2021.04.26 一般質問
第11回 一般質問を議会の政策資源に ①鷹栖町「週刊誌中づり広告風議会チラシ」とその核心
「ヒロバな議会」の意味
実態としてその機能を発揮できているかどうかは別にして、議会は自治体〈政策・制度〉のありようについて、市民に対し責任を持つ機構である。その責任を果たすために与えられている権限は、何よりもまず「議論し決断する」ことである。それを担うのが議員である。では何について議論し決断するか。大別すれば二つで、議会という自らの機構や運営にかかわることと、自治体〈政策・制度〉にかかわることである。ここでは後者に集中して考えよう。
このとき「ヒロバとして」という前提を思い出したい。もちろんこれは「開かれていること」を示している。見えること、あるいは参加できることである。参加と情報公開だ。誰に対して開かれているのか。それはもちろん、人々にである。ヒロバという言葉には、限定されず開かれていて人々が集う「場」という意味が示されている。多様な人々、もちろん行政を含む様々な組織、そして何より、議会とそれを担う議員に権限を預けたオーナーであるcitizenとしての市民に、開かれているはずだ。多くの議会基本条例でいうところの「開かれた議会」が指すところも同様のイメージであろう。ではその、人々に開かれたヒロバでは何をするのか。「ヒロバとしての議会」なのだから、これももちろん、自治体〈政策・制度〉をめぐるやりとり、音声か非音声かはさておき、「話し合い」対話や議論やもろもろである。
こう書くと、すべての議案を市民参加で決めていくのか? と思われるかもしれない。議案にはすでに決まった「議論して決める」過程があるし、議会の意思決定は議員によって担われていることが変わるわけではない。しかし、本会議だけでなく委員会の公開も広がっているし、市民から意見を寄せられることもあるだろう。議会というヒロバが扱うのはもちろん議案だけとも限らない。議案も含め、「我がまちの政策課題」とそれをめぐる「話し合い」が行われるのが「ヒロバとしての議会」であるといえる。議会という機構の意思決定は、ヒロバに付随あるいは内包されているはずだ。もちろん、現状の自治体議会が、このような存在となるためには、多くの変革を必要とするだろう。しかし、議会基本条例で描かれる「開かれた議会」とは、こうしたイメージであるはずだ。現実との乖離(かいり)をどうするかといえば、イメージを否定するのではなく、どうやってそこに近づけるかの模索である。
一般質問の再定義
さて、このように「ヒロバ」を整理してみた。「ヒロバ」に人々を集めるものは、「我がまちの政策課題」である。それはどこから議会にもたらされるか。市民ルート、議員ルート、行政ルートがあるということをこの連載でもすでに整理したが、「一般質問」とはまさに、あるいは本来、議員が議会にもたらす、議員ルートによる「我がまちの政策課題」提起であり、特に〈政策・制度〉の「執行のあり方」をめぐって提起されるものといえる。自治体〈政策・制度〉の「よき制御」の責任主体を目指す政策議会にとって、一般質問は「議員が議会の一部として自治体〈政策・制度〉を間接的に制御する」仕組みなのである。議会の本来機能を議員がその一部として担う。だから、本会議でその時間が用意されている、と理解することができよう。政策は常に、個人思考を起点とする(松下圭一『政策型思考と政治』東京大学出版会、1991年、第6章)。委員会などで集合的に提起する機会もあってよいが、それぞれに市民から信託を受けた最小単位である議員による提起の機会であることには意味がある。議員にとっては、我がまちの政策課題に取り組む政治家としての、また自治体〈政策・制度〉のあり方に責任を持つ議会の一員として、我がまちの気づきを調査し分析し、〈争点〉を「問い質(ただ)す」機会である。
だが、一般質問という「議員ルート」による政策〈争点〉が、ヒロバで共有され、結果として自治体〈政策・制度〉の「よき制御」につながるか、『議員必携』がいうように、意義があってはなやかだが、花が実をつけるかといえば、そうではない。なぜか。「残念な質問」、「もったいない質問」が少なくないということもあるが、そうなる要因も含めて、最大の問題は、一般質問が「議員ひとりのもの」にとどまっているからである。
鋭い指摘をしている一般質問でも、調査は不十分であってもその気づきが優れた質問があっても、その時間だけ、質問者と答弁者の関係だけでは、「議員おひとりがおっしゃっていることですよね」と流されるか、「聞き置かれる」かで終わってしまう。だが、我がまちの〈政策・制度〉にとって考慮されるべき指摘が放置されることは誰の益になるのか。議員にとっても、議会にとっても、本来「効果の高い〈政策・制度〉を実施すること」に価値を置くはずの行政にとっても、何より市民にとっても、損ではないか。そうなっているのは、一般質問がその議員だけ、その持ち時間だけで「終わって」しまい、その「先」のルートがないためである。さらにいえば、議会としては、ヒロバがヒロバとして機能するためにも、人々と議会がヒロバに集うかすがいは、互いの「共有する関心事」である「我がまちの課題=〈争点〉」と、それを提起し議論する「議員」である。その活動の成果物でもある一般質問を、議員ルートから流れてくる議会の、ヒロバで共有される政策資源とすることができないか。
このように書いても、では具体的にどうするか、それが可能なのか、疑問に思われることが多いだろう。そこで「一般質問を議員ひとりのものでなく、議会の政策資源にする」ことを、取組みとして実践している自治体議会を紹介していきたい。
一般質問をヒロバである議会の政策資源とすると考えると、一つには、「市民と議会をつなぐ資源」として、さらにもう一つは「議員同士の議論と政策制御のための資源」として考えることができる。今回は前者について北海道鷹栖町議会の事例、後者について次回以降、同じ北海道の別海町の事例を紹介したい。
今回紹介する鷹栖町議会の事例については、2020年の夏に北海道で片山兵衛議員、青野敏議員に取材し、本年4月12日に西脇市の林晴信議員の発案で有志の議員とオンライン視察が行われた折に、木下忠行議長、片山議員、青野議員から説明を受け質疑応答を行った内容から、紹介させていただく。関係各位に感謝を申し上げたい。