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2020.09.25 コロナ対応

第22回 新型コロナ禍における選挙運動

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解説

解説1 選挙運動とコロナ対策
 1 感染防止対策用品と寄附の禁止
 2 文書図画の掲示・頒布
 3 テレワークや自宅での作業と選挙事務所
解説2 設問の検討

解説1 選挙運動とコロナ対策
 新型コロナウイルス対策として、「3密」(密閉空間・密集場所・密接場面)を避けることが呼びかけられています。
 しかし、選挙運動はいかにたくさんの人と会い、政策と主張を伝え、支持を広げていくかが重要ですので、有権者と直接接触する握手や声を張り上げる街頭演説、たくさんの有権者が集う個人演説会等どうしても「3密」になりがちです。
 インターネット選挙運動が解禁され、これを活用する方法もありますが、従来式の選挙運動に当たって感染対策を行っていくことができないか、一方で対策が法に抵触しないか検討してみましょう。

1 感染防止対策用品と寄附の禁止

(1)物品提供と寄附の禁止の一般論
 法は、「金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付、その供与又は交付の約束で党費、会費その他債務の履行としてなされるもの以外のもの」(法179条)を「寄附」と定義しています。
 そして、法199条の2第1項で、公職者及び公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(以下「公職者等」といいます)による当該公職者等の選挙区又は選挙区域(以下「選挙区域」といいます)内にある者に対する寄附を原則として禁じています。
 これは、その交付等の目的にかかわらず財産的価値のあるものや対価性を欠くものの供与・交付又はその約束を禁ずるものです。
 また、公職者等ではなく、後援団体についても法199条の5第1項が選挙区域内にある者に対する寄附を原則として禁止しています。

(2)マスク・フェイスシールド等の支給や提供
 感染対策として一般的に用いられているマスクやフェイスシールドなどを選挙運動員や有権者らに着けてもらうことは、感染「しない」、「させない」の両面で有効と考えられています。
 こうしたマスク等を選挙運動関係者や有権者等に支給し又は提供することは、財産的価値のある物品の無償貸与や贈与に当たる可能性があり、上記寄附の禁止との関係で注意する必要があります。
ア 選挙運動関係者への貸与や支給
 選挙運動期間中に活動する選挙運動員や事務員、労務者などはその活動範囲や活動方法から、どうしても「密」になりやすいといえます。
 そこで、マスクやフェイスシールドなどを使用させて感染予防に努めることが考えられます。選挙運動期間中において、感染防止の観点から選挙運動関係者にマスクやフェイスシールドを貸与し、又は使い捨てマスクや布マスクを給付して使用させること自体は、選挙運動に当たってよく使用されるおそろいのTシャツやはちまきといった用具やボールペン等の備品と同様に考えられ、「寄附」には当たらないものと考えます(もしこれが当たるとすれば、選挙運動期間中に着用するTシャツやボールペンなども「衣類や筆記用のボールペン(インク)を無償で利用させた」として寄附の問題になりかねません)。
 もっとも、これは選挙運動期間中に感染予防目的で使用するためであり、必要以上に支給したり選挙運動終了後に返却を求めず各人に持ち帰らせるなどといった場合は、「寄附」となりうるものと思われます。
イ 有権者への提供
 街頭演説や個人演説会に訪れた有権者や選挙事務所を訪問した方へマスクを提供するような場合はどうでしょうか。
 この点、非常に難しいところです。私見ですが、マスクのような衛生用品は、来所者名簿に記名するボールペンなどのように、一時的に利用させた後に返還を受けて繰り返し他人が利用することは想定されていません。とすれば、マスクを有権者に提供した時点で返却されることはほぼなく、事実上マスクの所有権は受け取った有権者に移転すると考えるのが素直です。
 また、選挙運動関係者への貸与等の場合は、選挙運動を行う際の用具や備品といった見方もできますが、有権者は選挙運動を積極的にする側ではなく、同様に見ることはできません。
 そうすると、基本的には有権者に対するマスクの提供は物品の供与であり、「寄附」に当たるといわざるをえないのではないかと考えます。
 仮に、演説等や来訪目的が終了した際に直ちに返却を受ける(処分する)ということであれば、会場ないし事務所の衛生環境保全のための備品利用と同視して、選挙運動関係者の場合と同様に「寄附」には当たらないと考えることもできますが、実際には、返却を受けたかどうかなどを確認することは困難であり、一般的な評価としてはやはり有権者への「寄附」であるとされる可能性が高いと思われます。

(3)アルコールスプレーや除菌シート等の設置
 ウイルスの飛散と付着への対策として、アルコールスプレーや除菌シートの利用も多くの施設などで見られるところです。
 これらを個人演説会場や選挙事務所に設置して来場者や利用者に使用させることについては、「寄附」には当たらないものと考えます。これらは会場ないし選挙事務所の衛生環境保全のために使用されるもので、マスク等の提供の場合と異なり、噴霧又は拭き取りにより直ちに使用目的が達せられてしまうものである上、使用者に対し何ら財産上の利益を供与するものともいえないからです。
 もっとも、アルコールスプレーや除菌シートの持ち帰りをさせるような場合は、物品の供与そのものであり認められません。

