2020.01.10 予算・決算
第7回 決算案の審査
決算審査の先にあるもの
決算案は予算案と表裏の関係にありますから、その範囲は自治体の行政事務全般に及びます。その一部に事務処理上のミスや手違いがあったり、所期の目的を達成できなかった事業があったりした場合、議会がどのような形で意思を示すかは考えどころです。決算全体としては認定しつつ、一部の問題につき附帯決議で指摘するか、あるいは決算自体を不認定としてしまうかの判断です。
特に後者の場合、改正法の施行により、長に反省と改善を促す効果はかなり大きくなったと考えられますが、その分、自治体全体に及ぼす影響も大きいといえます。議会としても、審査の過程で浮き彫りとなった問題の規模や性質、行政事務全体への影響の度合いなどを総合的かつ慎重に判断した上で、議決責任を果たしていくことが一層求められることになるでしょう。
前述の決算不認定の事例を見てみると、そこで指摘されている問題はいずれも、一部の部署で発覚したものではあるものの、その影響は自治体全体の信頼にかかわり、その原因や温床は全庁的に共通するリスクとしてとらえられるものと考えられます。ゆえに議会は決算の不認定という「大ナタ」を振るって指摘したのであり、これを受けた長も、調査や検証に基づいて、全庁を対象とした再発防止策を講じたのだと思われます。
問題とされる事象につき、その原因をリスクとしてとらえ、その影響度の大小と発生頻度の高低を分析・評価して対応策を講じていく。こうしたリスクマネジメントの手法は、やはり平成29年の法改正で導入された長の内部統制の基本的な考え方と同じです。そうすると、議会による決算審査は、長に対して内部統制上の問題点を指摘し、その整備を促す役割も持ち得るといえます。
決算を不認定にされる、あるいは認定されても附帯決議を付けられるという事態は、長や職員にとってはあまり歓迎したくないことでしょうが、自治体全体としては、住民の信頼を得るためのヒントをもらうようなものと考えることもできるでしょう。その意味では、法233条7項の趣旨として語られる「議会と長の関係の活性化」とは、自治体全体の信頼向上に向けた議会と長の「協働」を指しているといってもよいのではないでしょうか。
(『自治体法務NAVI』「とっても身近な自治体法務シリーズ」2019.11.15号より転載)