2020.04.10 話し方・ファシリテーション
第4回 「市民との対話」イメージを再設定する
3 例えばこんな「市民との対話」の機会
他の「市民との対話の機会」の事例やイメージが不足しているため、「いわゆる議会報告会」が「市民との対話の機会の典型例になってしまっているなら、それは大変にもったいないことだ。市民と議会との話し合いの機会のデザインは、豊かで自由度が高いからである。
もちろん、自由といっても、ゼロから対話の機会の目的を設定し、その方法をデザインするのも簡単ではないだろう。そういうときこそ先駆例を活用すればよい。
例えば、「市民と議員がともに学び、意見交換する機会」はどうか。地域の課題は社会の構造と密接に結びついていて、簡単に解決しないものが多い。公共交通、介護、子育て等、様々な政策課題のすみやかな解決は難しい。課題をとらえ、情報を集め、それをもとに議論し、決断する。その「課題をとらえ、情報を集める」場を市民との対話の機会とするのはどうか。行政が特定政策課題について識者を招きフォーラムを開催することは珍しくないが、議会ではまだまだ少ない。だが、実は、「課題をとらえ、情報を集める」場を持つことは、議会の方が向いている。
まず、議会自身にとって、「課題をとらえ、情報を集める」場は必要だからだ。常任委員会で追っているテーマがあれば、それを選べばいい。もともと自分たちにとって必要な場に、「市民との対話」という面をプラスするのだから、徒労感にがっかりすることはまずない。
次いで、力を込めて指摘しておきたいことだが、議会にとって、我がまちの課題つまり〈争点〉を市民に知ってもらうことにも価値がある。自治体政策に関心を持ってもらいたいという声は行政からも議会からもよく聞かれるが、「政策全般に関心や意識が高い人」であってほしいというのは期待が強すぎる。人々は自分の営みで十分忙しい。だが、社会にある「無限の課題のどれかを、我がこととして感じられる人」なら、もっとたくさんいるだろう。「自治体政策全体への関心」を底上げするには、環境、教育、介護、交通、経済等、具体的な〈争点〉をかすがいとして、それぞれに関心を持ってくれる市民を多元的に自治体政策につないでいくしかない。そのためには、市民も「課題に気づき、情報を知る」課題共有の機会は、それ自体重要だし、関心ある課題なら有益だ。もちろん、単に識者の話を聞くだけではなく、「市民と議会との対話の機会」としての話し合い成分を増すことが、課題共有の機会としての効果を増し、参加する意義や楽しさにつながる。この点についてはこのあと述べよう。
さらに、市民と議員がともに学び対話することを通じて政策課題を共有する場になるとすれば、「よき決断」のために議会が、議員が学んでいる姿を見てもらうことができる。このとき、議員は、「正しい解答を知っている選良でなければいけない」というイメージから抜け出そう。議員も、識者からともに学ぶ市民でよい。もちろん、「その課題への取組みを職責とする市民の代表者である市民」として、その課題を「予習」しておくべきこと、その後に知見を生かしていくことは当然だが、「市民の先生」である必要はない。
このような特定の政策課題をめぐる講演会やフォーラムなどを、「市民と議員がともに学ぶ場」として、「市民との対話の機会」をつくってはどうか。
4 知立市議会「市民と議員の合同研修会」
今回ご紹介するのは、「市民と議員がともに学ぶ場」として、「市民との対話の機会」を置いた知立市議会の「市民と議員の合同研修会」である。2018年2月に第24回、2019年1月に第27回議会報告会として開催され、筆者が講演者として登壇した。テーマは、第24回が「市民と議会のより良い関係」、第27回が「市民に必要とされる議会のために」であった。この例では議会のあり方がテーマとなったが、もちろんそれに限らず、登壇者やテーマは任意に、その議会や地域で関心があるものを選べばよい。
まず、一般的な講演会を思い浮かべよう。時間は少し長めで、2.5時間である。ではここから、「市民との対話の場」とする工夫を説明してみよう。
最も大きなポイントは、講演の途中、まとめの前ぐらいの段階で、参加者と議員が3〜4人1組になって話し合う時間を入れるというところだ。その対話を踏まえてから、講演を再開し、質問に答えたり補足したりして、総括する。
