2019.12.25 議員提案条例
第3回 議論する議員提案条例① ─地域課題に根差したニッチ型議員提案条例と地域の機運醸成─
(2)生活者視点の横串発想の見方
一般的に組織は縦割りに陥りやすい傾向にある。それは、自治体組織も同様であり、自治体の政策立案においてもいえる。そのため、複数部局にまたがる課題への対応や政策の立案は、通常の行政組織では消極的になりがちである。それは、部局間での調整や外部のステークホルダーが増えることにより手間や時間がかかることが要因の一つである。また、国の縦割りで政策や補助金等が流れる中で、これと異なる政策や事業への財源確保が難しいこともある。
しかし、実際の地域や生活者である住民の抱える課題には、役所の部や課をまたがる問題も数多く存在する。例えば、筆者が実際に立案の支援をした議員提案条例では「プレジャーボート条例」がある。プレジャーボートとは、漁業者ではない人が、休日などのレジャー用に所有している小型の釣り船やジェットスキーなどであるが、違法係留や衝突事故、漁業者の漁具の破損など、海上でのマナーの悪さが問題となっていた。漁業団体等から規制の要望がしばしば出されていたが、海上保安部や警察との調整が必要であること、海岸や河川の関係課が様々な部局にまたがっていたことなどから、なかなか条例化が首長部局では進まなかった。そこで、議員提案により、関係する議員が何度も協議の上、条例が成立した。
このように複数の組織にまたがる課題に対して、生活者の視点で立法事実をみつけていくことも、議員提案条例ならではである。
(3)類似自治体のベンチマーキング
これは、首長部局でもしばしば行われる手法であるが、同様な地域課題を抱える自治体をベンチマーキングして、優れた点を自らの自治体の条例として立案するやり方である。連載第1回(2019年10月25日号)で「乾杯条例」の事例に触れたが、乾杯条例が全国の地方議会に伝播(でんぱ)したのもその例である。しかし、この手法は「模倣」に陥りやすい一面がある。他の自治体の事例をやみくもに当てはめるのではなく、本当に自らの自治体で同様なニーズが存在するかをよく検討してから立案作業に入ることが大切である。