2020.01.27 議員提案条例
第4回 議論する議員提案条例②─既存条例の一部改正の手法とメリット─
6 条例を議員提案で一部改正することで住民、議会に
多面的なメリットを!
議員提案による条例の一部改正には、次のような多面的な意義が認められる。一部改正条例の立案、検討を通じて、様々なメリットを住民と議員が享受することにつながり、議論する議会、元気な議会の形成に資することができると筆者は考える。
(1)自治体の硬直的な政策運営をより柔軟化させること
首長提案の条例が「硬性条例」化しやすい傾向の中で、議員側からの柔軟な発想で条例の一部改正を提案することにより「軟性条例」化を促し、自治体全体としてPDCAサイクル(6)をより的確に回すことにつながると同時に、議会のチェック機能を高めることになる。
(2)議員側の自治体の政策全体の理解に資すること
条例化されている政策は、実施期間が予算に連動せざるをえない「予算事業」と異なり、政策としてより基本的で永続性のあるものが多い。これらの条例を見直す作業を通じて、自治体全体の政策を概観することになり、今後の議員の政策立案にも役立つものとなる。
(3)首長との緊張関係の維持に資すること
我が国の自治体議会では、首長との関係において、オール与党の自治体が依然として多いのが現実である。こうした中で、首長の運用する条例を議員提案により見直し、一部改正することは、首長の政策の一部を是々非々で評価することにつながり、いい意味での首長と議会との緊張関係を現出させることとなり、他の分野でも有効な熟議を促進するものと考えられる。
(4)住民の細かいニーズを反映した政策のカスタマイズにつながること
前回でも述べたように、議会、議員は「ニッチ産業」である。住民の細かいニーズを政策として商品化できる立場にあり、その具体的方法として一部改正条例は有効である。住民ニーズに対応した条例改正を行うことにより、自治体の政策全体を個々の住民のニーズにカスタマイズできる可能性が広がるのではなかろうか。
(1) 総務省「地方自治月報59号(平成28年4月1日~平成30年3月31日)」のデータをもとに筆者が集計したもの。同月報中「委員会提案」による条例は、議員提案条例に含めて集計した。
(2) 予算についての議案提出は、地方自治法112条1項により議員には認められていない。また、組織については、行政実例ではあるが、部局等の設置条例に関し「条例の発案権は、知事のみこれを有する」(昭和28年1月7日自丙行発1号)、「議会は、部の設置に関する条例を修正しうるが、その範囲は地方自治法第158条(内部組織の編成)第1項及び第2項の趣旨を逸脱できない」(昭和28年1月21日自行行発18号)とされている。
(3) 例えば、直近の2019年10月に召集された第200回臨時国会では、いわゆる妊産婦の産後ケア事業を市町村で実施することを規定した「母子保健法の一部を改正する法律」が衆議院厚生労働委員長提案(衆法)で成立したが、改正対象の母子保健法は、もともとは1965年8月に成立した内閣提案の法律(閣法)であった。
(4) 参照:神奈川県法規データ提供サービス(https://www3.e-reikinet.jp/cgi-bin/kanagawa-ken/d1w_ startup.exe)。
(5) 参照:鎌倉市例規集・要綱等集(https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/soumu/kokuji/documents/ reiki.html)。
(6) Plan(P)─Do(D)─Check(C)─Action(A)の組織マネジメントの仕組みを示す用語。
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