2021.01.29 コンプライアンス
第16回 議員活動と政治倫理
4 地方自治法の政治倫理にかかわる制度
(1)請負等の禁止・除斥
議会運営の公正とともに事務執行の適正を確保するために、議員は、当該自治体に請負をする者・その支配人や、主として同一の行為をする法人の取締役、執行役、監査役等たることができず(地方自治法92条の2)、これに該当するときは議員の職を失うことになる。
さらに、内容は様々だが、自治体によっては、政治倫理条例で、議員・長の親族企業や実質経営企業の当該自治体との契約禁止として、例えば、議員の配偶者・2親等以内の親族など特定の親族が経営する企業や議員が実質的に経営に関与する企業は、地方自治法の規定の趣旨を尊重し、災害など特別の理由がある場合を除き、当該自治体の工事等の請負契約・下請契約・委託契約を辞退しなければならず、該当する議員はその辞退届を徴するなどして提出するよう努めるべき旨を規定するほか、違反の疑いがある場合については、一定数以上の有権者や議員による議長への審査請求、政治倫理審査会の審査とその結果の公表、違反議員に対する警告・辞職勧告等の措置などを規定しているところもある。この点、その憲法適合性が争われた広島県府中市議会議員政治倫理条例事件で、最判平成26年5月27日判時2231号9頁は、地方自治法92条の2の規制の潜脱のおそれや特別の便宜などにより公正が害されるおそれ、受注自体が市民の疑惑や不信を招くこと、辞退届の提出は努力義務にとどまり義務不履行の場合の措置も強制力がないこと、議会の内部的自律権に基づく自主規制としての性格などを指摘し、規制に基づく議員活動の自由の制約は、正当な目的を達成するための手段として必要かつ合理的な範囲であり、憲法21条1項に違反しないとし、2親等以内親族経営企業の経済活動の制約も、憲法22条1項及び29条に違反しないとした。
なお、地方自治法による請負等の禁止については、議員のなり手不足対策の観点から立候補環境の整備として、その範囲の明確化などの緩和策も検討されている。
他方、議長・議員が、自己又は父母・配偶者・子・孫・兄弟姉妹の一身上に関する事件や、それらの従事する業務に直接の利害関係のある事件については、その議事に参与することはできない(同法117条)。これは、個々の具体的な事件の審議について、身分上、職業上その他特別の関係を有する議員が、当該事件の審議に加わることで、その事件について公正公平な審議に基づいて議決することが困難となる場合もありうることから、そのような困難を排除し、適正な議事運営を担保しようとするものだ。除斥されるのは、本会議の議事であるが、委員会についても同様に委員会条例等で規定されているのが通例だ。
除斥される「議事」は、議会の意思決定とこれに至る一連の過程を指し、議決だけでなく、同意、許可、承認、認定、決定等も含まれる。また、「一身上に関する事件」については、自己等に直接的かつ具体的な利害関係を有する事件が該当し、「従事する業務」については、報酬を得て従事する業務に限られるものでなく、名誉職であっても、社会生活上の地位に基づいて継続的に行う業務や事業も含まれる一方、「直接の利害関係」については、利害はあっても、それが間接的又は反射的なものにすぎない場合は含まれない。審議や議決に加わるだけでなく会議に出席することも制限するものであるが、議会の同意があれば、会議に出席し発言することは可能である。
これに違反した議決は、当然には無効とはならないものの、違法な議決として違法再議の対象となりうるほか、瑕疵が重大と判断される場合には議決が無効とされることもありうる。
(2)秩序の維持・品位の保持等
議員は、地方自治法の規定や会議規則に違反するほか、議場の秩序を乱してはならず、これに反する場合には、議長は、制止・発言の取消しを命じ、それに従わない場合にはその日の会議での発言禁止や議場外への退去をさせることができる(地方自治法129条1項)。また、会議や委員会において、議員は、無礼の言葉を使用し、他人の私生活にわたる言論をしてはならない(同法132条)。議員の議会での発言には表現の自由の保障が強く及び発言の自由が保障されているとはいえ、議事に関係のない個人の問題を取り上げて議論したり、議事の場で無礼の言葉を用いて人格攻撃などをしたりすることは許されるものではない。会議や委員会において侮辱を受けた議員は、これを議会に訴えて処分を求めることができる(同法133条)。
これらに反する場合には、懲罰の対象となる。