2020.02.25 議員提案条例
第5回 議論する議員提案条例③ ─議会での議論を深めるための首長提案条例の一部修正─
4 議員修正の実際
(1)那覇市総合計画策定条例の議員修正の事例
議員修正の事例として、2016年6月に那覇市議会で行われた「那覇市総合計画策定条例」の議員修正について紹介する(3)。
これは当時、地方自治法の改正により市の総合計画の策定に当たっては議会の議決を要しないとされたことから、那覇市では引き続き同法96条2項の条例による議決を要する事項とするため、同条例案を提案した。ところが、条例に計画策定時の市民協働に関する具体の規定がないことから、市民協働に関する条項の追加を行う議員修正を行ったものである。那覇市議会の会議録と、この議案修正を実際に行った前泊美紀議員によると、議会での審議経過はおおむね次のとおりである。
まず、本会議で総合計画策定条例の提案理由説明が執行部から行われ、その後、議案調査を経て議案に対する前泊議員による質疑が行われた。質疑は市民協働の規定がないことに対する考え方を質すもので、執行部からは、計画策定過程での市民参画は重要と認識し
つつも、当該条例は、法改正により計画策定の法的根拠がなくなったことに伴う法的整理をしたもので、すでに計画策定への市民参画は定着しており、条例前文に市民協働の理念が示されていることから、あえて条例に規定を設けなかったとの答弁であった。
さらに、付託後の常任委員会での議案審査の際に、前泊議員が再度質疑を行い、執行部側の意向を確認した。その後、委員長から「議員間討議」を行う旨告げられ、この議案について、委員会の場で議員同士の討議が行われ、修正についての議員間での共通認識が形成された。「議員間討議」の際には、修正の素案となる「修正案のメモ」が前泊議員から各議員に配布された。その後、議員修正について会派に持ち帰り検討することで議員間討議を閉じ、翌日の委員会で再度審議することとされた。
翌日に再開された委員会では、議会事務局の法務担当も入って整理されたと想定される正式な修正案が、前泊議員から提出され、修正理由の説明があった。修正案は、総合計画の策定過程に市民協働を担保させるために、原案に「市長は、基本構想又は基本計画を策定し、又は変更しようとするときは、市民の意見を十分に反映させるために必要な措置を講ずるものとする」との条項を追加するものであった(現行の第4条)。
この時点で正式には、市長提案の条例案に対する修正動議が提出されたと解釈される。成立した動議は優先審議事項とされることから、修正案について審議され、修正案が可決された。その後、修正部分を除く原案が可決され、原案が修正されたこととなる。
委員会での修正議決を経て、本会議では、所管委員長から条例案の修正について報告され、その後、委員長報告のとおり可決され、条例が修正議決の上で成立した(4)。
(2)那覇市議会の事例の注目点
那覇市総合計画策定条例の議案修正の事例では、大きく二つの点が注目される。
第1は、市長提案の条例原案について早期に情報収集し、修正の検討を行ったことである。前泊議員によると、「重要な条例であることから、早い時点から注目して情報収集を始め、概要は把握していたが、原案の全体が分かったのは開会前に議案説明を受けた際で、その後、提案理由に対する質疑等を通じて修正案の検討を行い、他会派にも調整し、修正案を提出した」とのことであった。条例議案の修正には、細部の法的検討が必要な場合が多く、修正に当たっては早期に情報収集と方針決定、修正案の準備をすることが大切である。
第2は、条例議案の修正に当たり「議員間討議」(5)の仕組みを上手に活用していることである。那覇市議会では、様々な議案審議の中で、執行部との質疑答弁の後に「議員間討議」を行うケースが見られる。他の議会では、執行部との質疑答弁の後は討論・採決が行われ、議案についての議員同士の意見交換は正式な会議の場以外で根回し的に行われるのが一般的であるが、「議員間討議」を入れることにより、議員同士の意見交換が正式な委員会の場で行われることになり、傍聴も許され、会議録にも記録される形で議論が行われる。この点は、議会審議の透明性確保や意思決定への責任の明確化の観点から望ましいことと評価できる。また、那覇市の事例では、提案者の前泊議員からいきなり修正動議を提出するのではなく、議員間討議の中で「修正案のメモ」の形で試案を提示し意見交換する手法がとられている。この手法は、他の議員からも納得が得られやすいのではないかと思われる。
以上のようなプロセスを経て、首長提案の条例議案の議員修正は行われたのである。