2020.03.25 議員提案条例
第6回 議員提案条例と議会改革 ─ネクストステージを目指す議員提案条例と議会改革─
4 新たな時代の議会を目指して(連載のむすびにかえて)
これまで、この連載では、6回にわたり「議会提案条例をつくろう・ネクストステージ」として、2000年の地方分権改革から20年が経過するのを目前に、新たな次元に地方議会が向かうために必要な実務的論点について、議員提案条例を中心に論じてきた。
では、新たな次元とはどのような議会であろうか。これからの地方自治の世界を展望(11)すると、多くの自治体が人口減少に突入し、毎年のように大規模な災害に見舞われる一方、AIをはじめとするテクノロジーが急速に進歩するなど、これからの地域社会や住民生活のありようは大きく変化していくことは容易に想像がつく。そのプロセスでは、ICT技術を使えば、個々の市民の意向把握は容易であり、これまで以上に市民参画と細かな説明責任を要求されると考えられる。
そのような社会では、住民自身が、地域社会のルールを決め、マネジメントしていくことに参画していくことが、好むと好まざるとにかかわらず求められていく。住民が「ルールを決める」ということに着目すると、究極的には「市民立法」ということになる。住民に痛みを強いる政策をとらざるをえない状況となった場合、「市民立法」又はそれに近い形の意思決定や政策の表現が求められてくる。「市民立法」の形に近づけていかないと、より多くの住民の納得や理解を得られないからである。
このような観点に立つと、議員立法は市民立法への橋渡しの役割を果たすものとも見ることができ、議員立法の機能はますます重要となるものと考える。議員提案条例やそれに携わる議員のノウハウ・スキルは、将来の地域や市民社会に向けたインキュベーターとしての機能を果たしていくべきである。今後、議員提案条例がさらに高いレベルになり、それが住民に伝播(でんぱ)し、地域や住民にとって有用な資産となっていくことを期待したい。
(1) 日本国憲法92条には「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」と規定されている。
(2) 田中二郎『新版行政法〈中巻・全訂第2版〉』(弘文堂、1976年)73頁、辻村みよ子『憲法〈第6版〉』(日本評論社、2018年)495頁、長谷部恭男『憲法〈第6版〉・新法学ライブラリ2』(新世社、2014年)447頁等、参照。
(3) 「議員提案条例をつくろう・ネクストステージ第5回 議論する議員提案条例③─議会での議論を深めるための首長提案条例の一部修正─」(2020年2月25日号)参照。
(4) 変えなきゃ!議会 自治体議会改革フォーラムホームページ(2019年11月3日更新)によると、2019年4月1日現在、全国878自治体(49.1%)で議会基本条例が制定されている(http://www.gikai-kaikaku.net/gikaikaikaku_kihonjourei.html)。
(5) 公益財団法人日本生産性本部では、「顧客満足」の向上を目指した、企業の組織マネジメントの評
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価システムである「日本経営品質賞」を1995年に創設し、毎年度様々な企業、団体が受賞し、国内の組織の経営改革の参考とされている。この経営品質の考え方は、今では企業のみならず、行政機関や学校、病院などの公共的な施設、非営利組織などの組織マネジメントの質的向上にも活用されている(参照:https://www.jqac.com/)。
(6) 本評価システムは、「地方議会における政策サイクルと評価モデル研究会」(顧問:北川正恭・早稲田大学名誉教授、座長:江藤俊昭・山梨学院大学法学部教授)が、2019年度に構築に取り組んだものである。同研究会では2016年度より、議会活動の質的向上による住民福祉の向上を実現するため、「議会からの政策サイクル」の展開と、その評価の仕組みについて、全国の議会改革に取り組む議会や議員の有志と研究者等が、実践的な研究を重ねている。
(問合せ先)公益財団法人日本生産性本部 地方議会改革プロジェクト事務局(担当:鎌田・田中) 〒102-8643 東京都千代田区平河町2-13-12 Tel:03-3511-4013 Fax:03-3511-4039 Mail:t.kamata@jpc-net.jp/yuma.tanaka@jpc-net.jp
(7) 総務省「地方議会・議員のあり方に関する研究会(第4回)」資料4-1参照。
(8) 従来の解釈では、自治法138条の4第3項は執行機関に附属機関を設置できることを規定しており、その反対解釈として議会に附属機関を設けることはできないと解されてきたが、例えば、三重県議会基本条例では、議会に外部有識者等による附属機関や調査機関の設置を可能とする規定がある(三重県議会基本条例12条、13条)。
(9) 全国町村議会議長会の「第65回町村議会実態調査結果の概要(令和元年7月1日現在)」によると、全国の町村議会の議会事務局の平均職員数は2.5人であった。
(10) 自治法252条の7第1項では、「普通地方公共団体は、協議により規約を定め、共同して、……議会事務局……を置くことができる」とされている。
(11) すでに自治体戦略2040構想研究会(総務省)などの形で、国レベルでも様々な検討が始まっている。
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