2019.05.27 小規模自治体
小規模市町村の議会とは ──『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その14・完)──
東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
総務省に設置された「町村議会のあり方に関する研究会」の報告書(以下『報告書』という)の実体的な評釈を、前回までで一通り終えた。そこで今回は、『報告書』を受けて、小規模市町村の議会について、考えてみよう。
議員/人口比率
小規模市町村で議員のなり手不足が深刻になりやすいのは、議員/人口比率が、一般には小規模市町村の方が高く、大規模自治体になればなるほど、それが低くなる傾向があるからである。住民の中から議員にならなければならない比率又は確率は、小規模市町村の方が大きいのである。もし、大規模自治体で、小規模市町村の議員/人口比率と同じになるぐらいに議員定数があるとするならば、おそらく大規模自治体の方で議員のなり手不足がもっと表面化するだろう。
議員1人当たりの住民数は、小規模市町村は小さく、それゆえに住民から見れば議員の姿は見えやすい。もちろん、「住民も歩けば議員に当たる」というほどではないが、小規模市町村の方が議員の存在感は大きい。その意味で、住民の意向を代表するという議員の役割や機能という点からは、実は大規模自治体の方が深刻なのである。大規模自治体の議員の方が、機能低下が著しい。そのため、議員のなり手不足に起因する表面的な無投票/欠員という事態に目を奪われすぎることには、注意が必要である。
もっとも、大規模自治体と小規模市町村では、住民にとって必要な議員機能が同一ではないということもある。一般に、大都市圏の人口の多い自治体では、大都市圏社会の特徴として、民間サービスの比重が高い。それゆえ、日常生活の観点から、行政サービスに依存する比重は小さく、したがって行政サービスのあり方に住民が民主的統制をする必要性も小さい。住民は、行政に高い関心を持つ必要はないし、また、それで充分なのである。こうすると、大規模自治体では、議員機能の供給も低下しているが、議員機能への需要も少ない。そうであるならば、大規模自治体において必要な議員機能が満たされていないかどうかは、需給バランスから見ていく必要があろう。したがって、大規模自治体の議員の機能低下が著しいかどうかは、必ずしも明らかではない。