2019.10.25 予算・決算
議会のための予算のトリセツ
予算要求と議会
現状では、予算提案権は首長に専属しているので、予算が議会に提案される前の予算編成の段階では、議会や議員は公式的には関与できない。しかし、実質的には、多数派又は/及び与党派の議員・会派は予算要望を首長に示すことはできる。このような要望を受けて、首長は予算編成をするのであって、議員・会派が無力なわけではない。議会多数派の議決を得なければ予算は執行できない以上、首長側は議会多数派の了解を得られる程度には配慮しようとする。その意味で、予算編成に議員・会派が無力なわけではない。
とはいえ、以上のような関与は、要求側の行動原理である。およそ、住民にせよ、自治会・町内会にせよ、経済団体・福祉団体をはじめとする圧力団体にせよ、首長に予算要望はする。これらの団体に正式な権限はないにせよ、ある程度の配慮をしなければ、首長としては政治的支持を失う。それゆえに、一定の配慮をするはずである。議員・会派の要望を入れて首長が予算編成をするだけでは、議員・会派の公選職政治家としての強みは生かしきれてはいない。
議会の強みは、議決権を持っていることである。議決とは、要求側に対する査定側の立場を意味する。予算過程とは、要求と査定の連鎖である。そして、査定側は要求側の要望を取捨選択することにおいて権力を発揮する。関係団体は所管課に陳情をする。陳情が要求側である。陳情の一部が採択されて、所管課の予算事業に組み込まれる。この意味で、所管課が査定側になる。しかし、その所管課は、財政課に対して要求をする。財政課が査定側である。財政課がほとんど全てを査定してしまうと、首長には査定する余地がないので、首長は権力を持てない。財政課が権力を持つ。首長としては、全てを財政課に査定させてはいけない。財政課が査定しきれないものは、三役査定や首長査定に持ち込まれる。そのときは首長は権力を持つ。要するに、首長は各所管課からの要求のうち、ある事業を拒否し、ある事業を採択する。これゆえに権力を持つ。こうして首長は予算を議会に提案する。
議会と首長の関係では、首長が要求側で、議会が査定側に立つとき、議会は権力を持つ。また、このようなときに予算審議は実質的なものになる。要するに、首長提案の予算(案)なるものは、首長からの詳細な要求事項にすぎない。したがって、首長がゴーサインを出した予算事業であっても、議会が査定して減額又は拒否することができる。このようなときに、議会は首長に対して優位に立てる。それゆえに、実質的な審議ができる。つまり、議会の予算審議の基本は減額修正にある。
予算査定と議会~増額修正の意味~
ところが、通常の議員・会派の行動原理は、要求側である。つまり、首長に対して予算事業を求めるものであり、首長は査定側に立つ。いうまでもなく、権力関係では、要求側より査定側が強い。なぜならば、我欲が多い方が弱みを持つ。我欲の少ない方が強い立場になる。恋愛関係と同じであり、好きになってしまった側が好かれた側より弱い。一般に議員というのは我欲(主観的には「公益」、以下、同様)の固まりで、物欲しげに予算事業を求めるので、首長から足元を見られるのである。
それゆえに、予算事業を求める我欲の発揮として、議会・議員側は増額修正権を行使しようとするだろう。実際、「増額修正を妨げるものではない」という法制からして、増額修正は可能である。形式的には、「首長の予算提案権を妨げない限り」ということなのであるが、あくまで感覚の問題である。しかし、本質的問題は法解釈にはない。重要なことは、議会が要求側になってしまう限り、権力は絶対に発揮できないということである。なぜならば、議会が要求側の野放図な姿勢で増額修正をしても、次年度以降、必ず予算を抑え込む査定側の行動が必要になってくるからである。今年度の要求の拡大は、次年度以降の査定をさらに強化するだけである。つまり、次年度以降の首長の権力を増すだけであり、中長期的には何の意味もない。
もっとも、首長が我欲の少ない人間であるかというと、そのようなことは全くない。むしろ、首長こそ、首長職を狙った人間であり、議員よりはるかに欲望の固まりの人間の方が多い。首長の我欲はどのように満たすのか、といえば簡単である。自分の我欲を押し通すために、より重要でない予算事業を査定して、減額・拒否する。査定側の権力を行使して予算の余裕をつくり、そこに自分の我欲を押し込む。あるいは、自分の我欲を先に押し込んでしまい、予算総額は一定枠であるから、その枠内に他の事業を査定して押し込むだけである。このようにすれば、我欲を持ちつつ、査定側の権力を行使できる。
したがって、議会の予算審議においても、査定側のスタンスを持ちつつ、自己の要求側の欲望を満たすことはできる。簡単にいえば、自己の望む予算事業を先に増額修正して、その上で予算総額に収まるように、首長提案の予算事業を査定=減額修正することである。総額が一定である以上、自分の要望を押し通せば、他者の要望を削減するしかない。このようなことをする限りにおいて、議会は予算審議に関与することになる。つまり、要求側ではなく査定側、つまり首長提案の予算を査定することが議会の役割なのである。