では、進行から説明してみよう。
下準備としては、広報の段階で、「参加型フォーラム」といった表現を併記し、「ただ話を聞く機会」ではないことを併せて周知するように気をつけたい。話し合いに抵抗を感じる、避けたい、あるいは困難な人もいる。その権利にはきちんと配慮する。広報段階、また当日に、話し合う時間があることをアナウンスして忌避できる情報を提供したい。
当日は、市民3人がグループになりやすいように配席しよう。くじびきなどで知人だけでまとまらないように工夫をしてもよい。また、資料だけでなく、市民と議員との対話に生かせるよう、休憩時間にコメントを書く用紙を用意した。知立市議会では回収したが、手元のメモにしてもよい。書くことに集中しすぎたり、時間がかかりすぎたりしないようにしたい。
テーマの提起では、「議会はこういう点について悩みや疑問を持っている。そこで、講演者を呼んで関心のある市民とともに知見を聞き、市民の声も聞かせていただく機会をつくった」ということを説明する。その「悩みや疑問」に応える形で、講演者が1時間程度話す。
参加者と議員の対話は、20分から30分程度を想定する。知立市議会の場合、3人1組の市民に、1人の議員が入った。議員は「まとめのひとこと」を書くA4判かA3判の紙を持って参加する。この役が難しい議員には、別の役割を分担する。後述するが、対話グループのサイズはこのくらいの方がいい。議員以上に参加者がいるときは、事務局職員も支援するようにするか、あらかじめ参加者の上限人数を決めて申込み制にするかなどの方法がありえる。
対話がスムーズに進むように、アイスブレイクと問いかけは工夫する。アイスブレイクとして1分間自己紹介を行う。「なぜ今日ここに来たか?」や「うちのまちで一番おすすめのところ」などが好適と思われる。名前は匿名でもニックネームでもよいことにしよう。仕切り役が1分ごとに「1分です、次の方お願いします」とコールし、4回繰り返す。タブレットなどでストップウォッチが示せるとよりよい。ここまでで5分程度を目指したい。
問いかけは、テーマが難しければ「前半の話で印象に残ったこと」を語る。参加者が必ずしも全部を聞いていなくても、印象に残ったポイントを話題にすればいい。また、他者が印象に残ったこと、つまり大事だと感じたことを耳にすることで、理解や共感を一段深めることができる。テーマについて理解が深まっていれば「どうしたらいいと思うか」を語ってもらう。議会が「市民に聞きたいこと」を問いかけてもよい。「講師にいいたいこと/聞きたいこと」でもよいだろう。ただし、「聞きたいこと」が「答えにくいこと」にならないように問いの立て方に留意したい。知立市議会では、第24回では「市民と議会のこれからのために、(市民が/議会が)大事にしたいこと、大事にすべきこと」、第27回では改選後であったこともあり、新人議員に「市民との関係で悩んだこと、困ったこと」を出してもらい、「新人議員の悩みに答える」とした。
15〜20分程度したら、対話のまとめに入ってもらう。配布してある紙に、マジックで大きく、まとめを書いてもらう。
5分程度で回収して、全部を紹介すると時間的に厳しくなるので、印象的なものや個性的なものをいくつか紹介する。紹介するのは少数でも、集めるときに壁やホワイトボードにすべて掲示すれば、多彩な声があることが可視化されるだろう。ここまでで、対話の始まりから30分程度を目指す。
その後は、講師がコメントや質問に答えたり、補足したりし、まとめとして総括して締める。「市民と議員との対話」といえる、双方向性のある学びの機会になるのではないだろうか。
知立市議会の場合は、2018年には、アンケートだけでなく、出口に「今日の満足度」を丸シールで貼って帰るという小さな工夫もあった。どう考えるか、どう感じているかといったことをできるだけ発露してもらう、そうすることで、市民の声を大事にして耳を傾けたいという姿勢を伝えることができるのではないか。
タブレットで時間を示して自己紹介を促す
4人1組の話し合いの様子
出てきた意見を示しながら総括する様子
図2 話し合いの様子(一部写真を加工)