員に共有されていた、という。また、青野議員によれば、青野議員が議長として議会基本条例について検討し議論した際、その機会には条例をつくらない代わりに、「やれることは何でもやろう」ということが合意されていたという。
こうした「鷹栖町特有の」事情に加え、議長やベテラン議員の「やってみよう」という後押しがあることはもちろん重要だが、片山議員はもう一点、合意形成のための工夫として、実際にチラシ案を作成し「こういうのをつくってみたんですけど」と見せて相談する、「こういうことをやりたい」という気持ちを伝えコメントをもらいながら合意形成につなげていくことを挙げた。こうした工夫は、確かに有効に思われる。
倍増した傍聴者、続く工夫
反応は大きかった。「ふざけすぎている」という声もあったという。このことについて、木下議長は「マイナスの反応でも、反応があるということは見てくれているということ」と受け止めたという。当日は、通常15〜16人の傍聴者が、この議会のときには35人。多くの町民が手にチラシを持ってきていたそうだ。
取組みは続く。そのときに出た「質問内容についてもう少し詳しく分かるものはないか」との声に応え、A4で1枚、三つ折りにできる資料をつくることにした。3分の1には質問議員のプロフィールを、3分の1には議員自身から寄せられた質問の要旨を載せる。この形式であれば、一度、全員分をつくってしまえば、あとは質問する議員が寄せる質問要旨を置き換えるだけで汎用性のある質問資料のひな型とできる。通告書を傍聴資料として渡す議会もあるが、こうした1枚があると、要点が分かりやすく議員の紹介にもなり、かつ作成の手間も少ない、市民にとって「気の利いた」資料になるだろう。