2021.03.10 コンプライアンス
第25回 政治資金パーティーでのあれこれ(2)
(2)公職者等からの寄附の禁止(公選法199条の2第1項)
公職者等は、選挙区域内の者に対しては、原則として寄附をすることはできません(公選法199条の2第1項)。しかし、政治資金パーティーの対価として正規の代金を支払うことは「会費その他債務の履行としてなされるもの」であって寄附ではありません。
他方で、「ご招待」として支払を免除された政治資金パーティーへの参加に当たり、正規の対価を支払うこと(後援団体が選挙区域内の者に対してする「ご招待」の是非は前述のとおりです)は、議論はあるものの、もともと債務を負っていない以上、対価の支払は債務の履行とはいえず寄附に当たると考えられます。
政治資金パーティーへの出席に当たり主催者に対して祝儀として金銭を渡すことは異論なく寄附となります。
ただし、寄附となる場合でも、主催者が政党その他の政治団体又はその支部である場合は、選挙前の一定期間を除き例外的に許されています(同項ただし書、199条の5第3項、4項)。
(3)パーティー券購入者からの寄附
ア 出席予定がないのに購入したり過大に購入することは寄附となるか
政治資金パーティーのパーティー券を購入することは、対価の支払であって通常、寄附には当たりません。しかし、購入者が当該政治資金パーティーに参加する意思も可能性もないのに購入したり、購入者が個人なのに何十枚も購入するなど明らかに過大な量を購入する場合、問題はないのか議論されています。
パーティー券をたくさん購入しても、購入者が取引先に配ったり、家族や友人を誘って出席したりする可能性があります。
そのため販売する主催者としては、販売時、購入者が購入した枚数に応じて出席するつもりで購入したのか、もともと出席する意思もなく寄附の意図で購入したのかを知ることはなかなか困難です。
この点、購入者である会社が当初から出席しないことを見越しつつ購入したパーティー券が規正法上の寄附に当たるかにつき争われた東京高等裁判所の平成28年7月19日判決(判時2355号76頁)が参考となります。
上記裁判例では、結論としては寄附であることを否定しましたが、その判断理由において、「パーティー券の購入代金の支払は、その代金額が政治資金パーティーへの出席のための対価と認められる限り、『寄附』には当たらないが、パーティー券の購入代金の支払実態、当該パーティー券に係る政治資金パーティーの実態、パーティー券の金額と開催される政治資金パーティーの規模、内容との釣り合い等に照らして、社会通念上、それ自体が政治資金パーティー出席のための対価の支払とは評価できない場合にはその支払額全部が、また、その支払額が対価と評価できる額を超過する場合にはその超過部分が『寄附』に当たる」として、パーティー券購入の場合にも寄附となる場合があることを示しました。
さらに同判決は、購入者が政治資金パーティーへの出席を予定しないことを認識しながらそのパーティー券を購入したとしても、「購入されたパーティー券に出席を予定しないものが含まれていることを主催者が個別的に把握し、その寄附性を認識していない限り、パーティー券購入者についても、『寄附』に当たるものということはできない」と述べ、規正法上の「寄附」となるには、主催者と購入者の双方が寄附性を有する購入であることを認識している必要があると判示しています。
学説上議論のあるところですが、上記裁判例の趣旨からすると、例えば、パーティー券を販売したが実際には開催しなかった場合や、定員制のパーティーであるにもかかわらず明らかに出席者が定員を上回る数のパーティー券を販売した場合、主催者も購入者も政治資金パーティーへの参加の対価としてパーティー券を購入するものではないことを認識した上で購入してもらったような場合等には、パーティー券の購入が「寄附」となる可能性があると考えられます。
また、政治資金パーティーの規模(収容規模や準備内容)に比して極端に販売枚数が多いケースや、金額が高価に過ぎるケースなどでは、主催者と購入者の認識等も踏まえて「寄附」と認定される可能性もあると考えます。
いずれにせよ、主観的な部分は認定が難しく、通常の販売方法で寄附であると認定されるケースは少ないと思われます。
イ 政治資金パーティーが中止となった場合の返金処理
パーティー券の対価は政治資金パーティーに参加できる権利としての対価ですので、政治資金パーティーが中止となった場合、すでに販売したパーティー券については返金をすることになります。この場合、購入者から返金しなくてよいといわれた場合の対価の取扱いはどうなるのでしょうか。
中止後もパーティー券の対価を返金しなかった場合、主催者の手元には購入者の支払った対価がそのまま残り、購入者から対価相当の金銭の寄附(公選法179条2項)を受けたのと同じことになります。
購入者が個人であれば、主催者が公職者等でない限り(規正法21条の2第1項)、寄附として受け取ることができます。
他方、購入者が政治団体以外の会社、労働組合、職員団体その他の団体等で、かつ主催者が政党又は政治資金団体以外のときは、規正法21条1項、4項により政治活動に関する寄附を受けることができませんので、主催者が返金しないことは違法となります。 2 事前運動の禁止(公選法129条)
公選法は、選挙の告示前から投票日前日を除く期間の選挙運動すなわち事前運動を禁じています(公選法129条)。
政治資金パーティーにおいて、特定の公職者等への激励や参加者に対する支持・支援の呼びかけをされることも多いかと思いますが、 もともと支持・支援している後援者のみで行う閉鎖的な決起集会ではなく、公開され一般の参加者もいる中で、①特定の公職の選挙について、②特定の立候補者や立候補予定者のために、③投票を得させる目的で、④選挙に有利となるような言動をした場合、事前運動に該当する可能性があります。
3 あいさつ状の禁止(公選法147条の2)
政治資金パーティー終了後、来場者や名刺交換等をした人に対してお礼を伝えたくなるのは人情です。
あいさつ状について公選法は、公職者等が年賀状や暑中見舞い等の時候のあいさつ状を出すことを原則として禁止しています(公選法147条の2)。
しかし、公職者等以外は対象でなく、また時候のあいさつ状ではない慶弔や激励、感謝のためのあいさつ状については法改正時に除かれており、認められるものと考えられます。
そのため、政治資金パーティー終了後に主催団体が来場者やパーティー券購入者に対してお礼状を送付することは問題ありません。
また、公職者等が政治資金パーティーの来場者や名刺交換をした相手に対して、来場や名刺交換のお礼状を送付することもできます。
もっとも、当該お礼状の内容や態様が事前運動とならないように注意すべきは当然です。