2019.05.27 コンプライアンス
第15回 浮かれて踏み外さないように──選挙後の対応
解説
解説1 選挙期日後の注意点
解説2 選挙期日後の挨拶行為の制限(法178条)
解説3 事後買収(法221条1項3号等)
解説3 事後買収(法221条1項3号等)
解説4 その他の規制
解説1 選挙期日後の注意点
選挙期日後、当選・落選にかかわらず有権者や支援者の方々に対して感謝やお礼を伝えることは、人として当たり前のことといえるでしょう。
しかし、法はそうした感謝やお礼といった挨拶について、選挙の公明と適正(法1条)の確保の観点から一定の方法・態様を禁止しています。
また、選挙が終わると選挙事務所の片付けも行いますが、その際にうっかり違反とならないよう気をつけなければならないこともあります。
今回、これらについて解説していきます。
解説2 選挙期日後の挨拶行為の制限(法178条)
1 規制の内容
(1)対象範囲
ア 時期
法178条の規制対象となる時期は「選挙の期日後」です。
これは、投票箱が閉まった後がスタートとされ、その意味で投票日当日も含まれることになります。そして、規制の終期はありません。投票日の1年後であろうと、次の選挙の後であろうと規制されることに注意が必要です。
また、昨今話題となっている無投票当選の場合は、投票をしないこととなった事実が告示されたときからになります(法100条4項、5項、178条柱書かっこ書)。
イ 対象者(行為者)
対象者は「何人も」であり、候補者であった者や選挙運動関係者に限られず、一般の有権者も含まれます。
また、当該選挙区域内の者にも限られませんので、他の地方公共団体に居住する場合でも規制を受けることになります。
ウ 対象者(相手方)
選挙人、すなわち有権者を指します。
(2)規制される行為
ア 共通する要件
規制される行為に共通する要件は、以下のとおりです。
① 選挙人(有権者)に対して行うもの
直接行う場合のみならず、間接的な方法も含まれます。
② 当選又は落選に関し挨拶する目的があるもの
他の目的が併存する場合も含まれます。また、一見、選挙とは無関係な挨拶や事務連絡などのように見えても、真意は当落に関する挨拶を目的に含む場合にも対象となります。
実際、選挙期日後間もない時期において候補者であった者や選挙運動関係者が、有権者に選挙の当落と完全に無関係な挨拶をすることは多くないと考えられます。挨拶の時期や内容、相手との関係などから実質的に判断されることになります。
イ 具体的な行為の内容
法178条が規制するのは、挨拶行為全てではなく、以下に掲げる行為に限定しています。
① 選挙人(有権者)に対する戸別訪問(1号)
② 文書図画の頒布又は掲示(2号)
③ 新聞紙・雑誌の利用(3号)
④ 放送設備を利用した放送(4号)
⑤ 当選祝賀会その他の集会の開催(5号)
⑥ 気勢を張る行為(6号)
⑦ 当選に関する答礼のため当選人や所属政治団体等の名前を言い歩くこと(7号)
(ア)選挙人(有権者)に対する戸別訪問(1号)
ここにいう戸別訪問は、選挙に関する戸別訪問(法138条)と同様です(連載第10回(2018年11月26日号)記事参照)。
つまり、家の中に入らず玄関や庭先での挨拶でも戸別訪問になりますし、複数の訪問を意図していれば1軒の訪問であっても該当します。
(イ)文書図画の頒布又は掲示(2号)
この点については、連載第4回(2018年1月12日号)で詳しく述べていますので、ご参照ください。
「文書図画」、「頒布」及び「掲示」の意義は、法142条、143条のそれと同じです。すなわち、「文書図画」とは、「文字若しくはこれに代わるべき符号又は象形を用いて物体の上に多少永続的に記載された意識の表示」とされ、文字でなく記号であっても、また紙以外のものに書かれたり、映像として表示されたものも含まれる広い概念です。
「頒布」とは、不特定又は多数人に文書図画を配ることのほか、特定少数の人への配布でも不特定又は多数人に配布されることが予定又は予想される状況での配布も含みます。
「掲示」とは、文書図画を一定の場所に掲げて人に見えるように示す行為をいい、何かに張りつけることが要件ではありません(以上、連載第1回(2017年7月10日号)の記事をご参照ください)。
また、重要なポイントは、当落の挨拶目的の文書図画の頒布・掲示は原則として禁止されていること、本号の規制には後述のような例外が認められていることです。
(ウ)新聞紙・雑誌の利用(3号)
これは文言どおり「利用」方法を問わず禁じており、典型例は広告を出すことです。
(エ)放送設備を利用した放送(4号)
本号にいう「放送設備」は、選挙運動時に使用できない放送設備(法151条の5)と同じです。有線放送のみならずラジオやテレビといった無線の放送設備も含まれます。
(オ)当選祝賀会その他の集会の開催(5号)
これは集会の名称ではなく、その実質が当選の祝賀会や落選反省会といった当選又は落選に関する挨拶目的の集会であるかどうかが問題となります。
また、もともと候補者であった者に開催中に当落の挨拶をしてもらうことを予定して集会を開催するような場合も該当することになります。
(カ)気勢を張る行為(6号)
法140条の選挙運動における場合と同様、注目を集めるために派手な言動や過激なパフォーマンスをするなど周囲の平穏を害するような行為は禁止されます。
条文が「自動車を連ね又は隊を組んで往来する等」としているのはあくまで例示にすぎず、気勢を張る行為といえるかどうかは、その行為態様や規模・平穏を害する程度など種々の要素を加味して個々に判断されます。
(キ)当選に関する答礼のため当選人や所属政治団体等の名前を言い歩くこと(7号)
この行為は「当選に関する答礼のため」であって、落選の挨拶は含まれていないことに注意が必要です。
また、「言い歩く」は当選者の名前や政党・政治団体等の名称を連呼して回ることを指しますが、必ずしも「歩く」に限られず、自動車を使って言い回ることも含まれると考えられます。