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2019.09.10 選挙

第28回 新たな議会に適合する地方選挙制度(下)――「人格を持った議会」の作動のために――

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(2)地方選挙制度改革を超える論点
 住民自治を進めるための地方選挙制度改革について提案してきた。選挙制度改革を軸に、それと関連する論点(周辺という意味ではなく、選挙制度を軸とした場合の関連する論点)を確認しておこう。すでに本連載では検討した、あるいは今後検討する論点である。
① 狭域的住民参加制度の充実
 周辺地域の代表制についてである。平等性を前提にする限り、必然的に周辺地域の代表者は少なくなり、地域が衰退する可能性は高まる。しかし、その地域も重要な地域である。そこで、議会に「地域議会」、「第二議会」(【論点:指定都市出身議員が道府県議会議員に占める割合が高い「問題」】、参照)のような地域住民の声を聞く場を設置することは必要である(議会に設置する審議会)。
② 国政政党と地方政党との関係:国政選挙の中間選挙、また国政政党間の代理戦争にはしない!
 政党を重視した、例えば比例代表制の導入に伴い、全国政党の中央(本部)の意向が強まり、地方の政党・会派の自律性が弱まる可能性がある。地方には地方の争点がある。中央政党とは異なる分岐線(争点)がある。国政政党の代理戦争(中間選挙)とならないようにしなければ、地方政治は国政の下部機関となる。
 中央政党を基軸とした会派は必要であるとしても、政党が分権化することが必要である。このように地域の政党・会派こそが地域民主主義を充実させ機関競争主義を作動させる。地方分権改革を踏まえた地方政治の作動にとって、こうした地域に根ざした政党・会派の強化と充実が求められる。その際、次の点は不可欠である。
 ・ 選挙の際に地域の政党(国政政党を含めて)のマニフェストを提示して、住民に対して地域課題を明確にする。
 ・ 明確にした政策課題を持って議員間討議、議員と首長との討議を積極的に行う。
 ・ その討議に当たっては論点を明確にするとともに、妥協点やよりよい政策を発見することに努める。
 ・ 地域に根ざした政党は重要であるとしても、日本の地方自治体の選挙制度も地方政府形態も政党を前提に設計されているわけではなく、会派に所属しない議員を排除しない。
③ 直接民主制の充実
 国政とは異なり、多様な直接民主主義制度が地方政治には導入されている。人格を持った議会を担う議員は、一度選出されれば独自に行動してよいわけではない。そのために、議会への多様な住民参加制度が制度化されている。その一つとして、条例制定改廃の直接請求制度が導入されており、さらに、それらが作動しない場合のために、議会解散・議員/首長等解職の直接請求制度が導入されている。
 国政とは異なる地方政治の選挙では、住民と歩む議会の創造が前提となる。人格を持った議会は、常に住民と歩む、まさに協働する議会となる必要がある。議員任期が長くなれば(アメリカの地方選挙では4年は長い方である)、リコール制度が不可欠となるのはそのためである。議会解散・議員/首長等の解職の直接請求(リコール)要件の緩和は必要となる。また、条例制定改廃の直接請求の実質化への地方自治法改正は住民と歩む議会の創造にとって不可決である。必要署名数の基準を変更しつつ(例えば直近の選挙の投票総数の10分の1以上の連署)、議会が否決した場合に拘束型住民投票とすることなどを想定している。
④ 選挙制度改革を決めるのは住民
 すでに指摘したように、地方選挙制度では絶対的に妥当するものは想定できない。暫定的あるいは次善の改革を考えるしかない。本連載では、選挙制度を人口や権限とも関連させているが、かといって、それらに一対一で対応するものでもない。選択肢の中からそれぞれの自治体が選択することになる。そこで、選択に当たってメリットとともに、デメリットを抱え込む責任を伴う。条例に基づく改正となるが、その責任は議員だけではなく、住民にもある。選挙制度改革には、住民投票が不可欠である。

~理解をさらに深めるために~
① 国政政党と地方議員の関係
② 代表制と直接民主制の関係
③ 直接民主主義制度の充実(選挙とリコール制度との関係)
④ 選挙において候補者・政党を比較できるための主権者教育

