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2021.02.25 政務活動費

第17回 議員の責任

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3 議員と刑事責任

 議員活動における問題行為について、刑事事件として責任を追及される例も後を絶たない。
 その典型が収賄罪である。
 刑法が定めている収賄罪の類型については前回で触れたが、その基本類型となるのが同法197条1項の単純収賄罪である。そこでは、収賄罪が成立するためには、その職務に関し、賄賂を収受・約束・要求がなされることが必要であり、職務とは、公務員としての地位に伴う執務とされ、法令上の根拠がある一般的職務権限がある場合だけでなく、それを超えた事実上の職務行為についても、判例は、「職務と密接な関係のある行為」であることを理由として収賄罪の成立を認めてきている。
 自治体議会議員の職務とされるのは、議会・委員会の権限とされるものに関与することが基本的なものとなり、審議・調査における質疑、討論、表決のほか、選挙、議案や動議の提出、請願の紹介、文書質問などが該当する。ただ、実際の議員の活動は、それにとどまるものではなく、議員は、非公式の会議で議論等を行ったり、議会外で他の議員や委員に働き掛けを行ったり、執行機関に働き掛けを行うなどしており、それらが刑法上の「職務」といえるかどうかが問題となりうる。
 それらをいくつかの類型に分けてみると、第1の類型は、議員が非公式の会議においてそのメンバーとして発言・調査・決定等を行う行為である。常任委員会の委員をもって常任委員会協議会を構成し執行機関の側からの予算の執行状況等の報告や意見の聴取、協議、調査などを行う慣行が存在する下で、建設常任委員会協議会の一員であった市議会議員が、消防自動車の視察調査を行い、その結果を協議の上、善処方の要望書が市長に提出されるに際し、消防用器具販売会社の代表取締役から消防自動車の機種・発注業者の選定等に好意ある取り計らいを受けたい趣旨であることなどを知りながら現金を収受した事件で、収賄罪の成立を認めた第一審・控訴審に続き、最決昭和46年10月26日判時647号91頁は、同協議会の一員として、市が購入する消防用機械器具につき必要な調査等の事務に従事することは、市議会議員と建設常任委員会の委員としての職務に由来し、慣例上職務と密接な関係を有する行為であるとした。
 第2の類型は、議員が他の議員や委員に働き掛けや根回しをする行為であり、これには、議会や委員会の権限とされている事項について議員や委員が議会・委員会外で他の議員や委員に根回しをする行為、当該委員会の委員でない議員が委員に対し働き掛けをする行為などがありうる。これらについては、戦前の大審院時代から収賄罪の成立が認められてきたほか、市議会議員が会派内において議長選挙に関し所属議員の投票を拘束する趣旨で候補者を選出する行為について、最決昭和60年6月11日刑集39巻5号219頁は、議員の職務に密接な関係のある行為として職務行為に当たるとの判断を示した。会派における党議形成のために働き掛けを行い最終的には議会・委員会での決定を方向付けようとする行為も、「職務」とされうるとするものである。
 また、国会議員の贈賄事件であるが、大阪タクシー汚職事件・最決昭和63年4月11日刑集42巻4号419頁は、衆議院議員に対し、委員会で審査中の法案につき関係業者の利益のため廃案・修正になるよう委員会委員を含む他の議員に対してその旨説得勧誘することを請託して、金員を供与したときは、当該議員が委員会委員でなくても贈賄罪が成立するとの判断を示した。さらに、KSD事件・最決平成20年3月27日刑集62巻3号250頁では、参議院議員が、本会議の代表質問においてある施策の実現のため有利な取り計らいを求める質問をされたい旨の請託を受け、さらに他の国会議員に対し国会審議の場において同旨の質疑等を行うよう勧誘説得されたい旨の請託を受けて金員を受領したことが、その職務に関し請託を受けて賄賂を収受したものにほかならないとされている。
 第3の類型は、議員が執行機関に対し働き掛けをする行為であり、これには提出する議案の内容に働き掛けをする行為と行政の執行について監督等の形で関与する行為がありうる。前者については、大審院時代の大判昭和10年9月2日刑集14巻900頁、後者については、市議会議員でありその後市長となった被告人が、民間業者から請託を受けて、浄水プラントの市立学校への導入を図るべく市議会で質疑を行ったり市職員に対しその導入を働き掛けるなどし、その見返りに業者から現金を受領したことにつき受託収賄、事前収賄、あっせん利得の罪の成立を認めた名古屋高判平成28年11月28日判時2366号55頁(最決平成29年12月11日により確定)などの裁判例がある。
 第4の類型は、法規上議会や委員会の議決事項とはされていない事項について議員や委員として議会や委員会の審議・議決に参与する行為であり、これについては、法規上議決事項とされているものへの関与と実質的に違いはないものとされる可能性が高い。
 以上のように、裁判所は、収賄罪との関係では、自治体議会の議員の職務に関し広く捉え、その成立を認めてきているといえる。

17-2表 収賄罪とあっせん利得罪の主な類型

 

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