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2019.08.27 選挙

選挙ポスター作成費の公費請求額が過大であったことが判明した場合候補者はその差額を市に返還することができるか/実務と理論

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3 寄附の禁止

 金のかかる選挙を是正し、選挙を浄化することを目的として、法199条の2第1項は、一定の例外を除き、「公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む……)は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域……)内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない」と定めている。国及び地方公共団体についても特に選挙区内にある者から積極的に除外する理由が見当たらないので、これらも選挙区内にある者に含まれるものと解されている。
 なお、「寄附」について、法179条2項は「金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付、その供与又は交付の約束で党費、会費その他債務の履行としてなされるもの以外のものをいう」としている。

4 設問の検討

 以上を踏まえて設問を検討するが、本来支払われるべき額を超えるポスターの作成費が、過誤請求に基づき公費で支払われた場合、候補者がその過大であった金額を市に返還することが法199条の2に定める寄附の禁止に抵触するか否かが論点となる。
 3 で述べたとおり、地方公共団体たる市も「選挙区内にある者」に含まれることから、当該返還が法179条2項にいう寄附に当たる場合、寄附の禁止に抵触する。ここで、当該返還が寄附に当たるか否かであるが、2(2)で述べたとおり、衆議院小選挙区選出議員の選挙等における選挙運動用ポスターの作成費の公費負担については、令により単価と作成枚数に基づき上限額が規定されており、都道府県の議会の議員及び長の選挙並びに市の議会の議員及び長の選挙についてもこれに準ずることとされているところである。実際に作成されたポスターに係る費用のうち、この上限額の範囲内にあるものが公費負担の対象となるものである。
 設問のように、市から作成業者に代金が支払われた後に請求額に過誤があったことが判明した場合、ポスター作成業者からの当該請求に基づき市から交付された公費の超過分は法律の原因に基づかない給付を受け取っていることになり、民法(明治29年法律89号)703条にいう不当利得に当たるため、市に対して返還する必要がある。
 したがって、候補者からの市に対する過誤請求分の返還は、本来候補者から作成業者に対し支払われなければならなかった金額を、市から公費の交付を受けた作成業者の代わりに返還しているものであって、不当利得返還債務の履行と位置付けられるところであり、法179条2項にいう寄附には該当しないため、法199条の2に定める寄附の禁止に抵触しないものと解される。
 なお、一方で、市長選当選後、首長が適法に支払われた選挙公営費を首長自身から市に返還したいと申し出たような場合には、法199条の2の規定に抵触するおそれがあるところである。

5 おわりに

 以上、過誤請求に基づき過大に公費が支払われた選挙運動用ポスターの作成費について、候補者が過大に支払われた額を市に返還することができるか検討を行った。本問が法1条の「民主政治の健全な発達」に資することを期待して、論を締めくくりたい。 

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