2019.06.25 選挙
2月にA市→B市、3月にB市→A市と同一県内を転居した有権者は4月のA市長選挙・県知事選挙に投票できるか/実務と理論
5 設問の検討
以上を踏まえた上で、設問について検討する。
(1)A市長選挙について
同一県内のA市からB市に転出した甲は、転出後再びA市に転入し、A市の選挙人名簿からの抹消がなされていない状態であっても、法9条2項にいう「引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有する者」に該当しないため、A市長選挙の選挙権を有しておらず、当該選挙において投票することはできない。
なお、A市の選挙人名簿には転出の事実に基づいて選挙人名簿に名簿登録地市町村の区域内に住所を有しなくなった旨(転出した旨)の表示がなされた状態にあり、甲がA市に再び転入してからA市長選挙の執行までの間に3か月が経過していないことから、当該選挙人名簿になされている表示が消除されることはない。
(2)県知事選挙について
甲が転出前にA市において3か月以上住所を有していた場合には、同一県内のA市からB市に転出した後、再度A市に転入していた場合であっても、法9条3項に基づき、県知事選挙においては選挙権を有することとなる。また、A市の選挙人名簿には、甲の転出の事実に基づいて表示がなされているものの、抹消時期は到来しておらず、引き続き選挙人名簿に登録された状態である。このため、県知事選挙において甲が投票をすることは可能である。
なお、この場合には、甲が選挙人名簿に登録されているA市において、当該選挙人名簿の属する投票区の投票所において投票を行うことになる。
6 おわりに
以上、本問では、同一県内を転居した有権者の市町村長選挙及び県知事選挙における投票の可否について、設問に従って具体的に検討を行った。
今回検討を行った論点に関しては、1において記述したとおり、選挙期日が近づくにつれて住民からの問合せが多くなること、また、本年度においては、地方公共団体の議会の議員及び長の任期満了による選挙等の期日等の臨時特例に関する法律(平成30年法律101号)の成立に伴う第19回統一地方選挙が平成31年4月7日及び21日に執行される予定であることから、各都道府県及び市町村の選挙管理委員会の職員におかれては、選挙権や選挙人名簿に係る法の規定の基本的な考え方を正しく理解した上で、適切な選挙事務の執行がなされることを期待する。本問における検討が、その一助となれば幸いである。
(※本記事は「自治実務セミナー」(第一法規)2019年6月号より転載したものです)