(1) 法制化としては国政よりも遅れたが、実際には北川正恭元三重県知事の提案によって2003年統一地方選挙から実践されている。その意味で、地方選挙の方が早い。
(2) 地方選挙制度へのまなざしの重要性は、一般にイメージされる選挙運動にかかわるものだけではなく、代表者選出制度(選挙区、単記・連記、政党制等)を同時に含んでいる。比喩を活用すれば、前者はすでに鍋料理が決まっていて、具材を入れる順序(選挙期間)、入れる場所(選挙運動)、あるいはその具材の質(マニフェスト、選挙公報)等の議論が対象となる。それに対して後者は、そもそも鍋自体から考える。土鍋(比例代表制)にするか、すき焼き鍋(小選挙区制)にするか、あるいはフォンデュ鍋(中選挙区制)か……といった選択である。これ(正確にはこれと政党選挙の有無)によって、議員の行動パターンが大きく変わる。さらに、そもそも鍋料理にするかどうかの根本的な視点(住民総会による議会の代替、あるいは両者の併存)も重要である。
(3) ポルスビーによる変換型議会(アメリカ連邦議会のような)に親和的だと考える読者もいるだろう。筆者は、住民参加を基軸に据えているので、それとも異なる。
(4) 前者は、Miller(1956)、後者はCarey and Hix(2011)に基づく指摘である。木寺(2018a:81)にも同様な指摘がある。
(5) この議論に従えば、大選挙区の場合、単記にせよ連記にせよ、候補者(政党)数が10人未満でなければ、有権者は有効な選択ができない。市町村議会議員選挙の場合、候補者を10人未満と想定するならば、定数はそれ以下にすべきという議論に至る。なお、比例代表制の場合は政党数が問題なので、定数は10人未満としなくてもよいことにはなる。この点で、比例代表制は有効な制度である。しかし、市民社会への政党の浸透度が高くなければならないし、いくつかの問題を抱えている(後述)。
(6) 第30次地方制度調査会(第21回専門小委員会等)のほかに、北海道議会議員定数等検討協議会(特に「有識者との意見交換会」2012年)、第12回都道府県議会議員研究交流大会(第5分科会「大都市制度改革と広域自治体議会」)などでも議論されている。

〔参考文献〕
◇岩崎美紀子(2018)「地方議会の選挙制度──都道府県議会選挙は比例代表制に」都市問題109巻5号
◇江藤俊昭(2004)『協働型議会の構想──ローカル・ガバナンス構築のための一手法』信山社出版
◇江藤俊昭(2006(増補版2007))『自治を担う議会改革』イマジン出版
◇江藤俊昭(2011a)「地域政治における首長主導型民主主義の精神史的地位」法学新報118巻3・4号
◇江藤俊昭(2011b)「地方政府形態と地方選挙制度」山梨学院大学法学論集68号
◇ 江藤俊昭(2011~2012)「新たな議会に適合的な選挙制度を考える(第1回~第4回)」実践自治 Beacon Authority 45号、46号、47号、48号
◇江藤俊昭(2013)「地方議会改革と地方選挙制度改革構想」月刊東京2013年3月号
◇ 金井利之(2017~2018)「『地方議会・議員に関する研究会報告書』について(その1~その5)」議員NAVI 2017年10月25日号、11月27日号、12月25日号、2018年1月25日号、2月26日号
◇木寺元(2018a)「地方選挙制度改革と政治工学」自治総研2018年3月号(通巻473号)
◇ 木寺元(2018b)「誰がための選挙制度改革?──『街灯の下で鍵を探す』議論にならないために」都市問題2018年5月号(vol.109)
◇竹下譲ほか(2008)『よくわかる世界の地方自治制度』イマジン出版
◇自治体国際化協会(2003a)『英国の地方自治』
◇自治体国際化協会(2003b)『ドイツの地方自治』
◇自治体国際化協会(2004)『スウェーデンの地方自治』
◇早川誠(2014)『代表制という思想』風行社
◇山下茂(2010)『体系比較地方自治』ぎょうせい
◇ Carey, John M. and Simon Hix (2011)“The Electoral Sweet Spot: Low-Magnitude Proportional Electoral Systems” in AJPS, 55(2). (https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1540-5907.2010.00495.x)
◇ Miller, George, A(1956)“The Magical Number Seven, Plus or Minus Two: Some Limits on Our Capacity for Processing Information”, in Psychological Review 63: 81-97.
◇ Tindal, C. Richard and Susan Nobes Tindal(2004)Local Government in Canada 6th Edition, Nelson. (2nd Edition(1984, McGraw-Hill Ryerson.)及び 4th Edition(1995, McGraw-Hill Ryerson.) も活用 )

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