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2020.09.25 コロナ対応

第22回 新型コロナ禍における選挙運動

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解説2 設問の検討
 それでは、以上を踏まえて今回の設問を検討しましょう。

Q①について
 マスクやフェイスシールドを選挙運動員に支給し又は無償で使用させることは、形式的には選挙運動員に対する物品や財産的利益の供与であり、禁止される寄附(法199条の2)ともいえます。しかし、これらを感染予防目的で選挙運動期間中に限り支給や貸与をする場合は、例えば選挙運動員が共通して着けるはちまきやTシャツ、設営のためのガムテープやボールペンなどの備品のように、選挙運動に伴う物品を選挙運動員に使用させることと同様に考えられ、法199条の2で禁止される「寄附」には当たらないものと考えます。
 しかし、マスクやフェイスシールドを選挙運動中以外でも利用させたり、持ち帰りを認めるといったことになれば、私的な利用を認める点で財産上の利益を供与するものとして寄附となる可能性があります。
 また、必要以上にマスクを支給するような場合にも、その態様から物品の寄附があったと評価されるおそれもあります。
 そのため、選挙運動員に対して、選挙運動の際にマスクやフェイスシールドを支給・貸与した場合は、選挙運動以外では使用しないようにさせるとか、終了時に回収し又は廃棄するなど、取扱いには注意をすべきです。

Q②について
  新型コロナウイルス感染予防のため店頭にアルコールスプレーを設置している店舗などもありますが、個人演説会場の来場者に設置したアルコールスプレーを使用させることは寄附(法199条の2)に当たらないでしょうか。この点、アルコールスプレーの使用によって何らかの財産上の利益の移転が生じるものとは考えにくく、使用させることは寄附には当たらないと考えられます。
 一方で、アルコールスプレーそのものを配布するなどすれば、物品の寄附であり許されないのはいうまでもありません。

Q③について
  個人演説会場へ来場した有権者に新型コロナウイルス感染予防のためマスクを提供して着けてもらうことは、Q①の場合と同じく寄附とならないのではないかとも思えます。
 しかし、Q①の場合は選挙運動員で選挙運動を行う側であったのに対し、本設問では一般の有権者で選挙運動を受ける側であるという違いがあります。解説1の1(2)イで検討したとおり、マスクは衛生用品であり、使用すれば他人が使うことは考えにくく、提供した時点でその所有権は事実上、受領者(有権者)に移転すると考えるのが素直です。
 そうであれば、設問のような場合は、マスクという物品を有権者に交付したものとして、「寄附」に当たると考えられます。
 また、マスクの提供がAさんの投票獲得により当選を得る目的でなされた場合は、買収罪(法221条1項1号)の成立可能性もあります。

Q④について
  動画を放映(映写)することができるのは、解説1の2(1)で解説したとおり、「屋内の演説会場内」かつ「演説会の開催中」に限定されています(法143条1項4号の2)。街頭演説は屋外でなされるものですから当然、法の要件を満たしていません。したがって、設問の行為は認められず、もし行えば文書図画の掲示制限違反(法143条2項)となります。

Q⑤について
 選挙運動用ビラの頒布方法は、新聞折込みの方法のほか、選挙事務所内・個人演説会場内・街頭演説の場所での頒布に限定されています(法142条6項、法施行令109条の6第3号)。
 支援者に郵送することや受け取った支援者が従業員に配ること、近所のポストにポスティングすることはいずれも「頒布」であり、上記制限との関係で認められていません。よって、設問のような頒布方法をとることはできません。

Q⑥について
  「頒布」とは、直接手渡しする方法に限られません。一定の場所に設置して自由に持ち帰ることができるようにすることも「頒布」であり、選挙事務所や演説会場内ではない喫茶店や商店の店舗にて自由に持ち帰ることができるよう備え置くことは、文書図画の頒布制限(法142条6項)違反です。

Q⑦について
  法は特定の候補者のための選挙運動に関する事務を取り扱う場所を選挙事務所としており、設置できる者や設置数(原則1か所)を制限しています。
 本設問の選挙はがき用名簿のとりまとめや宛名書き作業、選挙運動用ビラの証紙貼付け業務はいずれも選挙運動に関する事務に当たり、これを継続的に行う場所は選挙事務所となります。そのため、業務を割り振って担当者の自宅にて分散して行った場合、それぞれの自宅が選挙事務所に当たるとされ、上記制限に抵触する可能性があります。
 なお、手伝っている家族に18歳未満の者がいた場合は、その手伝っている内容が機械的な証紙貼りなどの単純な労務にとどまらず選挙運動であると評価された場合、満18歳未満の者の選挙運動の禁止(法137条の2第1項)にも抵触します。

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