2019.11.11 条例
自治体議会のための条例立法の基礎(2)
(3)雑則規定
雑則規定は、実体規定を適用する場合に必要となる、技術的、手続的、付随的な事柄について定める規定である。主なものとして、報告徴収に関する規定、立入調査に関する規定、規則等への委任に関する規定がある。
ア 報告徴収に関する規定
条例を執行するに当たって、関係する住民や事業者に報告を求めることを規定するものである。相手方に対する義務付けになるから、条例で規定しなければならない。報告を行わない場合に備えて罰則規定を設けることもできる。
なお、条例の中には、撤去等の措置命令の対象となる建築物等の所有者又はその連絡先を確知することができない場合において必要があるときは、当該自治体行政において保有する固定資産税の課税に関する個人情報を目的外利用することができると規定するものもある。
イ 立入調査に関する規定
条例に基づいて措置命令を行う場合には、その違反事実等を確認するため、その相手方の事務所等に立ち入って調査を行う必要がある。立入調査を行うことは相手方の権利侵害に当たるので、行うことができる旨を条例で規定しなければならない。調査のための職員が、身分証明書を携帯し、関係者から請求があったときは提示しなければならないことも規定する必要がある。調査を拒んだり妨げたりする場合に備えて罰則規定を設けることができる。
なお、「立入調査又は質問の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」とする規定を置くのが通例である。
ウ 規則等への委任に関する規定
条例の規定の仕方は、抽象的にならざるをえないところがあり、詳細については、執行の任に当たる行政機関である首長が定める必要があり、そのため、首長が定める規則に委任する規定を条例に置くことが一般的である。
この委任は、議会が首長に委任するのであって、条例で定めるべきことを委任してはならない。使用料等の金額の定めを規則に丸投げするような形で委任することは条例主義への違反になることが改めて確認されなければならない。
なお、「その他条例の施行に関して必要な事項」を含めて、一括して「市長が定める」と規定することが多く見られる。どんな形式で定めるかは特定していないが、規則で定めるのが原則であり、不透明な形式で定めることは慎むべきであることを、条例立法の際に首長から確認をとっておかなければならない。
また、実体規定の個々の条文で「規則で定める」とする場合もあるが、自由裁量的に「市長が定める○○」といった規定の仕方ではなく、「○○その他市長がこれに類するものとして規則で定める○○」のように裁量権の範囲を狭くする規定の仕方が望ましい。
(4)罰則規定
条例や条例に基づく措置命令の違反者に対し、罰則を科すことによって、条例の実効性を確保するために罰則規定を置く場合がある。罰則規定は、日本国憲法31条に基づく罪刑法定主義の要請により、条例で定めなければならない。
地方自治法14条3項により条例で定めることのできる罰則のうち刑罰は、以下のとおりである。なお、括弧内の量刑については、刑法第1編第2章に規定されている。
① 2年以下の懲役又は禁錮(1月以上)
② 100万円以下の罰金(1万円以上)
③ 拘留(1日以上30日未満)
④ 科料(1,000円以上1万円未満)
⑤ 没収
同じく条例で定めることのできる罰則のうち過料は、5万円以下と定められている。なお、地方自治法228条3項には、詐欺その他不正の行為により、分担金、使用料、加入金又は手数料の徴収を免れた者については、その徴収を免れた金額の5倍に相当する金額(5万円を超えないときは5万円)以下とすることができると定められている。
禁錮刑以上の刑に処せられた者は、一般廃棄物処理業者など業者になるために許可を要することを定める種々の業法において、一定期間、許可を得られなくなったりすることがある。
罰則規定では、どのような行為が犯罪となり罰せられるかという犯罪構成要件が明確に規定されなければならない。また、犯罪となる行為による社会への法益侵害の程度と刑の重さに釣り合いがとれていなければならないという比例原則にも適合していなければならない。
なお、刑罰は、警察や検察庁が担当することになるため、罰則規定を定める場合には、義務ではないが、検察庁との事前協議が必要となる。
(5)附則規定
条例には、その施行期日を定めたりするために附則規定を置く。附則規定には、以下のようなものがあり、この順序で規定する。
ア 施行期日に関する規定
一部の規定について施行期日を異なる日とすることもできる。施行期日を条例の公布の日より前に遡らせることはできない。ただし、適用対象となる者にとって有利となる場合に限って、規定を遡及して「適用する」ことは可能な場合がある。
イ 他の条例の廃止に関する規定
条例の制定によって他の条例を廃止する必要が生じる場合があり、そのような場合、附則に他の条例を廃止するための規定を置くこととなる。
ウ 条例の施行に伴う経過措置に関する規定
条例の制定や改正により従来の適用状態を新しい適用状態に円滑に移行させるために、条例の施行後に、従来の適用状態を一時的に認めたり、暫定的な特例を定めたりする必要がある場合に、経過措置を規定することとなる。
エ 他の条例の改正に関する規定
条例の制定によって他の条例を改正する必要が生じる場合があり、そのような場合、附則に他の条例を改正するための規定を置くこととなる。
オ 条例の有効期限に関する規定
その条例が効力を失う「終期」をあらかじめ規定しておくことができる。このような条例を時限立法という。