2020.06.04 コンプライアンス
第21回 自宅等でできる政治活動【コロナ禍によるステイホーム期間での注意点】
解説3 設問の検討
それでは、以上を踏まえて今回の設問を検討しましょう。
Q①について
ホームページやSNSを利用する「ウェブサイト等を利用する方法」による政治活動につき公選法は規制をしていません。したがって、公職者等が政治活動としてウェブサイト等を利用して情報発信をすることについては問題ありません。むしろ、行政情報に近い公職者等が有権者や地域のために正確な行政情報や各種手続の案内を掲載することは、有用な活動といえます。
Q②について
政治活動用ビラの配布は純粋な政治活動です。公選法は政治活動に関する電子メールの送信を規制しておらず、電子メールを送信することも政治活動用ビラを添付ファイルとして添付することも問題ありません。また、選挙運動用メールではありませんので、受信者は送られてきた電子メールそのものや添付ファイルを第三者に転送することも可能です。
Q③について
ツイッターを含むウェブサイト等は、双方向での情報のやりとりをすることができるツールです。これを利用し、発信のみならず有権者や地域の声を拾い上げることも有意義な政治活動といえます。もっとも、やりとりの内容が特定の選挙に関するものである場合、事前運動の禁止(公選法129条)に抵触するおそれがありますので、注意が必要です。
Q④について
動画の配信もウェブサイト等を利用する方法であり、政治活動の範囲では規制されていないことから、配信することが認められています。また、演説内容が現在選挙運動期間中の他の候補者を応援する内容のものであっても、公選法142条の3により可能です。しかし、演説内容が現在選挙期間中でない特定の選挙に関わるもの(例えば自身の次回の選挙に関わる内容)であれば、事前運動の禁止に抵触するおそれがあります。
Q⑤について
単に自身が食事をした感想を日常的に書いている程度の範囲であれば、これによって紹介された店に対し財産上の利益を与えたとはいえないと考えられます。しかし、特定の店舗を支援する意図で殊更に宣伝したり、閲覧者に対し割引サービスを実施したような場合など、その目的や態様などによっては、当該店舗又は割引を受ける閲覧者に対する寄附(法199条の2第1項)となる可能性もあります。
Q⑥について
特別定額給付金は、市区町村が事業主体となり、国が全額補助をする制度で、自動的に支払われるものではなく市区町村に申請することが要件となっています。また、総務省が公表する申請書(見本)にも受給を希望しない者のチェック欄が設けられています。したがって、特別定額給付金を申請して受け取るかどうかは各人の意思に委ねられています。
そうすると、これを受給しないとしても、それは単に権利を行使しないにすぎず、市区町村に対して債務の免除、すなわち寄附をしたことにはならないと考えられます。
Q⑦について
受け取った特別定額給付金は、公職者等の財産になりますが、それをどのように使うかは本人の自由です。したがって、受給した特別定額給付金について、公選法199条の2に抵触しない寄附であれば認められます。例えば、政党や政治団体に加え、自身の選挙区域外にある個人・会社やNPO法人等の団体等に寄附をすることが可能です。
しかし、個人については、自己の選挙区域内に滞在する者に対しては行えず、また選挙区域外であっても選挙区域内に住所を有する者に対しては寄附することはできません。会社・団体については、選挙区域内に支店や支部・事務所などがある場合には寄附ができません。
Q⑧について
議員報酬の受取りを拒否することは、Y市が支払わなければならないAさんへの議員報11
酬支払債務の免除であり、またいったん受け取った報酬をY市に返還すれば、返還した金額がAさんからY市への寄附(公選法199条の2第1項)に該当するため公選法違反となります。合法的に対処するのであれば、条例等により報酬額の減額を定めることが必要です。
Q⑨について
ふるさと納税は、支払った金額について自己負担額を除き本来自身が支払う所得税や住民税から控除されるものであり、支払う税金を他の自治体に振り分けただけなのではないかとも思われます。しかし、総務省のサイトでも明示されているとおり、ふるさと納税の実態は「寄附」です。したがって、公職者等がふるさと納税を行う場合には、公選法199条の2の規制に服することになります。
AさんはX県内にあるY市の市議会議員ですから、選挙区域であるY市を包摂するX県に対して寄附をすることは許されず、ふるさと納税もできないことになります。
Q⑩について
中止した政治資金パーティーのチケット代を返還することは、パーティー券購入者に何らの財産上の利益を与えたことにはならないため問題はないと考えられます。他方で、いくらおわびの趣旨であっても、不要になったお土産品を配ることは無償の物品供与であり、送る相手方がAさん自身の選挙区域内の者であれば寄附の禁止(公選法199条の2第1項)に抵触し許されません。選挙区域内の者かどうか区分することは現実的ではなく、実際には選挙区域内かどうかを問わず送付しない方がよいと思われます。
Q⑪について
テレビ会議ソフトの中には、有料会員になると時間や規模の制限がなくなるなど差別化が図られたものも存在します。こうしたソフトの利用に当たり、公職者等が有料会員になって、後援会員等のテレビ会議参加者が参加しやすいようにすることは、それ自体が公職者等以外のテレビ会議参加者に対し経済的利益を与えたものとは言い難く、いわば貸し会議室を借りて会議を開催するようなものと同じ意味で捉えられると考えられます。
したがって、設問のように公職者等が有料会員となってテレビ会議を自ら主催し招待することは、問題ないと考えられます。
Q⑫について
選挙時の個人演説会場で、その演説会の開催中、映写することが認められています(公選法143条1項4号の2)。映写の内容について限定はありませんので、候補者等の紹介や活動報告のみならず、第三者の応援演説についてもモニターに映写することができます。さらに、私見ですが、インターネットを利用したリモート出演や屋外からの中継も可能と考えます。他方で、演説会場の様子を屋外で映写することはできません。
Q⑬について
選挙運動用メールを発信できるのは、当該選挙の候補者等に限定されています(公選法142条の4第1項各号)。X県議会議員選挙で選挙運動用電子メールを発信できるのは候補者Bさんと当該選挙の確認団体のみであり(公選法142条の4第5号)、Aさんは選挙運動用メールを発信することはできません。
なお、正規の選挙運動用メールを転送することは、新たな選挙運動用電子メールの発信になりますので、Bさんから送られた選挙運動用メールを転送することもできません。
一方で、電子メールではなくウェブサイト等を利用する方法は誰でも可能ですので、ツイッターでの連絡やBさんの選挙運動情報のツイートをリツイートすることは問題ありません。