2021.01.29 コンプライアンス
第16回 議員活動と政治倫理
5 政治資金規正
政治とカネの問題について規律しているのは、政治資金規正法である。政治資金規正法は、政治活動の公明と公正を確保し、民主政治の健全な発達に寄与することを目的とするものであり、「政治資金の収支の公開」と「政治資金の授受の規制」の二つの柱からなる。
これらのうち、「政治資金の収支の公開」は、政治団体の収入、支出及び資産等を記載した収支報告書の提出を政治団体に義務付け、これを公開することによって、国民の監視の目にさらし、その批判を仰ぐものであり、「政治資金の授受の規制」は、政治活動に関する寄附について、対象者による制限、量的・質的制限など、その授受を規制することによって癒着や政治腐敗を排除しようとするものである。
政治資金規正法(2)は累次の改正により規制色を強めてきているほか、その違反については、従来は軽微な形式犯といった見方が一般的であったものの、近年は政治腐敗などの防止のための実質犯との見方も強まりつつあるともいわれる。
(1)政治資金収支の公開
政治上の主義・施策の推進・支持・反対や、特定の公職の候補者の推薦・支持・反対の活動を本来の目的とする団体とその活動を主たる活動として組織的かつ継続的に行う団体は「政治団体」とされ、その組織の日又は政治団体となった日から7日以内に、都道府県の選挙管理委員会又は総務大臣に届け出なければならず、また、公職の候補者が、その者が代表者である政治団体のうちから一の政治団体をその者のために政治資金の拠出を受けるべき政治団体として指定したものが「資金管理団体」とされる。政治団体は、届出をしない限り、いかなる名義をもってするを問わず、政治活動のため寄附を受けることも支出することも禁止されている。
政治団体の会計責任者は、毎年12月末現在で、その政治団体に係るすべての収入、支出及び資産等の状況を記載した収支報告書を原則として翌年3月末日までに、都道府県の選挙管理委員会又は総務大臣に提出することが義務付けられている。主な報告事項としては、①寄附(年間5万円を超えるものについて寄附者の氏名等も)、②政治資金パーティーの対価に係る収入(20万円を超えるものについて支払者の氏名等も)、③支出(政治活動費のうち1件5万円以上のものについては支出を受けた者の氏名等の明細と領収書等の写しの添付が必要)(3)、④資産等(4)である。
政治団体の収支報告書の要旨は官報又は都道府県の公報により公表されるが、インターネットの利用その他の適切な方法により報告書を公表するときは、要旨の公表は不要とされている。また、総務省又は都道府県選挙管理委員会において、政治団体の収支報告書等は公表の日から3年間閲覧に供されるほか、写しの交付も認められる。総務大臣又は都道府県選挙管理委員会に提出された領収書等の写しについても、情報公開制度により公開される。
(2)政治資金の規制
政治資金の授受につき、会社・労働組合等は、政党・特定の政党支部・政治資金団体以外の者に対する政治活動に関する寄附をしてはならず、これに違反して寄附した者のほか、会社・労働組合等に対して政治活動に関する寄附を勧誘・要求した者は処罰の対象となる。また、公職の候補者(5)の政治活動に関する寄附も制限され、何人も、公職の候補者の政治活動に関して金銭や有価証券による寄附をしてはならず、これに違反した者や寄附を受けた者は処罰されるが、政党がする寄附と政治団体に対する寄附や公職の候補者に対する選挙運動に関する寄附は認められる。
寄附については、量的制限も設けられており、政治活動に関して一の寄附者が年間に寄附することのできる金額が制限されるが、これには、一の寄附者ができる年間寄附総額の規制(総枠制限)と、一寄附者から一受領者への年間寄附額の規制(個別制限)とがある(6)。
特定の者からの寄附等の規制である寄附の質的制限もあり、①国や自治体から補助金等を受けている法人、②いわゆる赤字会社、③外国人・外国法人等からの寄附や、④他人名義及び匿名の寄附が禁止され、違反行為をした者のほか、それらの適用を受ける者であることを知りながら勧誘・要求した者や寄附を受けた者も処罰の対象となる。このほか、政治活動に関する寄附が自発的意思に基づいて公正に行われることを確保するため、寄附のあっせん及び関与の制限として、寄附者の意思に反するチェック・オフによる寄附のあっせんの禁止、寄附等への公務員の関与制限なども規定されている。
他方、政治資金パーティー(7)に関する制限として、政治資金パーティーについては、政治団体による開催(8)、その対価に係る収入の政治団体の報告書への記載・提出、一の政治資金パーティーの対価の支払の金額の合計が一定額以上の場合の氏名等の公開や制限などが規定されている。
政治資金の運用についても制限されており、政治団体はその有する金銭等の運用、公職の候補者は政党から受けた政治活動に関する寄附その他の政治資金に係る金銭等の運用について、金融機関への預貯金、国債証券、地方債証券の取得など、安全かつ確実なものに限定されており、株式運用等を行うことは禁止されている。
政治資金規正法における収支報告や寄附制限等の履行を担保するため、①無届団体の寄附の受領や支出の禁止違反、②収支報告書の不記載・虚偽記載、③寄附の量的制限違反、④寄附の質的制限違反、⑤あっせん・関与の制限違反について、禁錮・罰金の罰則が規定されており、寄附の量的、質的制限等違反の場合には没収・追徴の対象とされるほか、これらの罪を犯した者は、一定の期間、選挙権及び被選挙権が停止される。