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2020.10.26 コンプライアンス

第23回 選挙運動時の買収罪

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解説2 設問の検討
 それでは、以上を踏まえて今回の設問を検討しましょう。

Q①について
  講師に対して報酬を支払うことは、勉強会の講師としての業務に対する対価である限りは、「寄附」(法199条の2)に当たりませんし、買収罪が成立することもありません。
 しかし、報酬が対価性を欠く場合には、正当な対価を超えた部分について寄附の問題が生じます。
 また、講師が選挙区域内の有権者であり、Bさんが当該講師から選挙での投票を得る目的で相当性を欠く対価を支払っていた場合、講師が支払の目的を認識して報酬を受ければ、Bさんに事前買収(供与)罪(法221条1項1号)、講師に利益収受罪(法221条1項4号)が成立します。講師が目的を認識していなかった場合は、Bさんに事前買収(申込)罪(法221条1項1号)が成立します。

Q②について
 Bさんは、選挙区域内在住の同級生に食事をごちそうしています。このごちそうが当初から同級生に対して自身の当選を得る目的で行われていたものであったときは供応接待に当たり、当初は各自が支払う予定の食事会だったところ、会計の段階で、上記目的で同級生におごったのであれば債務の免除になります。
 そして、同級生がBさんの上記目的を認識して供応接待又は債務の免除を受けたのかどうかにより、供応接待の場合はBさんに事前買収(供応接待)罪又は事前買収(供応接待申込)罪が、債務の免除の場合はBさんに事前買収(供与)罪又は事前買収(申込)罪が成立します(法221条1項1号)。
 一方、同級生においては、Bさんの当選を得る目的を認識していた場合に限り、利益収受罪(法221条1項4号)が成立します。
 なお、供応接待や財産上の利益の供与をした場所が選挙区域であるX市外であっても、同級生が選挙人である以上、買収罪の対象となりますし、同級生が市議会議員選挙で実際にBさんに投票したかどうかにかかわらず成立します。
 また、Bさんは選挙告示前に同級生に対して市議会議員選挙での投票を呼びかけており、事前運動の禁止(法129条)にも抵触します。

Q③について
 Bさんは、自身に投票したことに対する報酬の趣旨で選挙人である同級生に食事をごちそうしています。当初から上記報酬目的をもって食事会を開催したのであれば供応接待、支払の段階で上記報酬目的でおごったのであれば債務の免除による財産上の利益の供与として事後買収罪(法221条1項3号)が成立します。
 相手方である同級生は、Bさんの上記報酬目的であることを知って供応接待を受け又は債務の免除を受けたのであれば、利益収受罪(法221条1項4号)となります。ただ、設問のような場合、当選祝賀会としての場で当選人であるBさんから食事をごちそうになっているということからすれば、同級生にはBさんの投票に対する報酬目的につき認識があったと推認されやすいと考えられます。
 さらに、Bさんの開いた食事会は当選祝賀会であり、選挙後の挨拶行為として当選祝賀会の開催は認められていません(法178条5号)。

Q④について
 Dさんは地元の町内会長であり、当該町の下水道整備に関しては地方的・社会的な特殊の直接利害関係があるといえます。かかるDさんに対し、Bさんに当選を得させるために票のとりまとめを依頼することは、上記利害関係を利用してBさんへの投票を促す行為であり、票のとりまとめを依頼したCさんに、Dさんに対する利害誘導罪(法221条1項2号)が成立します。
 この点、Dさんの町内で下水道の整備が問題となっていた場合には、Bさんの一般的な政見を表明したにすぎず、特殊の直接利害関係を利用して勧誘したとまではいえないと考える余地もあるかのように思えます。しかし、設問では、CさんはDさんに対し、殊更に町内についてのみ有利に取り扱うことを述べて利益を強調して投票を得ようとしており、一般的な政見の主張と見ることはできないと考えます。
 なお、Bさんが、Cさんが上記行為を行うことを知っていて容認していたような場合は、Bさんにも同罪が成立する可能性があります。
 一方、Cさんの依頼に応じたDさんには、利害誘導応諾罪(法221条1項4号)が成立します。これはDさんがCさんの利害誘導に応じたことで成立し、結果的にDさんがとりまとめをしなくても、又はとりまとめに失敗したとしても結論に変わりはありません。
 さらに、CさんはBさんの選挙対策本部長であり、Bさんの選挙運動の中心として全体を指揮する立場にあったのですから、Bさんの選挙運動の総括主宰者(法221条3項2号)といえます。そのため、Cさんが利害誘導罪により有罪判決を受けて確定した場合、Bさんは連座制の適用により当選無効と5年間の立候補制限となります(法251条の2第1項1号)。

Q⑤について
 Eさんは選挙区域外に居住する者であり選挙人ではありませんが、Aさん陣営の選挙運動の監視を行っていることから、選挙運動者に当たります。ライバル陣営の監視は直ちに候補者の投票を得るために「直接又は間接に必要かつ有利な……諸般の行為」ともいえなさそうですが、買収罪における選挙運動はかなり広く捉えられており、設問のような行為を行う者も買収罪においては選挙運動者に含まれるとする判例もあります。
 選挙運動者であるEさんは、Bさんに対してその日当すなわち金銭を求めており、Eさんの行為は利益要求罪(法221条1項4号)に当たります。
 なお、BさんがEさんの要求に応じていれば、Eさんは利益収受罪(法221条1項4号)、Bさんには事後買収罪(法221条1項3号)が成立します。

Q⑥について
 FさんはBさんの選挙運動に携わっており、選挙運動者です。BさんがFさんの求めに応じ、選挙後にその報酬として金銭を支払うことは、事後買収(供与)罪(法221条1項3号)となります。
 他方で、報酬を要求したFさんには利益収受罪(法221条1項4号)が成立します。Fさんの報酬を要求した行為は供与罪に吸収され、別途要求罪は成立しません。
 Fさんが報酬としての金銭を受け取った以上、上記の罪は成立し、その後、Fさんが返還してもなかったことにはなりません。
 また、Fさんは報酬を受け取ったときは秘書であるため、法251条の2第1項5号により連座制の適用があるようにも思われます。しかし、Fさんが秘書になったのはBさんの当選後であり、選挙当時は一選挙運動者にすぎません。Fさんが当時実質的な秘書としてBさんの政治活動を補佐し、Bさんや統括管理者等と意思を通じて選挙運動をしていたり、秘書又はこれに類する肩書きを使用していたのでない限り、同条項の適用はないものと考えます。

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