2019.10.10 条例
第4回 条例の修正案
修正案の作成は「一部改正」
条例の修正案は、原案の一部に手直しを加えるものであり、可決されれば原案に溶け込み、一体となって効力を生じます。つまり、修正案はいわば「原案の一部改正案」で、案文も法制執務における一部改正の要領で作成します。原案が一部改正案であれば、修正案は「一部改正の一部改正」です。たいていの議会では、条例の一部改正は「改め文」で作成されますから、修正案もその要領で作成します。次の例で見てみましょう。
議案第○号×××条例の一部を改正する条例に対する修正案 ×××条例の一部を改正する条例案の一部を次のように修正する。 第3条の改正規定中「市民」を「市民等」に改める。 第5条の改正規定を削る。 第8条の次に1条を加える改正規定を次のように改める。 第8条の次に次の1条を加える。 (適用上の注意) 第 9条 この条例の適用に当たっては、市民等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。 |
修正案では、原案のどこをどのように直すのかをきちんと特定する必要があります。例に掲げた一部改正案の修正案では、現行条例の3条を改正する原案の規定を「第3条の改正規定」というように、手直しする条項を指定しています。また、文言を置き換える「改める」、追加する「加える」、削除する「削る」といった、法制執務ではおなじみの用語が使われています。
落としどころの模索と技術
議会が条例を修正するといっても、修正された条例を運用するのは執行機関です。先に述べたように、条例の施行にはそれ相応の準備が必要ですから、あまり無茶な修正をすると住民サービスがかえって混乱する可能性もあります。修正案が可決されても、こうしたマイナスの面を見過ごせないとなれば、長には再議(一般再議。法177条1項)という手もあります。修正案の作成では、こうしたバランスを求められることもあるのです。
例えば、市民や事業者など、一定の人たちに「~しなければならない」と義務的な負担を求める原案の規定について、過度の負担となることを議会が懸念したとしましょう。議会としてはこの規定自体を削除する手もありますが、それでは彼らに施策への協力を求めたいとする条例全体の趣旨に反するとして長が難色を示すことも考えられます。そこで、この規定を「~するよう努めるものとする」つまり努力規定にするといった感じです。
議会の意思を反映しつつ、執行機関に必要以上の混乱を招かないようにするための方法は他にもあります。
例えば、原案の制度設計にはおおむね賛成するが、その効果には一抹の不安があるので、実績次第では制度の見直しをしてほしいと議会が考えた場合、次のような規定(検討条項)を加えてその意思を示すことがあります。
(検討) 第 ○条 市は、この条例の施行後3年を目途として、この条例の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この条例の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。 |
上の例では、施行後3年を目途に制度の見直しを求めているものの、「所要の措置」の要否の判断、あるいは要とした場合の措置の内容については、市の裁量に委ねています。それでも、制度の運用に留意を求める議会の意思を条文の形で残すことで、「その時」にはこの規定を足がかりに質問等で市の認識をただすといった、行政監視の「くさび」として機能させることも考えられるでしょう。
また、使用料などの料金を引き上げる原案に対して、議会としては、引上げの必要性や引上げ幅の妥当性は認めるけれども、いきなりだと住民にとって過度の負担になるという懸念がある場合、十分な周知期間を確保するために施行日を遅らせるほか、引上げに「踊り場」を設けて段階的に行うことが考えられます。本則の引上げ規定を2段階にして施行日をずらす「2段ロケット」とい
われる手法や、本則の規定は変えず、附則に一定期間適用される「経過措置」を置くというものです。
①【「2段ロケット」方式の例】 第1条 ×××条例の一部を次のように改正する。 別表中「A」を「B」に改める。 第2条 ×××条例の一部を次のように改正する。 別表中「B」を「C」に改める。 附 則 この条例は、令和2年4月1日から施行する。ただし、第2条の規定は、令和3年4月1日から施行する。 ②【「経過措置」方式の例】 ×××条例の一部を改正する条例の一部を次のように修正する。 附則に次の1項を加える。 (適用日から令和3年3月31日までの間の特例) 2 この条例の施行の日から令和3年3月31日までの間の使用料の額は、改正後の条例第○条の規定にかかわらず、Bとする。
(※原案の施行日はいずれも令和2年4月1日)
|
上の例では、AをCに改正する原案に対し、いずれも、令和2年度からCとするのは性急だとして、Cとするのは令和3年度からで、それまでの1年間はBとする修正を行っています。