2020.08.11 医療・福祉
第51回 発声障がいのある議員の一般質問について代読も認めるべきか?
議会事務局実務研究会 吉田利宏
お悩み(合理的配慮さん 50代 議会運営委員長)
市議会の議会運営委員会の委員長をしています。前回の選挙で発声に障がいのある議員が当選されました。現在、音声変換装置を付けたパソコンを持ち込んで一般質問を行っていますが、併せて家族を1人代読者として認めてほしいとの申出を受けています。一般質問の最初の質問は音声変換装置を使うことで問題はないとのことですが、再質問の際が困るとのことです。手の震えもあり、持ち時間の中でなかなかパソコン操作ができず、家族の口を借りて再質問以降の質問を行いたいというのです。「家族なら私の話し方に慣れているので的確に聞き取ることができる」とのこと。議長からは「議会運営委員会で十分議論してくれ」と指示をもらっています。各派の意見も聞いて対応したいのですが、委員長としてどのような姿勢で臨むべきか教えていただければと思います。
回答案
A 議会の裁量の問題なので、それぞれの会派の意見が一致することが一番重要であり、その範囲において申出を認めていくべきである。
B 議場は神聖な場所であり、事務局職員は別として、議員以外の者が立ち入ることは許されないということを前提に考えるべきだ。
C 法律も施行されており、本人の申出を受けて議会が合理的配慮を示すことが重要だ。議会の都合を優先しすぎると、批判の対象となる。
お悩みへのアプローチ
昨年(2019年)11月、 筋萎縮性側索硬化症(ALS)のため発言が難しい参議院議員が委員会で質疑に臨んだことが話題となりました。「冒頭、パソコンの意思伝達装置による音声で『新人議員として未熟だが皆さまの力を借りながら精いっぱい取り組む』と抱負を述べた。その後は秘書の代読で質問し、障害のある児童生徒の教育環境改善などを求めた」(日本経済新聞電子版2019年11月7日)。
参議院では、大型の車いすのまま本会議に出られるよう議席が改修され、2021年の通常国会を目指して本会議場で演壇に登るためのスロープも建設中とのこと。何かと動きが遅い国会の方がバリアフリーという点では一歩先行く展開になっています。自治体議会でもバリアフリー化は大きな関心事になっていることでしょう。ただ、一筋縄ではいかないのが自治体議会。「これまでそうした例はない」といういつもの反対意見はもちろん、「少し優遇しすぎではないのか?」とか「財政的に難しいのではないか?」などなど、慎重意見も出てくるはずです。議会をリードする立場の議員からすれば、どんなことを頭に置いて、議会のバリアフリー化の議論を進めていったらいいか、頭を痛めているかもしれません。
回答へのアプローチ
実は、お悩みと同じような事例を扱った判例があるのです。ある議会で発声障がいがある議員が、第三者の代読による発言を求めました。しかし、議会が認めず、この議員は損害賠償請求訴訟を起こしました。この件では、議会運営委員会が音声変換機能付きのパソコンの持ち込みを認めたものの、実際にこの機能がどんなものか、議員に操作できるかなどを十分に調査していませんでした。その後、議会運営委員長が音声変換機能付きのパソコンを手配したり、業者による操作のデモンストレーションを行ったりしました。また、代読も、再質問について認めました。裁判所は代読が認められるようになるまでの期間について、市の責任を認め賠償を命じています(名古屋高判平成24年5月11日判時2163号10頁)。
この判決では、議員の発言の権利、自由を侵害したものとして賠償が認められました。確かに、発言の方法はそれぞれの議会が決めることかもしれません。しかし、発言する機会そのものが奪われるとしたら話は別です。それはもう議会内のこととはいえなくなります。「議会で決めるべき問題だ」とか「議会の裁量に任されている」という議論もされやすいですが、この判例に照らすと、その主張は世間では通用しそうにありません。回答案のうち、Aはとれないでしょう。
その後、さらに状況は変わりました。2016年4月1日に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が施行され、自治体(自治体の機関である議会も含む)は、7条2項により、「合意的配慮」(1)をもって臨むことが求められることになりました。
◯障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)
第7条 略
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。