2019.12.10 条例
自治体議会のための条例立法の基礎(3・完)
9 議会が条例を評価する
議会は、立法時は立法権者として、議会側提案条例については当然であるが、首長提案条例であっても、条例の事前評価を行わなければならない。条例施行後は、行政監視の意味も含めて、事後評価を行う責任がある。議会の本会議や委員会は条例評価の場でもある。
(1)条例評価の六つの基準
条例評価を行う場合、その議論を整理するためにも、次の六つの基準(自治体法務検定委員会編『自治体法務検定公式テキスト政策法務編2019年度検定対応』(第一法規、2019年)158~162頁参照)に沿って行うことが重要である。
① 必要性
「その条例がそもそも必要か、その内容が公的関与として実施する必要があるのか」といったことに関する基準である。立法事実(条例の必要性とその合理性を支える社会的・経済的・文化的・科学的な事実)によって証拠付けられなければならない。
② 適法性
「その条例が憲法や法律に抵触して違法という判断を受けるおそれがないか、司法手続において条例の効果を否定される可能性はないか」といったことに関する基準である。表現の自由など人権保障の憲法規範に違反していないことが重要である。もっとも、法律に抵触するおそれがあると指摘されても、その法律が「地方自治の本旨」という憲法規範に適合していることが前提となることを忘れてはならない。
③ 有効性
「その条例が掲げる目的の実現にどこまで寄与するか、課題の解決にどの程度の効果が生じるか」といったことに関する基準である。
④ 効率性
「その条例の執行にどの程度の費用を要するか、同じ目的実現を図るのにより少ないコスト(費用)で済む手段はないか」といったことに関する基準である。コストには、行政機関内部コストと、行政機関以外の条例が適用される対象者が負担することとなる外部コストとがある。
⑤ 公平性
「その条例の目的に照らして、その効果やコスト負担が公平に分配されているか、合理的な理由もなく不平等な取扱いが行われていないか」といったことに関する基準である。
⑥ 協働性
「その条例の内容において、住民(住民団体)、NPO等の参加、自己決定又は相互の連携にどこまで配慮しているか」といったことに関する基準である。住民自治の要請に配慮している必要があるということである。
①の必要性と②の適法性は、これを満たさなければ、そもそも条例としての条件を欠くことになる。③から⑥までの基準は、条例においてどのような手法を用いるのが適切であるかについての基準であり、より良い条例とするためのものである。③の有効性と④の効率性とはトレードオフの関係になる。条例は、利害対立の調整を図るものであるから、どのような手法を用いるかは、解決すべき課題に応じて異なってくるのであり、どの評価基準を重視するのかも、同様に異なることになる。
(2)事後評価によって事前評価を検証する
立法時の事前の条例評価は、解決すべき問題発見から始まり原因究明を経て課題を設定し解決手法を選択していくといったシミュレーションをして行うものである。これがうまくいったかどうかによって、条例の善しあしが決まるので、事前評価は重要である。議会の審議においては、このときの議事録をきちんと整理しておくことが肝要となる。
事後評価とは、この事前評価が正しかったかどうかを検証することでもある。立法時の議会の審議内容が検証・評価されるのであり、このことが、議会の条例評価の審議内容を向上させるという副次的効果が期待される。
事後評価の結果として行われる条例改正の改正時の評価も、改正条例にとっては事前評価であり、この事前評価はさらに事後評価によって検証されなければならない。こういった条例評価のサイクルが回し続けられていくことが重要である。
(3)事後評価を条例の中に組み込んでおく
このようにして必要となる条例の事後評価は、あらかじめ条例の中に仕組みとして組み込んでおくことが重要である。
本則に、条例の執行についての実績や課題解決についての成果などを毎年1回は公表することや、議会に報告することを執行機関に義務付けるといった規定を置くことが考えられる。その公表や報告があれば、議会では、おのずから条例の評価が行われ、必要があれば改正などの見直しにつながることになる。
附則には、端的に、条例施行後一定年数経過後に条例の見直しを行うとする規定や、条例施行後一定年数を超えないごとに定期的に条例の見直しを行うとする規定を置き、議会が自らに見直しの義務を課しておくことが考えられる。期限が来れば、必ず条例の見直しを行わなければならないことにしておくのである。