2020.08.11 医療・福祉
第51回 発声障がいのある議員の一般質問について代読も認めるべきか?
こうしたことを踏まえ、回答はCとしたいと思います。Bについても一応コメントしておきましょう。「議場は神聖な場所である」というのは、住民の代表が住民のための議論をする場所としての重要性を述べたものでしょう。そうであれば、その住民の代表が意見を述べるために手助けをする人が議場に入ることは、何の問題もないはずです。むしろ、住民の代表が意見を十分に述べることができないようにする行為こそ、神聖な場所をおとしめる行為であるといえばいいすぎでしょうか。
実務の輝き・提言
上記判決では、その時点での鎌倉市議会、静岡市議会、岡崎市議会、岐阜県(旧)蛭川村における取組みも紹介されています。その後、2015年に聴覚に障がいがある議員が誕生したことをきっかけにして、東京都北区議会でITコミュニケーションツール(音声同時翻訳ソフト、音声読上げソフト)が整備され話題となりました。また、議員が手話でした質問を議場後方の通訳者が「声」にして伝えるという明石市議会の取組みもニュースとなりました。登壇者の発言を傍聴人に文字情報モニターで表示する仕組みや、ネット中継への手話通訳導入も広がりを見せています。難聴者の聴こえの支援のために議場に磁気ループ(2)を設置したり、貸出しをしたりすることは、もはや標準装備なのかもしれません。
ただ、その一方で財政の壁が立ちはだかることもあります。議場は庁舎の上層階にあることが多いものです。さすがにエレベーターがない庁舎は少ないものの、エレベーターが車いすでは乗りにくい古いタイプのものであることもあります。また、車いす用の傍聴席をつくりたくとも、スペースが十分にないという議会もあるでしょう。議会として問題を感じていながら、予算の制約で解決できないことは事実としてあるだろうと思います。ただ、そうであっても、できることはまだまだあります。当事者たちの声に耳を傾けてみると、ちょっとした工夫で問題を解決したり、和らげる方法も見つかるものです。
例えば、明石市議会は政務活動費の手引きを見直し、「手話通訳者等の配置・同行にかかる謝礼、交通費、宿泊費」を研究調査費として充当できることを明らかにしました。また、次の三郷市議会のように、場合によっては挙手による表決を行えるよう、会議規則を整備しておくことも考えられます。会議規則では起立の方が数を確認しやすいという事情で、起立での表決を基本としていることでしょう。しかし、起立が厳しい議員もいるかもしれませんし、今後生じるかもしれません。
◯三郷市議会会議規則
(起立による表決)
第70条 議長が表決をとろうとするときは、問題を可とする者を起立させ、起立者の多少を認定して可否の結果を宣告する。
2 前項の規定にかかわらず、議長は、必要があると認めるときは、問題を可とする者を起立させることに代えて、議長が指定する方法により表決をとることができる。
3 略
多様性こそ、議会の力の源泉です。議会のバリアフリー化は、議会の存在意義を高める取組みにきっとなるはずです。
(1) 「合理的配慮は、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること(略)が求められるものです。重すぎる負担があるときでも、障害のある人に、なぜ負担が重すぎるのか理由を説明し、別のやり方を提案することも含め、話し合い、理解を得るよう努めることが大切です」(内閣府リーフレット「『合理的配慮』を知っていますか?」6頁)。
(2) 補聴器をされている方などが必要な音をクリアに拾えるようにする装置のこと。