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2021.01.29 コンプライアンス

第16回 議員活動と政治倫理

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2 政治倫理基準・行為規範

 政治倫理の確立のため、政治倫理基準や行為規範を定め、それに違反する行為等に対する一定の措置を規定する方法が採用されており、国会においては、各議院で政治倫理綱領、行為規範が定められ、行為規範では、職務に関して廉潔を保持し、いやしくも公正を疑わせるような行為をしてはならないとされるとともに、一定の役職にある間における報酬を得ての企業・団体の役員等との兼職が禁止されているほか、行為規範に著しく違反し、政治的道義的に責任があると認められるかどうかを審査する機関として議員により構成される政治倫理審査会が設置されている。
 他方、地方自治体においては、政治倫理条例などで、議員や長に対し、常に住民全体の利益を目指し、特定の利益の実現を求めてそれを損なうことのないよう、一定の行為の禁止について定め、その遵守を義務付けるとともに、これを担保するために、第三者機関として政治倫理審査会等を設け、住民等からの請求により政治倫理基準に違反するかどうかを審査し、一定の措置を勧告できることとしている例などが見られる。
 条例で政治倫理基準を定める場合には、この方式を最初に導入した熊本市の条例に倣い、自治体が行う許認可・契約に関し特定企業等のために有利な取り計らいをしないこと、政治的・道義的批判を受けるおそれのある寄附等を受けないこと、その地位を利用して金品の授受をしないこと、住民の代表としてその品位・名誉を損なう行為をしないこと、その職務に関し不正の疑惑をもたれるおそれのある行為をしないことなどが規定されることが多いが、職員の職務執行への不正な働き掛けの禁止、職員の採用や人事への介入の禁止、ハラスメント等の人権侵害のおそれのある行為の禁止の追加など、その拡充を図るところもある。
 また、政治倫理基準違反について、住民等の請求によりこれを審査する審査会を設けるのではなく、住民や議会の請求により住民に対する説明会を定めるところも見受けられる。議員や長が、刑法197条から197条の4までの収賄等の罪、あっせん利得処罰法の罪その他の職務関連の犯罪により起訴され、あるいは有罪判決を受けたにもかかわらず、なお引き続きその職にとどまろうとするときに、住民に対する説明会を開くことを規定するものであり、説明会やそこでの住民の質問によるプレッシャーを背景に自ら身を処すことを促そうとするものだ。ただ、判決が確定していない以上は、無罪の推定を受けるのが刑事法の原則であり、その運用によっては人民裁判的なものとなり刑事被告人の人権との関係で問題を生じる可能性もないわけではない。
 なお、収賄罪やあっせん利得罪による有罪判決が確定したときには、刑の執行中だけでなくその後5年間(被選挙権についてはそれに加えさらに5年間)あるいは刑の執行猶予中は、公職選挙法11条1項4号により選挙権・被選挙権が停止され、その議員・長は身分を失うことになる。

3 資産公開制度

 資産公開制度は、一定の公職にある者に対して資産、収入等を報告する義務を課し、それを公表することによって、衆人の監視の下に置き、これらの者の地位、権限、影響力の不正な行使を未然に防止しようとするものである。これに対しては、対象となる者からしばしばプライバシーの権利や個人情報保護との関係が問題とされるが、公職にある者については、その地位の公的な性格や政治における公正の確保といった公共の利益の観点から、その保護されるべき範囲は狭くなるものと考えられており、公開情報が高度にセンシティブなものにわたらないなど適正なものにとどまる限りは、特定の公職者の財産状況を報告させ、これを公表することには基本的に問題がないということができる。
 資産公開制度の対象となるのは一定の公職者ということになるが、国会議員資産公開法の規定との関係から市町村の中には、議会の議員を対象としていないところも少なくない。他方、一部の自治体では、条例によって、資産公開の範囲を公選によらない副知事・副市町村長、行政委員会の長などの特別職にも拡大したり(1)、議員や長の配偶者、扶養・同居の親族にまで広げたりしているところもある。配偶者等を対象とするのは、家族名義による資産隠しの防止などをねらいとするものだが、家族といえども公職者とは独立した個人であり、プライバシーや個人情報の保護との調和にも留意することが必要となる。家族も対象に含める場合には、その対象範囲や公開内容については、その目的との関係から必要な範囲にとどめることが求められる。
 また、公開の内容については、国会議員資産公開法では、土地、建物、当座・普通以外の預貯金などの資産等の所有の状況を記載した資産等報告書、前年分の所得等に係る所得等報告書、報酬を得て就いている会社その他の法人の役職等に関する関連会社等報告書を提出するものとされている。このうち、所得等報告書、関連会社等報告書は毎年4月に提出することとされているが、資産等報告書については、任期の開始の日における所有状況を報告した後は、毎年新たに有することとなった資産等について資産等補充報告書の提出が義務付けられており、これらについては7年間の保存と閲覧の制度が規定されている。
 多くの自治体では、これに準拠した内容となっているが、一部の自治体では、公開対象資産の最低金額を引き下げたり、一定額以上の当座・普通の預貯金や貯蓄性保険も対象に加えたり、減少した資産についても資産の補充報告の内容に加えたり、当該自治体の税の納付状況や一定額以上のもてなしを所得等報告に加えたりしているところも見られる。また、かつて国会議員の株取引が問題とされたことから、株取引に関する報告書や、一定の法人その他の団体の役職員に関する兼業・兼職報告書の提出を義務付けたりするところもある。このほか、資産等の報告書の内容について、調査・審査するために政治倫理審査会等の機関を置く例もあり、その場合、住民による調査請求が認められることが少なくない。

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