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2019.09.25 公職選挙法

選挙運動費用収支報告書の記載/実務演習〈地方行政〉

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総務省大臣官房秘書課 中村佳央理

 A市において近く行われる市議会議員選挙に立候補予定のB氏から、選挙運動をするに当たり発生する次のような費用は選挙運動費用収支報告書に記載する必要があるかについて、A市の選挙管理委員会に問合せがあった。担当のC君はどのように答えたらよいか。
① 拡声機や看板等の取付けや撤去期間を見込んで選挙運動期間の前後数日を含めて自動車を借りた場合の選挙運動期間以外における当該自動車に係る料金。
② 選挙運動期間中に賃借した事務所の費用の支払に係る振込手数料。なお手数料の支払は選挙期日後である。

1 はじめに

 2019年は統一地方選挙及び参議院議員選挙が行われたまさに「選挙の年」であるが、選挙が公正に行われることを確保するためにも、選挙に係るお金の流れがつまびらかにされることは重要である。その一環として、公職選挙法(昭和25年法律100号。以下「法」という)の規定により、選挙期日後一定期間以内に選挙運動費用収支報告書を提出することが義務付けられているが、法において収支報告に係る種々の規定が置かれていること、政治資金規正法(昭和23年法律194号)の規定により政治団体が毎年提出する政治資金収支報告書とは様々な相違点があることなど、実際の選挙運動費用収支報告書作成に当たっての留意点は少なくない。そこで、本問では選挙運動費用収支報告書への記載の際に迷いが生じやすいと思われる事案について検討する。
 なお、文中意見にわたる部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りさせていただく。

2 選挙運動費用収支報告書における記載事項

 金のかからない選挙を実現し、選挙の公平性及び透明性を確保するため、出納責任者は、公職の候補者の選挙運動に関しなされた寄附及びその他の収入並びに支出について記載した報告書を提出しなければならないこととされている(法189条1項)。この選挙運動費用収支報告書には、選挙運動に関するすべての寄附及びその他の収入並びに支出を記載する必要がある(法185条1項)。
 ここでいう選挙運動に関する支出とは、選挙運動を行うために金銭、物品その他の財産上の利益を供与し、若しくは交付し、又はその供与又は交付の約束をすることをいう(法179条3項)。ここには直接選挙運動となるような行為をすることに要する費用のほか、選挙運動の準備行為、立候補の準備行為、選挙運動に従事する者同士の内部的な意思の連絡統一のための行為等のように、その行為自体は選挙運動に該当せずとも、究極において選挙運動をするために行われる行為に関するものも含まれると解される。

3 選挙運動に関する支出と見なされないもの

 上述のとおり、選挙運動費用収支報告書には選挙運動に関する支出であるならば期間の制限なくすべてを記載する必要があるとされているが、法197条において選挙運動に関する支出と見なされないものが規定されており、同条1項各号及び2項に掲げる支出に該当するものは選挙運動費用収支報告書への記載は不要である。
 選挙運動に関する支出と見なされないものの中には、主として選挙運動のために使われる自動車(法141条1項の規定による自動車)を使用するために要した支出が含まれる(法197条2項)。ここでの自動車を使用するために要した支出とは、本来その自動車が走るために必要な経費であり、例えば、自動車の借上料、ガソリン代、重油代、オイル代、修繕代、タイヤ代、運転手の雇料、超過勤務手当、宿泊代及び食事料等である。これらの費用は、法185条の規定による選挙運動費用収支報告書へ計上する必要はなく、その支出時期及び方法等についても選挙運動費用に係る関係規定の適用を受けない。
 一方、自動車に取り付ける拡声機や文書図画に要する経費は、自動車が走るために必要な経費ではないので、これに該当せず、選挙運動費用収支報告書へ記載しなければならない。
 また、選挙期日後において選挙運動の残務整理のために要した支出も、選挙運動に関する支出には含まれない(法197条1項4号)。選挙運動の残務整理に係る支出とは、選挙期日後でなければ支払の原因が発生しない費用を指し、例えば選挙事務所の閉鎖、選挙運動の精算、その他事実上選挙運動の後片付けを行う際に当然要する費用をいう。選挙期日前に生じた債務はこれに該当せず、選挙運動費用収支報告書への記載が必要である。

4 設問の検討

 以上を踏まえ、設問について検討する。
(1)設問①について
 設問①については、選挙運動の準備行為として、告示日前から選挙運動に使用するために自動車を借りた場合、その借入期間全体の借上料が選挙運動用自動車を使用するために要した支出といえる。そのため、借入れに要する初期費用も含めて、選挙運動に関する支出と見なされず、選挙運動費用収支報告書に記載する必要はない。一方、自動車に取り付ける拡声機や看板等は自動車及び船舶を使用するために要した支出(法197条2項)には該当せず、選挙運動費用収支報告書に計上する必要がある。
 なお、選挙運動用自動車は法141条7項及び8項にあるように、公費負担の対象であり、公職選挙法施行令(昭和25年政令89号)109条の4第2項でその上限額について規定されている(国政選挙の場合。地方選挙の場合の公費負担上限額は条例で定められる)。公費負担が受けられる期間は、立候補の届出のあった日から選挙期日前日までであり、選挙運動期間中以外は公費負担の対象外である(公職選挙法施行令109条の4第4項)。そのため、選挙運動期間中に実際に使用した日ごとの借上料のみが公費負担の対象となり、選挙運動期間以外の借上料は公費負担の対象にはならないことに留意する必要がある。
(2)設問②について
 設問②については、選挙運動期間中に事務所を賃借していた場合、その賃借料の支払の約束は、選挙期日前に発生したものであり、選挙運動に関する支出に該当する。実際の支払(ここでは賃借料の振込み)が選挙期日後であったとしても、選挙運動に関する支出として選挙運動費用収支報告書への記載が必要である。また、その賃借料の振込みの際に発生する手数料は、選挙期日前に生じた債務に係る費用であり、選挙期日後でなければ支払の原因が発生しない費用ではない。そのため、選挙の期日後において選挙運動の残務整理のために要した支出(法197条1項4号)には該当せず、選挙運動費用収支報告書へ記載する必要がある。

5 おわりに

 以上、本問においては、ある支出が選挙運動費用収支報告書の記載事項に該当するか否かについて解説した。出納責任者による選挙運動費用収支報告書の提出及び選挙管理委員会によるその公開は、選挙に係るお金の使途等を国民に明らかにすることで、選挙の公平性及び透明性を担保する重要な役割を果たしている。本問における検討が、読者の法に関する理解及び適切な事務遂行の一助となれば幸いである。

(※本記事は「自治実務セミナー」(第一法規)2019年9月号より転載したものです)

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