地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2019.12.10 条例

自治体議会のための条例立法の基礎(3・完)

LINEで送る

(4)条例立法が住民の権利を保障する
 給付行政の場合には、条例で給付の「要件」を定めることによって、その要件に適合する者に給付を受ける権利が保障されることになる。要綱で定めた場合には、給付が拒否された場合に行政不服申立てや行政訴訟ができないなど、その給付サービスが、給付対象者である住民にとっての法的な権利ではなく、行政側が施す恩恵にすぎなくなってしまう。
 このような要綱で定める事態は、「幸福追求に対する国民の権利については、……立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と規定する日本国憲法13条や、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定する同25条2項が求めている人権保障や福祉国家の理念に合わないと考えられる。また、福祉給付サービスなどの重要な事柄が、住民代表機構である議会の関知しないところで決定されるのは、ゆゆしき事態である。議会は、要綱の濫用こそ議会軽視であるといわなければならない。
 公の施設の設置管理が条例で定めなければならないとされているのは、かつて「公の営造物」という用語のもと、その住民の利用は、行政府が行政権の行使として設置したことの反射的効果であるとしか考えられていなかったことを改めて、積極的に住民の利用権を保障しようという趣旨がある。
 しかしながら、公の施設の条例として定められているものの多くは、単に施設があることを定めているだけといったニュアンスで、住民の利用権を保障する意味合いの薄いものとなっているように思われる。条例では、当該施設で利用することのできるサービスの内容や量をより具体的に規定することが求められるし、さらに重要なことは、利用権の保障を制約することとなる利用者の定員、ホールや会議室の収容人数など、どれだけの規模の施設なのかも明確にされる必要がある。
 なお、その建物の所有権を自治体が有していない場合であっても、市営バスのようにその物的施設が動産でしかない場合であっても、条例で定めなければならないのである。要綱で済ませるようなことがあってはならない。議会が目配りしなければならないことなのである。
 一方、規制行政の場合も、条例で許認可の制度を創設することにより、その制度を利用するイニシアティブを住民や事業者に保障することとなる。行政府に対して、許認可を申請し応答を求めることが権利として保障されるのである。

(5)条例立法は議会が行政府を動かすためのもの
 条例(行政法)が立法されることによって、行政府は、「公益の担い手」として公権力を行使することができるようになる。行政権限の内容は、この立法によって初めて確定するのである。
 とはいっても、これは当たり前のことであって、そもそも条例立法は、議会が行政府を動かすためのものであり、行政府に対し義務付けを行うものだからである。
 条例では、行政府と住民との間に権利義務の法関係をつくるだけでなく、首長に行政計画の作成を義務付けたり、条例上の施策の実施状況の公表を義務付けたりすることもある。義務付けをされた首長は、住民みんなに対して義務を負うことになる。
 ところが、条例の中には、誰に対して義務付けをしているのか分かりにくいものが散見される。例えば、「大津市子どものいじめの防止に関する条例」には、次のような規定がある。


(相談体制等の整備)
第 12条 市は、いじめに関する相談等に速やかに対応するとともに、全ての子ども、保
 護者その他いじめの防止に関わる者が安心して相談等ができるよういじめに関する相
 談体制を整備するものとする。
2 市は、いじめを未然に防止し、いじめから子どもを守るため、いじめに係る情報の一
 元化を図り、関係機関等との相互の連携及び迅速かつ適切な対応ができるよう組織体
 制を強化するものとする。
3 市は、市立学校におけるいじめに係る相談体制の充実のため、スクールソーシャル
 ワーカー、スクールカウンセラー等の配置に努めるものとする。

 


 いずれも行政組織の編成に関するものであり、財源措置が必要となるものである。この条例は、議会側からの提案条例である。議会側としては、いきなり具体的で直ちに実施することのできる組織編成の案を規定することも可能であったが、やはり、成立後に執行の任に当たる首長側に実施可能な具体策の検討を委ねた方が望ましいと考え、このような規定にしたとみることができる。「市長は」と名指しせずに「市は」としたのは、「議会も」関わる余地を残したということであろう。
 しかし、議会側提案条例は、行政府に対して検討を義務付けるという大きな意義を有するものではあるが、条例の本来の姿としては、その検討した結果である「このような課を設置する」とか「学校にはこんな職を置く」とかといった具体策が規定されるべきである。検討を託された首長側は、いつまでもこの規定のままにしておくのではなく、検討した結果を改正条例案として提案することが求められるのである。
 他方で、首長提案の条例であるにもかかわらず、例えば、「大津市『結の湖都』協働のまちづくり推進条例」には、次のような規定がある。


(協働事業の推進)
第 12条 市民・市民団体、事業者及び市は、それぞれの社会資源を活かした協働による
 事業(以下「協働事業」という。)の推進に努めるものとする。
2 市は、市の業務のうち市民・市民団体及び事業者が有する専門性、地域性等の特性を
 活かすことができる分野については、当該業務を委託し、又は当該業務への提案等の
 機会を確保するよう努めるものとする。
3 市は、市民・市民団体及び事業者が多様な形態で市政に参画することができるための
 仕組みを整備するよう努めるものとする。

 


 いずれも協働に関する制度や仕組みの創設について努力義務を課しているが、条例は、そもそも行政府と住民との間の法関係を具体的な制度や仕組みとしてでき上がったものを規定化するものである(1)
 協働について「提案等の機会を確保するよう努めるものとする」のではなく、「住民は、協働を行おうとする公共の事業とその手法を明示して協働を行う旨を市長に提案することができる」といった住民にイニシアティブを持たせた規定を置き、これを受けた行政府側はきちんと行政決定をして応答するといった形のでき上がった制度を規定しなければならないのである。「仕組みを整備した後」のでき上がったものを条例に規定するべきなのである。
 そうしなければ、立法後いつまでたっても規定はそのままで、何ら制度や仕組みは整備されず、動かない条例になってしまうおそれがある。議会側も、首長提案であったとしても、立法するのは議会なのであるから、行政府を動かすための条例になるように審議を尽くすべきである。
 なお、自治体では、条例について「議会承認」を得るという言い方がなされることが多い。正しくは、「議会議決」するものであり「議会立法」である。条例は、行政府が行政府のために制定するものではない。明治憲法下おいて、国会が協賛機関であるとされていたことの名残りを引きずっているような感がある。

(1)  条例の中には、制度や仕組みの創設を義務付けるものがある。これが「自治基本条例」であり、「自治体の憲法」と呼ばれるものである。住民自治や団体自治など自治体のあり方についての基本理念を規定するとともに、個別条例に対し、その具体化としての制度や仕組みの創設を義務付けるという形をとるのである。

この記事の著者

編集 者

今日は何の日?

2025年 424

全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)始まる(平成19年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る