2021.02.25 政務活動費
第17回 議員の責任
(2)不当利得の返還
自治体議会議員の民事責任を追及する手段としては、住民監査請求・住民訴訟により、自治体の長に対し、議員に損害賠償請求をするよう求めるだけでなく、不当利得返還を求めることも可能である。
不当利得の返還は、法律上の正当な理由もなく利益を得て、他人に損失を及ぼした者から不正に取得した利益の返還を求めるもので、議員の研修旅行や海外派遣、政務活動費などをめぐり、住民訴訟が提起されるとともに、不当利得の返還や利息分も含む損害賠償が認められることが少なくない。
まず、住民から厳しい目が向けられるようになっている議員の海外派遣について、最判昭和63年3月10日判時1270号73頁は、議会は、自治体の議決機関としての機能を適切に果たすために合理的な必要性があるときは、その裁量により議員を海外に派遣することができるとする。しかしながら、現実には、単なる海外旅行となっている事例も散見され、徳島県吉野町議会海外旅行費用等住民訴訟・最判平成9年9月30日判時1620号50頁は、議会での議員研修旅行の決定に当たり、外国の行政事情につき議員が知識を深め議会の活動能力を高めるため外国における産業、経済、文化に関する行政の視察を目的としながら、旅行計画の立案を任された旅行業者が目的に関係する行動計画を一切含めずに遊興を主たる内容とし観光に終始する日程での計画を提出したのに対し、議員総数20人のうち少なくとも旅行に参加した14人が事情を承知の上で旅行実施の決定に加わったなどの事実関係の下においては、議会による研修旅行の決定には裁量権を逸脱した違法があるとして、請求を認容した。なお、原審の高松高判平成5年1月28日判タ823号179頁は、海外派遣が目的、動機、態様等に照らし裁量の範囲を著しく逸脱し、若しくは裁量権の濫用にわたる場合には、その派遣決議は違法となるとの考え方を示している。
また、県議会議員らの海外研修としてのアメリカ、エジプト等の訪問、調査研究としての韓国、屋久島の訪問に対する旅費等の支出が違法であるとして、議員らに損害賠償・不当利得返還の請求を知事に求めた山梨県議会海外視察費等住民訴訟につき、東京高判平成25年9月19日判例地方自治382号30頁は、本件海外研修及び調査研究は実質的には観光中心の私的旅行というべきものであっておよそ議員としての職務ということはできないから、「職務を行うため要する費用」とはいえず、各議員は旅費及び通訳料等を県に返還する義務があるとするとともに、韓国、屋久島の視察は、議員活動の基礎となる調査研究活動の基盤の充実に資するものとは認められず、政務調査費から充当された視察費は違法な支出に当たり、参加議員らは県に対し不当利得額の返還をすべきとした(最決平成26年5月19日により確定)。
他方、全国都道府県議会議員軟式野球大会に参加した議員への旅費等の支出が違法であるとして議員個人に不当利得の返還を請求した徳島県議会野球大会旅費等住民訴訟で、最判平成15年1月17日民集57巻1号1頁は、大会の内容が単に議員が野球の対抗試合を行うものにすぎず、他の都道府県議会議員との意見交換や競技施設の視察等の公式行事も予定されていなかったなどの事実関係の下では、大会の参加は議員としての職務とはいえず、参加議員は県に対して支給を受けた旅費相当額の不当利得返還義務を負うとして、請求を認容した。
なお、旅行の事実がないのに県議会議員への旅費の支給が慣例化していた事案につき知事と当時の議長・議会事務局長に対して損害賠償を求めた愛知県議会カラ出張住民訴訟では、名古屋地判平成8年3月25日判タ904号241頁が事務局長に対する請求を認容したが、控訴審の名古屋高判平成9年9月30日判タ979号124頁は、議員らが利息を付して出張旅費を返還したことによりその分の旅費に係る損害は存在していないとして、当該部分を取り消し、請求を棄却し、最判平成11年2月9日判例地方自治191号21頁もその判断を支持し、上告を棄却している。