2021.02.25 政務活動費
第17回 議員の責任
まず、国家賠償法の「職務を行うについて」に関し、判例は、客観的に職務執行の外形を備える行為をした場合をいうとし、外形標準説を採用している(4)。そして、市議会議員が市議会の一般質問において他の議員が行った発言により名誉が毀損されたとして損害賠償と謝罪広告を請求した事件で、最判平成15年2月17日D1-Law.com判例体系 判例ID28081402は、「職務を行うについて」は客観的に職務執行の外形を備える行為をした場合をいうとの前提に立ち、「市議会議員が議会内における一般質問の際に行った発言は、その発言内容にかかわらず、職務を行うについてされたものと認められる」としている。また、市長が議員の市議会における発言によって名誉を毀損されたとして当該議員に謝罪広告を求めた城陽市謝罪広告請求事件・大阪高判平成25年5月9日D1-Law.com判例体系 判例ID28223658も、当該議員は、「市議会定例会の一般質問において、シルバー農園違法建築について及び被控訴人の資産公開について質問した際に本件発言に及んだものであり、事前の通告書で質問内容として挙げていた項目と明らかに関わりのない発言をしたとはいえないので、その外形から観察して、単に一般質問の機会を利用して本件発言をしたにすぎないものではなく、城陽市の市議会議員に付与された権限を逸脱したということはできない」とし、上記最高裁判決を引用しつつ、その発言は「職務を行うについて」されたものであるとした。
以上によれば、議会において正規に認められた議員の発言については、特段の事情がない限り、職務行為に該当するということができる。
次に、いかなる場合に議会における議員の発言が違法となり、自治体が賠償責任を負うことになるかであるが、国家賠償法1条1項の「違法」につき、判例は、権利ないし法益の侵害があることを前提として、公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の義務に違背することをいうとしており(職務行為基準説)、公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく、漫然と当該行為をしたと認めうるような事情がある場合に限り、違法の評価を受けるものとしている(5)。
そして、自治体議会の議員については、国会議員に関する最判平成9年9月9日民集51巻8号3850頁を踏まえ、付与された権限の趣旨に明らかに背いた行使と認められる特別の事情がある場合に、自治体が賠償責任を負うとする裁判例が見られる。
最高裁平成9年判決は、国会議員が国会で行った質疑等において、個別の国民の名誉や信用を低下させる発言があったとしても、これによって国家賠償法1条1項にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が生ずるものではなく、その責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いて行使したと認めうるような特別の事情があることが必要としているものだ。これは、国会議員の「質疑等は、多数決原理による統一的な国家意思の形成に密接に関連し、これに影響を及ぼすべきものであり、国民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を反映させるべく、あらゆる面から質疑等を尽くすことも国会議員の職務ないし使命に属するものであるから、質疑等においてどのような問題を取り上げ、どのような形でこれを行うかは、国会議員の政治的判断を含む広範な裁量にゆだねられている事柄とみるべきであって、たとえ質疑等によって結果的に個別の国民の権利等が侵害されることになったとしても、直ちに当該国会議員がその職務上の法的義務に違背したとはいえない」との考え方によるものである。
このような考え方は、自治体議会の議員についてもある程度は当てはまるといえるだろう。