2020.01.27 コンプライアンス
第19回 アナログだけど大事なツール(ビラ編)
(4)虚偽事項公表罪・名誉毀損罪等(公選法235条以下、刑法230条以下等)
政治活動用ビラにおいて、時には他人や他の政治団体等の主義主張や政策と自らのそれとを比較することもあるかもしれません。このようなときに問題となるのは、その内容が真実であるか、また名誉やプライバシー等を害していないかです。
公選法では、当選を得させる目的で虚偽事項を公にすることや、当選を得させない目的で公職の候補者等に関する虚偽の事実を公表したり、事実をゆがめて公表することを禁じています(公選法235条)。
また、虚偽事項公表罪に当たらず、事実であったとしても、記載の事実が公職者等や政治団体等の名誉を害したり、社会的評価を低下させるものであれば、刑法の名誉毀損罪(刑法230条)に該当する可能性があります。
もっとも、名誉毀損罪については指摘事実が真実である場合に罰せられない特例があります(刑法230条の2)。
具体的には、①公共の利害に関する事実についてその摘示の主たる動機が公益を図ることにある場合、あるいは公務員や公務員の候補者に関する事実である場合で、②真実であることの証明があったときに違法性が排されるというものです。
公職者等の政治家の場合、私的な事実についても「公共の利害に関する事実」に当たることがありますが、純粋に私的な事項については該当しません。また、公務員や公務員の候補者に関する事実につき、公務員の適格性と関係のないような私的な事実や公務員自身以外の事実などは当たらないと考えられています。
結果的に事実が真実であることを証明できなかった場合でも、事実が真実であることを誤信し、その誤信をしたことについて確実な資料・根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がないとして名誉毀損罪の成立を否定した最高裁判例もあります(最判昭和44年6月25日刑集23巻7号975頁)。
なお、事実を摘示しなくても公然と人や団体を侮辱した場合には、侮辱罪(刑法231条)が成立します。
以上は刑事上の責任の話ですが、同時に名誉権やプライバシー権の侵害により損害が生じれば、民事上の損害賠償責任(民法709条)も発生します。
解説2 設問の検討
それでは、以上を踏まえて今回の設問を検討しましょう。
Q①について
設問のビラ上の賀詞文言の大きさや全体に占める割合、その他ビラに記載された記事の内容、Aさんのビラ作成の意図等によっては、ビラそのものが禁止される時候のあいさつ状とされる可能性があります。例えば、賀詞文言と新年のあいさつが紙面の半分近くを占めていたり、政治活動に関する記事がほとんどなかったりするような場合は、あいさつ状であると認定されやすくなると考えられます。
Q②について
ビラの記載が政策の主張や活動報告といった政治活動のためではなく、例えば専ら個人的な事項ばかりを記載しているとか、選挙告示直前に大量に配布するなど、ビラの内容や頒布時期、分量によっては、当該ビラは政治活動用ビラではなく選挙における支持獲得のための自己の宣伝、売名であるとして事前運動(公選法129条)に当たるとされるおそれがあります。
Q③について
公選法は、ビラの記載内容については、事前運動にわたるものやあいさつ状を除き、特に規制を設けていませんので、比較記事を掲載することは可能です。
しかし、記事の内容が虚偽であったり、比較対象者の名誉を害するような場合には、虚偽事項公表罪(公選法235条)や名誉毀損罪(刑法230条)等の問題が生じます。
さらに、比較記事を掲載した意図が対立する公職者等の次回選挙での当選を阻んだり、比較して自らの選挙を有利に進めようというものであるといったものであれば、事前運動の禁止にも抵触するおそれがあります。
Q④について
政治活動用ビラに有料で広告を募って掲載すること自体に問題はありません。
ただし、広告掲載に当たり、後援会員は正規料金から割引が受けられるといったことがあれば、寄附の禁止(公選法199条の2、199条の5等)に反することになります。
Q⑤について
政治活動用ビラそのものは、通常これを配布しても受け取った者に財産上の利益を与えるものとはいえません。しかし、持参することで割引をするとなれば、ビラ自体が割引券の効果を持つことから財産上の利益を有することになり、寄附の禁止(公選法199条の2等)に抵触するおそれがあります。
Q⑥ について
政治活動として公職者等の活動や抱負などを対談形式で掲載したビラはよく見かけます。このようなビラも直ちに公選法に抵触するものではありませんが、掲載内容が候補予定者の立候補表明であったり、選挙における支持や投票を呼びかけるような内容であれば、Aさんについてではなく当該候補予定者についての事前運動となる場合があります。