2020.02.10 女性議員
第30回 女性と政治:女性議員の増加の手法(下)──地方選挙補論Ⅰ──
☆キーワード☆
【育児手当・若者手当等をめぐる論点(不利益を補てんする所得損失手当、世話手当(仮称)の創設)】
いくつかの議会から議員のなり手確保をめぐって育児手当・若者手当の制度化が提案されている(北海道浦幌町議会等)。また、全国町村議会議長会では「期末手当のほか、例えば子育て世代への手当として、育児手当等の支給を可能とすること」が要望されている(資料:議会の機能強化及び議員のなり手確保に関する重点要望3参照)。たとえば例示されている育児手当を含めて、次の手当も想定したい。議員活動による不利益を補てんする視点から、条例に基づき次の手当の支給を可能とする地方自治法改正が必要である。
①所得損失手当(所得損失補てん手当):議員が職務遂行に際して生じる収入源の補てん。
地方議員が正当な報酬を受け取ることはいうまでもない。同時に、事業所等で就労している議員が、休暇取得等により所得損失を被る場合がある。その損失を補てんする手当の創設が必要である。
条例に基づき、支給する制度である。日割り計算によって数値化は可能である。なお、上限を設定するなどの考慮は必要である。
留意点として、次の事項を考慮する必要がある。事業所に勤務するいわゆるサラリーマンが対象となる。個人あるいは家族経営の自営業者や農林漁業者は、所得損失が明確な場合は、対象を広げる必要がある。また、非常勤で就業している者への配慮も必要である。
また、議員報酬とともに、給与等を別に受け取ることについて「二重取り」という意見もでるかもしれない。現在の報酬では生活するにはあまりにも少ない報酬であり、報酬額を上げることは重要であるとしても、生活できる水準にまで一気に増額することは困難である。いままで議員になっていない若年・中年層の拡大を狙う制度である。兼業は従来も行われていた(自営業や農林水産業)。その層を広げる制度でもある。
*議員に立候補する場合には、「公民権行使の保障」(労働基準法第7条)により、解雇や降格の処分は禁止されている。
*「議員活動に要する時間が著しく長期にわたる場合などについては、現行法制上、解雇や降格などの処分をすることは必ずしも禁止されないと解されている」。そこで、「議員活動に係る休暇の取得等を理由とした使用者による不利益な取扱いを禁止することが考えられるが、企業側の負担にも配慮した検討が必要である」(注1)。
所得損失手当は、こうした状況を踏まえ、企業側の負担を考慮し、議員活動による休暇が長期に及ぶ場合などの賃金カットを補てんする制度である。
②世話手当(子ども手当・介護手当):通常ならば議員が行う子供や扶養家族の世話を外部に委託する場合の経費の補てん。
議員活動を行うことによって、子どもや扶養家族の世話を外部に委託する場合の経費を補てんする手当を創設する。
子育て世代だけではなく、介護を主体的に行っている世代からも議員になることを奨励する制度である。具体的には、ベビーシッター経費、介護経費(たとえば介護サービス使用料)などの補てんである。
現状では、子育てや介護は、女性に大きな負担がかかっている場合が多い。このことを考慮すれば、女性議員を増加させる施策でもある。
留意点として、上限を設けることは合理的である。
(注1)総務省「町村議会のあり方に関する研究会報告書」2018年、15頁。なお、不利益取り扱いが禁止されている裁判員活動の平均職務従事日数が約7日程度であり、これとの均衡への配慮も指摘されている。
出所:町村議会議員の議員報酬等のあり方検討委員会(2019:87-88)(江藤執筆部分)
(4) 住民からの作動
