2020.03.10 コンプライアンス
第20回 アナログだけど大事なツール(ポスター・のぼり編)
解説2 設問の検討
それでは、以上を踏まえて今回の設問を検討しましょう。
Q1について
① 公選法上、ポスターのサイズは制限されていないため、巨大な政治活動用ポスターを作成することもできます。しかし、特定の公職者等の顔写真や氏名をでかでかと記載したり、いくつも並べて掲示して目立たせるなど、内容や掲出方法によっては特定の選挙に向けた売名行為として事前運動となる可能性があります。
② 液晶モニターに電子ポスターを表示させることも「文書図画」の「掲示」に当たり、かつ、液晶モニターはその構造から「立札・看板」の類と考えられます。したがって、公職者等の氏名や氏名類推事項、後援団体の名称等を表示するときは公選法143条16項1号及び同条17項の規制を受け、政治活動のための事務所において二つを限度として制限された大きさのものであれば掲示できると考えます。なお、複数の表示を切り替える場合、ディスプレイ1台ごとに1枚となると考えられます(もちろん、ディスプレイ全体の大きさが法令の制限範囲内であることが必要です)。
③ 政治活動用ポスターが見えやすいように照明を取り付けることについては公選法に反しないと考えられますが、見えないものを見えるようにするためではなく、電飾で公職者等の氏名や顔を特に目立つようにしたり、バックライトで照らすなど、程度によっては事前運動とされる場合もありえます。
④ 政治活動用ポスターにQRコードを表示し、リンクを張ることは可能ですが、リンク先のページや活動動画などが事前運動に当たる内容でないことが必要です。
また、ポスターには公職者等の氏名や氏名類推事項、後援団体の名称の記載がない場合でも、QRコードのリンク先に氏名や名称等の記載があれば、公選法143条16項2号の適用を受けることになります(公選法271条の6第1項)。
⑤ 有料の屋外看板スペースは、もともと広告を掲載することを予定して掲示板などが設置されていたり、型枠が設けられています。これらを利用して政治活動用ポスターを掲示することは、「裏打ちポスター」として認められないと考えられます。
⑥ 一定期間中の事前ポスターの掲示は禁止されています。設問の場合、市議会議員としてではなく市長選挙候補予定者としての政治活動用ポスターであるため、事前ポスターとして認められません。
⑦ 講演会を含む演説会の会場において公職者等の氏名を記載した文書図画を掲示することはできます(公選法143条16項3号)が、掲示できるのは演説会の会場といえる範囲内の場所で、かつ開催時間中又はこれらに接着した時間に限られます。前日の夜は演説会に接着した時間とはいえないため、公選法143条16項3号により認められないと考えられます。
なお、演説会の開催中に会場で掲示する文書としては、事前運動に当たらない限り、横断幕やのぼり、ビラのバックナンバー、映写機による上映も可能です。
Q2について
① 後援会事務所を表示するなど公職者等の氏名や後援団体の名称を記載した立札・看板は、当該公職者等や後援団体が政治活動のために使用する事務所においてのみ掲示できることとなっており(公選法143条16項1号)、街頭などでのぼりの代わりに使用することはできません。
② 公職者等の氏名や後援団体の名称を記載した文書図画が掲示できる場合については、解説1で述べたとおり公選法が規制しています。
「A後援会」と記載したのぼりは、一般的には立札・看板の一種と考えられ、街頭では公選法143条16項1号により認められるものに当たらないため、使用することはできません。
他方、「◯◯党××支部支部長A」との記載は、政党支部の政治活動として公選法143条16項により規制されないとも考えられます。しかしながら、政党の政治活動としての駅立ちで、わざわざ支部長Aの名前を記載したのぼりを掲げる必要性が必ずしもあるとはいえず、むしろAさんの氏名を表示してAさんの知名度アップと選挙での支持拡大につなげる意図も否定できません。とすれば、このようなのぼりの掲示は、その時期や態様によって事前運動と判断されるおそれがあります。
なお、関連して、街頭活動中に公職者等の氏名や後援会の名前入りジャンパーをおそろいで着たりしている場面を見ることがありますが、これについては一般的に公選法143条16項により認められた文書図画に当たらない(すなわち違法)ことが多いと政府参考人の答弁でも述べられています。
③ 公選法143条16項は、公職者等本人の氏名が類推されるような事項を表示する文書図画についても規制しています。したがって、似顔絵やマスコットキャラクターがAさんの氏名を類推する表示であると認められる場合は、文書の掲示制限に抵触するおそれがあります。