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2021.01.29 コンプライアンス

第16回 議員活動と政治倫理

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8 口利きや不当要求行為の防止

 議会の議員による不当な口利きを防止するため、議員からの口頭による要望等があった場合にそれを受けた職員にその記録を義務付け、その記録を情報公開の対象とすることを制度化する自治体もあり、神戸市の「市政の透明化の推進及び公正な職務執行の確保に関する条例」などのように、いわゆるコンプライアンス条例あるいは口利き防止条例を制定するところも見られるようになっている。
 コンプライアンス条例は、法令遵守の徹底と不正行為の防止のため、公益通報制度(内部告発制度)の整備、不当要求行為(10)への対処などについて定めるものである。後者としては、口利き防止のため要望等の記録、不当要求行為に対する対応として市の執行機関等や公正職務審査会等への報告、公正職務審査会等による審査、執行機関等による要求者への警告、事実の公表などが規定されている。
 コンプライアンスは、自治体議会の議員にも当然求められるものであり、その観点から、議員の側の不当な働き掛けや要求が問題となるものであることがもっと自覚されるべきだろう。住民の要望を行政に伝えるのも議員の役割ではあるが、その地位や権限を笠(かさ)に着た職員に対する威圧・恫喝(どうかつ)や、癒着などといったことは決して許されるものではない。

9 政務活動費の使途と公開

 地方自治体は、条例の定めるところにより、議員の調査研究その他の活動に資するため、必要な経費の一部として会派又は議員に対し政務活動費を交付することができるが、政務活動費の交付の対象・額・交付の方法と政務活動費に充てることができる経費の範囲については条例で定めるものとされており、各自治体では、条例で具体的な使途基準を定め、あるいは条例の委任を受けて規則・規程等で使途基準を定めるなどしている。
 政務活動費については、税金で賄われるものであり、その使途の透明性が確保される必要があることから、交付を受けた会派又は議員は、条例の定めるところにより、政務活動費に係る収入・支出の報告書を議長に提出するものとされており、また、議長は、政務活動費の使途の透明性の確保に努めるものとされている(地方自治法100条15項・16項)。地方自治体においては、収支報告書等につき情報公開制度を通じて公開したり、独自の閲覧制度を設けるなどしてきたが、住民への説明責任を果たすためにもさらにその透明性を高めることが求められており、すべての支出について領収書等の原本や写しを(さらには会計帳簿も)収支報告書に添付させ、それらも公開対象としたり、インターネットを通じて公開するところも増えている。このほか、政務活動費を用いて行った活動の内容を記載した活動報告書、視察研修の日程・内容・成果等を記載した視察報告書の提出と公開を定める自治体もある。
 政務活動費については、不正支出が後を絶たず、住民の厳しい批判やチェックを受けるようになっており、議員の倫理観が問われるものとなっている。政務活動費の公開については、なお動きが鈍い議会も見受けられるが、政務活動費は公金であり、これを使途基準に従い適正に使用することは当然のことであり、その公開によって、不正支出の防止だけでなく、議員活動に対する住民の理解の促進にもつながるはずのものだ。
政治倫理をめぐっては、事件が起きるたびに、その重要性が叫ばれ、規律が強化されるものの、時がたつにつれ、意識が薄れ、対応や制度が建前化・形骸化するといったことが繰り返されてきた。政治は倫理だけで動くものではなく、また、政治をめぐっては様々な思惑や利害がうごめくものである以上、クリーンな政治というのは実際にはなかなか難しいのも確かである。しかし、そのような事件や疑惑の繰り返しによって、政治不信の蓄積・増幅、政治や政治家の信頼度の低下・イメージの悪化を招いてきたのであり、政治に対するシニシズムなども生じてきていることを深刻に受け止めるべきである。少なくとも、政治の内輪の論理・常識と一般の国民・住民の常識とがいつの間にか乖離(かいり)してしまっている現状にもっと目を向けていくことが必要ではないだろうか。


(1) この点について、資産公開制度は議員や長の適格性を判断する材料となるものであり、職員についてはプライバシーや個人情報の保護の必要性が高いとして、資産公開の対象を公選によらない職にまで拡大することへの批判も見られるが、公務員の不祥事が後を絶たないことなどを背景に、少なくとも住民による解職請求の対象となる者や公営企業の管理者についてはその対象とすることも許容されるという見解が有力である。
(2) 政治資金規正法においては、制定当初は、政治資金の流れを国民に公開し、国民の不断の監視と批判を仰ぐということを通じて、政治活動の公明と公正を確保することを主眼としていたことから、「規制」ではなく「規正」が用いられたものである。
(3) 経常経費についてはその総額と項目別の金額のみの記載とされているが、資金管理団体に関しては1件5万円以上の人件費以外の経常経費についても明細の記載と領収書等の写しの添付が必要とされている。
(4) 土地、建物、建物の所有のための地上権・土地の賃借権、100万円超の動産、普通預金等を除く預貯金、金銭信託、有価証券、出資による権利、100万円超の貸付金、100万円超の敷金・施設利用権、100万円超の借入金の概要を記載。
(5) 政治資金規正法や公職選挙法では、政治家を指すものとして、「公職の候補者」という文言が用いられる。公職とは衆議院議員、参議院議員、自治体の議会の議員・長の職を指し、これには、立候補の届出をして候補者となったもののほか、候補者となろうとする者、公職にある者が含まれる(公職選挙法の寄附の禁止では同列に取り扱われている)。
(6) 総枠制限は、A)政党・政治資金団体に対するものについては、個人が2,000万円まで、会社・労働組合等が資本金額や組合員数等に応じ750万円~1億円までとされており、B)その他の政治団体・公職の候補者に対するものについては、個人が1,000万円までとされている。そのほかに、個別制限として、個人が政党・政治資金団体以外の政治団体及び公職の候補者に対してする寄附は150万円まで、政党・政治資金団体以外の政治団体間でなされる寄附は5,000万円までとされている。
(7) 政治資金パーティーとは、対価を徴収して行われる催物で、当該催物の対価に係る収入の金額から当該催物に要する経費の金額を差し引いた残額を当該催物を開催した者又はその者以外の者の政治活動(選挙運動を含む)に関し支出することとされているものをいう。
(8) なお、政治団体以外の者が政治資金パーティーの対価に係る収入の金額が1,000万円以上である特定パーティーになると見込まれる政治資金パーティーを開催する場合には政治団体と同様に報告等の義務を負う。
(9) 刑法7条は、この法律において公務員とは、国又は地方自治体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいうとしており、自治体議会の議員がこれに含まれることはいうまでもない。
(10) 不当要求行為は、議員によるものに限られるものではないが、神戸市の上記条例によれば、①正当な理由なく、(ア)特定のものに対して著しく有利な又は不利な取扱いをすること、(イ)特定のものに対して義務のないことを行わせ、又はその権利の行使を妨げること、(ウ)職務上知ることのできた秘密を漏らすこと、(エ)執行すべき職務を行わないこと、(オ)その他、法令等に違反すること又は職員等の職務に係る倫理に反することを行うことを求める行為、②職員等の公正な職務の執行を妨げることが明白である要望等をする行為、③暴力又は乱暴な言動その他の社会的相当性を逸脱する手段により要望等をする行為とされている。


 

バナー画像:尾瀬©ridge-SR(クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0国際))を改変して使用

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