2019.09.10 コンプライアンス
第17回 インターネット時代の情報発信(選挙時編)
(2)電子メールによる選挙運動(法142条の4)
【できる主体】
・公職の候補者……○
・政党等…………○
・その他の者……×
確認団体でない後援会や候補者でない個人が選挙運動用電子メールを送ることは、認められていません。 このことは、適法な送信者から送られてきたメールを転送する場合にも適用されるため、候補者から後援会に来た選挙運動用電子メールを会員に転送することもできません。
●全部自分で送らなければいけないの?
なお、大量の電子メールアドレスにメールを送付することになるため、メール送信代行業者を使ったり、事務所の事務員が実務的な送信作業を行う可能性があります。この場合、業者や事務員が送信者たる候補者や政党等の指示に基づいて機械的に送信事務のみを行っている場合は、単なる送信者の手足(道具)と見ることができ、送信者の主体の制限に違反しません。
しかし、業者や事務員が文面を考えたり編集するなど、もはや手足(道具)といえない場合には、実質的な送信者は候補者や政党等と見ることはできず、法142条違反になると考えられます。
また、選挙運動を組織的かつ効果的に行うために、インターネットを通じての連絡等も行われると思います。この場合は、電子メール等に当たらないホームページや掲示板、SNSのダイレクトメッセージ機能やフェイスブックなどを利用することで、電子メールの規制を回避することができます。
【できること】
特定の電子メールアドレスに宛てて自己ないし所属候補者への投票を呼びかけたり支持を求める選挙運動用電子メールを送ることができます。
当該選挙運動用電子メールには、文章のみならず、文書や画像を添付したり、自身や政党のホームページや選挙サイト等へのリンクを張ることも可能です。
【注意】
① 宛先の制限
選挙運動用電子メールは、以下の宛先(受信者)に対してのみ送付することができます。
ア あらかじめ、送信者に自ら送信先電子メールアドレスを通知し、かつ選挙運動用電子メールを送信するように求め、又は送信に同意することを通知した者(法142条の4第2項1号)
→受信者から通知された電子メールアドレスへ送付できます。
イ あらかじめ、送信者に自ら政治活動用電子メールの送信先電子メールアドレスを通知し、かつ送信者の政治活動用電子メールを継続的に受信している者であって、以下の要件に当たらない者(同条2項2号)
・ その後、通知した電子メールアドレスに政治活動用電子メールの送信をしないように送信者に通知した者
・ あらかじめ送信者から送付された選挙運動用電子メールを送信する旨の通知に対して、自ら通知した電子メールアドレスに選挙運動用電子メールの送信をしないように送信者に通知した者
→ 受信者から通知された政治活動用メール受信用の電子メールアドレスのうち、受信者から当該選挙運動用電子メールの送信拒否通知を受けた電子メールアドレス以外の電子メールアドレスに送信できます。
●受信者からの通知が必要です!
この点、総務省のガイドラインでは、選挙運動用電子メール送信者に対し、①電子メールアドレスを記載した名刺や書面を交付した場合、②電子メールアドレスを本文に記載した電子メールを送信した場合、③通知をするため後援会入会申込書に電子メールアドレスを記入した場合、などを「自ら通知」の例に挙げています。
また、同ガイドラインは、電子メールアドレスの記載がある名簿を購入して知った事例、メール配信代行業者を利用してメールマガジンを配信している場合に、受信者の電子メールアドレスが送信者に通知されていない事例や一般的に公表されている電子メールアドレスを収集した事例などは、「自ら通知」といえないとしています。
つまり、受信者自らが、送信者に電子メールメールアドレスを通知することを認識して行うことが必要であるといえます。
その意味で、例えば友人を通じて電子メールアドレスの提供を受ける場合に、提供者に取得の目的や誰がその情報を取得するのか明確にしないまま電子メールアドレスの提供を受けたようなときは、「自ら通知」があったとはいえないと考えられます。
② 記録保管義務
選挙運動用電子メール送信者は、前記①ア及びイのそれぞれの場合に応じて記録を保管する義務があります(法142条の4第5項)。
〈①アの場合〉
・受信者が電子メールアドレスを自ら通知したこと
・ あらかじめ受信者から選挙運動用電子メールの送信をするように求めがあり、又は送信をすることに同意があったこと
〈①イの場合〉
・受信者が電子メールアドレスを自ら通知したこと
・ 送信者が当該電子メールアドレスに継続的に政治活動用電子メールの送信をしていること
・ 送信者が受信者に対し、あらかじめ選挙運動用電子メールの送信をする旨の通知をしたこと
上記の送信の求めや送信の同意は、あらかじめ一度取得しておけば、その後、受信者から拒否の通知がない限り、選挙ごとに再度確認する必要はありません。このことは拒否の通知も同様で、一度拒否すればその後の選挙においても拒否の効力は継続するものと考えられます。
●送信の希望や同意の確認は明確に!
送信の求めや送信の同意について、名刺を渡したり申込書などに電子メールアドレスを記載しただけで必ずしも政治活動用電子メールや選挙運動用電子メールの受信までも希望しているとは限りません。記録保管義務との兼ね合いや事後のトラブルを防ぐためにも、最初に送付するメールで政治活動用電子メールや選挙運動用電子メールの受信の可否についての確認(例:「今後必要がない場合はその旨お申し出ください」)や申込用紙や申込みフォームに受信の可否についてのチェック項目を入れておく(例:「政治活動用電子メールや選挙運動用電子メールが必要ない場合にはチェックを入れてください」等)などして、送信の希望・同意の存在を明確にしておくべきでしょう。
また、選挙運動用電子メールの送信通知や同意を求める通知につき、選挙告示前に送ることも多いと考えられます。そのような確認の通知を送ること自体は告示前でも許されると考えられているものの、文面において選挙での支持や選挙運動にかかわる内容を記載した場合には事前運動の禁止(法129条)に抵触する可能性がありますので注意が必要です。
他方で、選挙運動期間中に選挙運動用電子メールの送信通知や同意を求める通知に選挙運動にかかわる文言を記載した場合は、「あらかじめ」の要件を満たさず法142条の4第2項の潜脱行為となる可能性があります。
継続的に政治活動用電子メールの送信をしていることについては、過去のメールマガジン等のバックナンバー、各政治活動用電子メールの送信先電子メールアドレス一覧などのデータが記録になると考えられます。
選挙直前に唐突に政治活動用電子メールを送信しただけでは、「継続的」の要件を満たさない可能性があります。
③ 送信メールにおける表示義務(法142条の4第7項)
選挙運動用電子メールには、以下の表示をしなければなりません。
・当該メールが選挙運動用電子メールであること
・送信者の氏名又は名称(選挙管理委員会に届け出たものと同一のもの)
・送信者に対して、送信拒否の通知ができることの説明
・ インターネット等を利用する方法によって送信拒否の通知を行うために必要な電子メールアドレスやその他の通知先
表示については、どの時点からでも拒否の通知が行えるようにするため、メールごとに表示が必要と考えられています。
④ 送信の禁止(法142条の4第6項、第2項)
相手方から、事前に電子メールアドレスを明らかにしてそのアドレスに選挙運動用電子メールの送信をしないよう通知を受けた場合は、当該電子メールアドレスに選挙運動用電子メールを送ることはできません。