2 文書図画の掲示・頒布
(1)演説動画の放映
 街頭での演説は道行く有権者に主張や政策を直に伝えるための効果的な手段であるとともに、候補者としての顔やキャラクターを売り込む重要な機会です。
 しかし、新型コロナウイルスは飛沫による感染があるとされているため、マイクを使ったとしても話をすれば飛沫が生じることは避けられません。
 そこで、あらかじめ収録した動画を放映するということが考えられます。インターネットを通じた動画配信が認められていることは前回(第21回)の記事でも触れましたが、街頭でも利用できるでしょうか。
 結論をいうと、「できません」。その理由は、法が明確に定めているからです。法143条1項4号の2は、放映(映写)が認められる場合について、「屋内の演説会場内」かつ「演説会の開催中」と要件を限定しています。
 したがって、屋外で行われる街頭演説では動画を放映することはできないのです。また、屋内であっても、演説会の際でなければ映写できません。
 これらの場合は、フェイスガードやシールドを利用した飛沫対策をして、従来どおり生の声で主張や政策を訴えることになります。

(2)ビラの配布方法(備え置きや分散配布)
 ビラの配布に当たっては、どうしても有権者の方々との直接接触が必要となり、密を警戒する方もいるかもしれません。
 そのため、ビラを直接手渡すのではなく、配布場所を設置して自由に持ち帰ることができるようにしたり、一定の者にとりまとめて渡し、そこから個別に渡してもらうなどの方法をとることはできるでしょうか。
ア 頒布とは
 まず、法142条で規制されている文書図画の「頒布」とは、不特定又は多数人に配ることのほか、特定少数の人への配布でも不特定又は多数人に配布されることが予定又は予想される状況での配布をいいます。
 そのため、誰でも持ち帰ることができるようまとめて置いておくことや、一定の者にとりまとめて渡すこと、さらにはとりまとめた者が個別に配布することも「頒布」に当たります。
イ 配布の方法
 そして、政治活動用ビラと異なり選挙運動用ビラの配布方法については、法が限定的に定めています。認められている方法は、
 ① 新聞折込みの方法(法142条6項)
 ② 候補者の選挙事務所内での頒布(法142条6項、公職選挙法施行令(以下「法施行令」といいます)109条の6第3号)
 ③ 個人演説会の会場内での頒布(同)
 ④ 街頭演説の場所での頒布(同)
となっています。
 したがって、上記②③④以外の場所で選挙運動用ビラを誰かに渡したり、備え置いたり、さらにはポスティングをすることは認められていません。

3 テレワークや自宅での作業と選挙事務所
 新型コロナウイルス対策として、人と人との接触を減らすためテレワークや在宅勤務の取組みが一気に広がりました。
 選挙運動においてもこうした考えを取り入れ、感染拡大防止のためテレワークや在宅で選挙運動の事務等を行うことができるでしょうか。
 この点で問題となるのは、選挙事務所に関する規制です。

(1)選挙事務所の定義
 「選挙事務所」とは、特定の候補者のための選挙運動に関する事務を取り扱う一切の場所的設備をいうとされており(大審院昭和7年12月24日判決参照)、「選挙事務所」の名称がなくとも実質的な機能の点から判断されます。
 ここでいう「特定の候補者のための選挙運動に関する事務」とは、選挙運動の計画立案や出納業務にとどまらない広い意味での事務を指しますので、ポスターの貼付け場所管理、選挙はがきの宛名書きや発出チェック、電話作戦の進捗管理、選挙運動員や労務者の勤怠管理業務なども含まれます。もっとも、一定の継続性が必要ですので、演説会直前の登壇者打合せなどの単発的なものは入りません。

(2)選挙事務所の数の制限
 選挙事務所の数は法131条、法施行令109条などで決められており、原則として1か所となっています。

(3)設置と届出
 選挙事務所の設置は、地方議会議員及び首長選挙では候補者か候補者の推薦を届け出た者に限られます(法130条1項4号)。
 また、選挙事務所を設置したときは、選挙管理委員会に届けなければなりません(法130条2項)。

(4)選挙運動事務をテレワークや在宅で行うことは難しい
 選挙事務所の定義に基づけば、選挙運動に関わる多くの作業・業務が「選挙運動に関する事務」に含まれうることとなり、設置者や設置数の制限の観点からも、現時点では選挙運動に関する事務を分担し、テレワークや在宅などで行うことは難しいと考えざるをえません。
 結果的に、選挙運動に関する事務を行う場所すなわち選挙事務所では「密」が生じやすいこととなります。選挙運動計画などに関する秘密が漏れないよう配慮しながらこまめに換気を行ったり、人と人との接触機会を減らすような対応、パーテーションの設置などの対策を講じていくことになると考えられます。

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