2020.03.25 議員提案条例
第6回 議員提案条例と議会改革 ─ネクストステージを目指す議員提案条例と議会改革─
(3)議会事務局のサポートの実際
「チーム議会」としての政策立案、特に議員提案条例の立案の場合、政策法務や法制執務の専門スキルが要求される点で、議会事務局の具体のサポートが極めて重要である。
ア 議員提案条例のサポート業務の特色
議員提案条例のサポートの場合、執行部の法務担当課と比較すると大きく二つの点で異なる。すなわち、第1には政策法務のスキルにおける「政策立案」のウエートが大きいことである。執行部の法務担当課は原課が進めようとする政策が制度的に適法に運用できるかを「チェック」する役割が大きい。これに対し、議会事務局の法務担当の場合、議員の政策をチェックするだけではなく、適法に運用できる政策を議員とともに「立案」していくことが求められる。これは、通常の意見書等の発議案などと異なり、条例案の場合は住民の権利義務に関わることもありうるので、より専門的な知見が必要なこと、手続の慎重を期する必要があることなどからである。
第2に、議会の「審議手続」に関するサポートがあることである。議員提案条例は議会審議の日程や手続に基づき立案される性格上、議会の議事手続やルール、先例に精通していることが議会事務局の法務担当にも要求される。この点は、議会特有のもので、執行部の法務担当課にはない側面である。これらの点で、議会における議員提案条例の立案サポートは、他の事務局業務に比しても議員・会派への関与の度合いがより高いといえる。
イ 議会事務局の立案サポートの具体的内容
では、議員提案条例の議会事務局の立案サポートはどこまですべきか、またどこまでが可能か。実務の場では、政治家である議員の政策立案に、公務員の議会事務局職員はどこまで関与できるかは、しばしば議論になる。この点について、議会事務局職員のサポートは、職員の政治信条に基づき自主的に行うものではなく、議員の依頼に基づく技術的な支援にとどまるものであり、公務員法の政治活動には該当しない。議会事務局職員としては、中立的な立場でどの会派、議員に対しても均等かつ誠実に知識・技術を提供する立場ということになる。以下、具体的なサポートの内容について簡単に解説することとしたい。
① 条例案のシーズ(種)を育てる
条例には条例の制定根拠となる事実(立法事実)が必要であり、立法事実や制定目的の明確化は、本来、立案の中心となる議員の役割である。議会事務局では、条例案の構想立案に相談役として関わり、各種の関連情報の提供、議員間の協議の際の技術的な助言、求めに応じた立法事実に即した制度設計や議会審議プロセスのオプション提示などを行う。
② 条例案をともに創る
次に、条例案を議案として議員とともに立案していく。具体的には、議員の求めに応じて、条例案の起草、説明資料の作成、会派間調整や、執行部や関係団体等との協議の支援、パブリックコメントの実施、審議日程の調整、議案提出などのほか、必要に応じて、委員会審議の際の答弁書の作成などの支援も行う。特に、条例案の調製等に関連した業務については、下の表によると都道府県議会事務局では32団体で行っており、対外的には、条例案の作成自体は議員の名において行うものの、事務的・技術的作業の相当部分を議会事務局で行っている事例が多い実態となっている。
③ 条例を引き継ぐ
このようなプロセスを経て条例案が可決された場合には、条例が適正に運用されるよう、条例に関する資料を、執行部の担当課に立法趣旨を十分に説明した上で引き継ぎ、施行に当たっての相談等にも応じる。条例施行のために規則等の制定が必要な場合には、執行部の担当課に必要な助言等も行うのが望ましい。条例の引継ぎの作業の多くの部分は、立案に携わった議員に相談しながら、議会事務局で行うこととなる。
ウ 小規模自治体における議会事務局の立案サポートのあり方
議員提案条例の立案サポートは、議会事務局にとってマンパワー的に大きな負担を伴う。特に、小規模な基礎自治体の議会事務局では、事務局全体の人員(9)も限られ、実際にはなかなか難しい点も多々ある。
このような場合、筆者の経験では、外部の大学・研究機関や人材の支援を求めることもありうる。先に述べた専門的知見の活用制度(自治法100条の2)として、委託契約等の形式で外部機関に専門的・技術的な支援を求めることが可能である。また、同じ自治体の執行部職員を議会事務局職員に併任発令することもありうる。そのほか、自治法上は、自治体の機関の共同設置(10)を認めており、限られたマンパワーの有効活用も制度上可能である。