2021.02.25 政務活動費
第17回 議員の責任
次に、政務活動費をめぐっては、近年、各地の自治体で、使途基準に違反するような不正・不当な支出が問題とされ、住民から、住民監査請求や住民訴訟を提起される事例が数多く見受けられるようになり、住民監査請求で返還勧告、住民訴訟で返還を命じる判決が出ることなどにより、返還を迫られる例が続出しているほか、不正の支出に絡んだ議員が辞職を余儀なくされるケースも見られる。
その例は枚挙にいとまがない状況だが、裁判所は、政務活動費の趣旨と定められた使途基準などに照らし、その支出の違法性について判断しているといえる。
例えば、弘前市政務調査費住民訴訟・仙台高判平成19年4月26日裁判所ウェブサイトは、政務調査費がこれについて定める地方自治法や条例・規則の趣旨に従って適正に使用されなければならないことは明らかとした上で、議員が整理保管を義務付けられている領収書等の資料に照らし、社会通念上市政に関する調査研究に資する適正な支出と認めることができない支出は、使途基準に合致しない違法な支出というべきであり、議員が政務調査活動に必要な費用として支出したことにつき、それを裏付ける資料がなく、議員においてこれを積極的に補足する説明もしないような場合には、当該議員は、当該支出が使途基準に合致しない違法な支出とされることを甘受せざるをえないとの判断を示している(最決平成19年10月26日により確定)。
また、かすみがうら市政務調査費住民訴訟・最判平成22年3月23日判時2080号24頁は、議員が任期満了直前に政務調査費から物品を購入するなどの事実が認められ、調査研究のための必要性に欠ける支出であったことがうかがわれる場合は、特段の事情のない限り、その支出は使途基準に合致しない違法なものと判断されるとするとともに、事実の存否や特段の事情の有無を十分に審理することなく使途基準に反しないとした原審の判断は違法として、裁判所が使途基準に基づき必要性を十分に審査すべきとしている。この場合に、その「特段の事情」の立証責任は、自治体の長(実際には補助参加人である議員)の側にあると解されている。
さらに、愛知県政務調査費住民訴訟で、名古屋高判平成27年12月24日判時2296号42頁は、会派の事務所賃借料及び自動車リース料への政務調査費の支出について、その支出が不可欠であるような特別の事情の存在を所属議員らが主張立証しない限り、本来の趣旨・目的に充てられていないとの推認を免れず、本件では補助参加人である議員らは会派からその所属議員が個別具体的に委託された特定の政務調査活動を遂行するために、実際どの程度の時間にわたり事務所又はリース自動車を使用しなければならなかったのかといった必要性を個別具体的に主張立証しておらず、そのような推認は妨げられないとして、その全額について県に不当利得返還すべきとした(最決平成28年12月15日により確定)。
他方、目黒区議会議員が区民として住民訴訟を提起し、その費用を政務調査費から支出したところ、区長から当該支出の返還を命ずる処分を受けたため、同処分の取消しを求めた訴えにつき、最判平成25年1月25日判時2182号44頁は、本件支出のうち①訴訟費用(印紙代及び切手代)については、条例及び規程が定める使途基準の中の調査研究費に該当せず、使途基準の他の項目の支出にも該当するものでもないから、使途基準に該当しない支出というべきであるが、②委員会の議事の録音テープを文書化するための費用と関係者の証言及び供述を文書化するための費用については、使途基準の資料作成費又は広報費の項目に該当する支出とみることができ、使途基準に適合しない支出ということはできないとして、①の支出に係る部分については請求を認容し、②の支出に係る部分については請求を棄却した。
このほか、政務調査費の国内外の観光目的の視察への充当を違法としたものとして、既に触れた東京高判平成25年9月19日や、東京高判平成29年4月26日D1-Law.com判例体系 判例ID28260021(最決平成29年12月20日により確定)などがある。