2019.12.10 話し方・ファシリテーション
第2回 議会と市民の「話し合いの場」をデザインする
龍谷大学政策学部教授 土山希美枝
今回は、議会と市民の「話し合いの場」のデザインを考えてみよう。
いわゆる議会報告会など、不特定多数の市民を対象に議会が開く「話し合いの場」の設置が増えているが、それにまつわる悩みの声もよく聞く。参加者の減少、固定化、議論が低調だったりマンネリだったり議論にならなかったり、など。模索の声も聞く。テーマを設定したり、ワークショップ形式にしてみたり、地区ごとに回ってみたり。模索の成果が上がっているというところも、そうでないところもある。それぞれの努力に、まず、敬意を払いたい。
ただ、筆者から見てみると、議会と市民の「話し合いの場」は、話し合いの場がもっとあっていいという量の意味でも、市民にも議員にも議会にももっとよいものにできるという質の意味でも、もったいない状況にある。
そこで、まず、議会と市民の「話し合いの場」について、いくつかの整理をして、「話し合いの場」の設計のポイントを考察し、そのためにどんな形式があるかを例示し、具体例を紹介してみよう。
1 議会と市民の「話し合いの場」の目的は何か
議会報告会というと、ああ、アレ、とすぐ想像できるだろう。では、アレは、特に自分が属する議会で行うコレは、何を目的にしているのだろうか。
議会と市民の「話し合い」が持たれるとすると、その目的はまず三つに大別できる。
① 説明責任:自治体の主権者(オーナー)である市民に説明責任を果たす
② 意見聴取・交換:自治体政策の当事者(ユーザー)である市民の意見を聴く
③ PR:議会や議員について理解を得て、よりよい関係を醸成する
①説明責任が目的なら、参加人数を気にする必要は全くない。いつ、どこでやっているかを広く知らせる責務はあるが、聞きに来たいと思っていないオーナーが多いなら、それは「任されている」ということだ。信任されているのか放任されているのか無視されているのかは、それぞれのそのときの議会と市民の関係によって異なると思われるが、無理して動員しなくてもいい。何か不祥事があって問題になれば、大勢が来てくれるだろう。
②意見聴取・交換が目的なら、「意見を聴く」対象者や聴きたい内容が特定されているのかで多様な設定がありうる。議会で参考人や専門者を招く場から、不特定多数を対象にして不特定テーマで市民の意見を聴く場まで幅広い。対象者が、例えば「子育て中の若い層」や「女性」なら、その層が来れる設計、来てくれる設計をする必要があるし、意見を聴きたい人がいるなら一本釣りしてでも来てもらわないといけない。誰でも何でもどうぞという入り口は開けておいた方がいいが、それだけだとその場に行く必要性やおもしろさ(楽しさ)も伝わりにくい。人が動くのは、自分にとって価値があると感じるとき、つまり必要か楽しいかその両方かのときだからだ。このとき、「必要か楽しいかと思う」のは、利己的実利的な価値によるとは限らないことを指摘しておきたい。「楽しい」も、快(こころよ)い、楽(らく)だとは限らない。関心ある、おもしろい、課題に共感や発見を得る、やりがいがあるといった、その人に広く「喜び」をもたらすものを指す。
③PRが目的なら、そもそも「労力をかけて市民に来てもらう」設計は不利だ。目につくというだけなら、出ていって露出を高める方がよいだろう。例えば市民まつりや様々なまちの企画のどこかで議会がブースを出す。展示でもよいだろうし、個人的にはバルーンアートや子どもにミニわたあめをつくってプレゼントするなどの集客もよいと思う。もちろんそれだけではなく、議員の市町村政5分間リレートークなどのような、まちの政策課題や議員に気軽に触れられる機会があればいい。話し下手は損をするというかもしれないが、皆それぞれそうやって選挙で支持を得てきたのではないか。市民にだっていろんな好みがある。軽やかな語り口を軽薄と思うかもしれないし、静かな語り口に誠実さを感じるかもしれない。
PRはpublic relations、つまり、広く市民またその集合体である社会と、よりよい関係を醸成し構築していくことだ。その露出の機会で、ときどき市民が「自分の代表者にふさわしい相手」を見つけ、議員が新しい支持者を見つけることができたら、その機会は、市民にとっても議会にとっても議員にとっても、価値ある機会となる。そんな魅力ある議員がいないというなら、別の問題だ。しかし市民の代表で、票によって信任を得て職責に当たっているのだから、まちの政策課題を提起し自分の考えを語る機会を通じて、その魅力を磨いて発揮する努力と訓練は、議員にとっても必要ではないか。
2 目的を明確にし、手段を検討しよう
実際の「話し合いの場」の設計は、これらのうちのどれか、特に①あるいは②だけに限定されるということはあまりなく、目的が複合した状態になっているだろう。市民が議会の主権者(オーナー)で自治体政策の当事者(ユーザー)である以上、市民のための機構である議会が市民と向かい合う機会には、ほぼ必ず③の要素が入るはずだ。
だからこそ、話し合いの場のデザインは重要だ。
それぞれの機会をめぐって、複合する目的の優先順位を整理し、目的を明確にし、その目的を達成するためにどんな手法や工夫やしかけを用いるかを考える。これが本論でいう「話し合いの場」のデザインの大前提となる。議会報告会を行うときに、今回の機会は何を目標にするかを検討し、それに基づいた設計をしたか。議会報告会を、それぞれのイメージで期待を膨らませた曖昧な目的で、手近なあるいは暗黙の了解としてやり方を設定して、「こなす」機会にしていないか。市民に労力をかけて来てもらう機会がこれでは、あまりにもったいない。自分ではない誰かに来てもらい話してもらい考えてもらい、できればよい印象を持ってもらいたい。その誘導が、デザインなしにできるわけがない。
では、どうしたらいいか。その機会の重要度にもよるが、ハードルを上げすぎる必要はない。
まず(A)目的を言葉にし、その達成のための(B)手法、手段、用いる資源、必要なものを整理する。このとき、下整理は企画の核になる側がするとしても、参加する議員でできるだけ共有して確定することは重要だ。
これらを考え、「話し合いの場」を設計する前に、前提を二つ確認しておきたい。