女性と政治、特に「女性を議員に」をテーマに活動を続けている「老舗」は、やはり公益財団法人市川房枝記念会女性と政治センターであろう。女性が議員になることへのバックアップの講座や支援窓口も開設されている。その機関誌である『女性展望』(2019年9−10月号は創刊700号を迎えた)では、女性と政治に関する動向や講座の紹介など女性と政治をめぐるテーマに焦点を合わせて編集が行われている。クオータ制を推進する会なども設置されている。
また、地域住民が女性を議員にするための講座やバック・アップスクールも多様に開催されている(21世紀やまなし女性会議は2019年に連続講座を開催)。
寺島渉・飯綱町議会前議長が主催する「地域政策塾21」は、地域経営を住民から考えることを目的としているが、同時に議員のなり手不足解消、とりわけ女性議員の増加を意図している。第4回地域政策塾では「女性の声を地方議会へ~女性議員を増やそう!!シンポジウム」(2019年2月24日)も開催された。
* * *
いまだ少ないとはいえ、女性議員は徐々に増加している。その意義はますます高まっている。同時に、女性議員の増加の可能性も広がっている。なお、女性議員の増加の手法は、議員の多様性の手法と連動しており、本連載でも指摘している。参照していただきたい。
〔追記〕女性議員がその特性を生かすためには、女性議員が3割を超えることが必要なことを強調してきた(例えば、クリティカルマス理論)。3割かどうかはともかく、女性議員がある程度いることが、女性の立候補者を増やすことにもなることを指摘しておきたい。長野県飯島町議会は、女性議員比率が41.6%に上っている。「いいちゃんまちづくり連絡協議会」がそこで活動している女性を支援していることもあるとは思われるが(社会規範の打破)、女性議員がある程度いることで、安心して議員になることを決意できることもある。女性議員の増加には、社会規範の変容とともに、議会文化の変容(セクハラ・パワハラ等を制御する政治倫理・内部統制方針制定といったルール化が加速する議会運営等の文化変容)も必要なことを指摘しておきたい。
〔参考文献〕
◇江藤俊昭(2019)『議員のなり手不足問題の深刻化を乗り越えて』公人の友社
◇衛藤幹子(2017)『政治学の批判的構想──ジェンダーからの接近』法政大学出版局
◇大木直子(2019a)「統一地方選挙を振り返る──女性候補者擁立の実態と今後の課題」We learn 2019年7月号
◇大木直子(2019b)「統一地方選で女性の議会進出はどこまで進んだか」地方議会人2019年8月号
◇大山七穂(2016)「女性議員と男性議員は何が違うのか」三浦まり『日本の女性議員──どうすれば増えるのか』朝日新聞出版
◇国広洋子(2019)「ダイバーシティの実現はまず女性議員増から」地方議会人2019年10月号
◇砂原庸介・芦谷圭祐(2019)「女性の代表と民主政治の活性化」DIO No.351
◇ 竹安栄子(2016)「地方の女性議員たち」三浦まり『日本の女性議員──どうすれば増えるのか』朝日新聞出版
◇ 町村議会議員の議員報酬等のあり方検討委員会(全国町村議会議長会)(2019)『町村議会議員の議員報酬等のあり方最終報告』
◇中島学(2019)「第19回統一地方選挙を振り返って」月刊選挙2019年6月号
◇前田健太郎(2018)「政治学におけるジェンダー主流化」国家学会雑誌131巻5・6号
◇前田健太郎(2019)『女性のいない民主主義』岩波新書
◇三浦まり(2018)「『政治分野における男女共同参画推進法』成立の意味」世界2018年7月号
◇三浦まり・衛藤幹子編著(2014)『ジェンダー・クオータ──世界の女性議員はなぜ増えたのか』明石書店
* * *
◇公益財団法人市川房枝記念会女性と政治センター発行「女性展望」各号
◇内閣府男女共同参画局・有限責任監査法人トーマツ(2018)『政治分野における男女共同参画の推進に向けた地方議会議員に関する調査研究報告書』
◇内閣府男女共同参画局(有限責任監査法人トーマツ)(2019)『諸外国における政治分野への女性参画に関する調査研究報告書』