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2019.03.25 小規模自治体

契約の適正性と議員の関わり ──『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その13)──

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東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之

はじめに

 総務省に設置された「町村議会のあり方に関する研究会」の報告書(以下『報告書』という)の実体的な評釈を続けている。前回から、「Ⅲ3(3)議決事件の限定と請負禁止の緩和の仕組み」を取り上げることにした。特に、議決事件の限定という考え方について、そもそも、現行の議決事件の範囲の妥当性について検討してみた。今回は、議決事件の限定と連動する請負禁止の緩和の仕組みについて、論じてみよう。なお、この項目をもって、『報告書』の本体の中身は終わる。

基本的視点の組立て

 前回要約したように、『報告書』の基本的視点は、(1)議会が個々の契約などについて議決を行わないならば、議員に対する請負禁止の要請は相対的に低くなるから、これを緩和することができる、というものである。そして、(2)議決事件の限定と請負禁止の緩和は、多数参画型に必須、ということである。(1)の説明上の因果関係は、先に議決事件を限定することがあり、その帰結として、請負禁止の緩和が導かれる。(2)については、特段の説明がされていないので、推論するしかない。
 『報告書』の論理は、まず議決事件を限定して、議員の活動量を限定すれば、専門性が求められることもなく、より一般の有権者が議会に参画しやすくなる、というものである。議員のなり手不足対策という観点からは、議決事件の限定がされればよい。もっとも、それならば、それに加えて請負禁止の緩和をする必要はない。
 個別契約の案件が議決事件であろうとなかろうと、自治体として請負をする相手方が議員であるならば、議員はいろいろな立場や権力を行使するという疑念は生じうる。そもそも、契約が議決事件であるということは、行政側が契約を結びたい案件に対して、議会が拒否権を持つというだけである。契約が議決事件であっても、個別議員が自らの利権のために、自らの関与する企業に契約締結するように、議決権で行政側に義務付けることはできない。不当な権力行使は、個別契約に議決権があろうとなかろうと、議員が首長側に利益誘導を求めたり口利きをしたり、首長側が議員を忖度(そんたく)するときに発生する。潜在的には、議会に予算議決権があれば生じうる。

実際の論理の流れ

 高知県大川村をはじめとして、実際の議会現場から生じてきたのは、議決事件の限定ではなく、単に、請負禁止の緩和の問題である。つまり、実際に議員のなり手不足にある中で、議員候補を探していくと、自治体との請負契約その他の利害関係があるということで、「議員にはなれない」という事態に直面するからである。
 こうした「仕事上議員になれない」という現場の理解については、一部では勘違いがあるといわれている。つまり、法律上の請負禁止(法人役員等との兼業制限)がされていないにもかかわらず、あえて安全を見込んで禁止範囲を広めに理解しておくという知恵である。請負禁止に当たらないと解釈したにもかかわらず、議員になってしまってから禁止に該当するとされる事態は避けたいのが、リスク回避的な人情である。そこで、大川村では請負禁止に当たらない法人を明示してリスクを減らすことを図った条例を制定した。もっとも、条例に基づく村長による明示が、法令の範囲外の可能性は否定できないから、リスクが回避できるとは限らない。
 さらにいえば、議員になりたくないという本音を、「法律上できない」と称することによってオブラートに包む大人の知恵かもしれない。こういう本音がある場合には、「法律上できる」といくら説得しても意味がない。別の理由が出てくるだけである。このような本音が存在する場合は、仮に法律上の請負禁止が廃止されたとしても、「請負をしていれば法律上議員になれないはずだ」、「法律上、禁止されていないにしても、以前は禁止されていたということを住民は知っているので、住民から猜疑(さいぎ)の目で見られるのは不可避であるから、議員にはなれない」などという、断りの口実が出てくるだけかもしれない。

請負禁止の緩和は議決事件の除外を必要とするか

 ともあれ、現実には、議員が後継者やなり手を探すときに、「請負」を理由又は口実に潜在的議員候補者の母集団が小さくなっていることは、望ましいことではない。多数参画型であろうと、集中専門型であろうと、現行議会であろうと、違いはない。実際の議員のなり手不足が深刻な議会は、集中専門型でもなければ多数参画型でもなく、いわば専門性の乏しい少人数の議員からなる少数参画型である。どのような議会の形態をとるにせよ、担い手不足を解消するには、潜在的な担い手集団を狭める請負禁止は、他の条件を無視すれば、望ましくないとはいえよう。
 問題は、請負禁止を緩和すると、論理必然に、個別契約に関する議決事件を除外する必要があるかどうか、ということである。この点はすでに述べたように、個別契約が議決事件であろうとなかろうと、当該議員に権力があれば、行政側は議員の明示又は黙示の要望を受けて、あるいは、忖度をして、当該議員に便宜供与をするおそれはある。個別契約の議決事件は、むしろ他の議員が、当該議員に便宜供与をするような議案に対して、公正中立性の観点から、あるいは嫉妬の観点から、さらには政争の観点から、拒否権を行使する機会を提供するだけである。したがって、請負禁止を緩和しても、個別契約の議決事件を除外する意味は、ほとんどない。

議決事件の除外の代替的監視スキーム

 個別契約が議決事件から除外されるということは、首長又は行政職員の恣意的な契約が可能になることであり、さらにいえば、今まで以上に、個別議員からの口利き・圧力又は個別議員への忖度に基づいた恣意的な契約も可能になることであり、監視の仕組みが必要になる。『報告書』でも「② 考えられる制度の詳細 (b)議決事件から除外することに伴う代替的監視スキームについて」において、「議会に代替する一定の監視スキームの導入が必要である」としている。もっとも、現行のように議決事件であっても、議会多数派を巻き込んでの利益誘導はありうるのだから、追加の(代替的ではない)監視スキームが求められていよう。
 『報告書』によれば、従来の議会が果たしている監視機能を、「専門的監視」と「民主的監視」の要素に分け、前者を監査委員、後者を住民に再配分するという。それゆえに、従来の議決対象となっていた契約などに関する諸情報について、監査委員の意見を付して住民に公表する、ということを検討している。しかし、『報告書』ではそれ以上の掘り下げはない。
 議決事件ということは、議会が拒否権を持つということである。『報告書』の提案は、単に情報公開するというだけであって、監査委員にも、住民にも、何らの決定権=拒否権を付与するものではないので、議決事件除外の代替にはなりえない。要するに、首長や行政職員の個人的又は組織的な、不適正な契約を防ぐ法的な実効性のある仕組みが必要である。例えば、一般競争入札制度などは、入札価格によって機械的に決定される仕組みであり、首長や行政職員が差配することはできない。しかし、全てを一般競争入札に付すことはできないし、また、価格のみを争う入札が妥当な契約に至る保証もない。この問題は議会制度というよりは、むしろ、現在別途、制度強化が指向されている内部統制制度の問題である。
 首長が一人で決定できないようにすれば、首長の恣意的な契約は回避できる。しかし、首長部局の決定においては、首長が部下に指示でき、あるいは、部下が首長を忖度するならば、首長一人で決定できなくとも、恣意的な契約は可能である。職員が一人で決定できなければ、職員一人による不適正な決定は回避できる。上司の決裁はそうしたチェックにはなる。しかし、上司が部下に不適正な契約を指示することができてしまうし、部下が上司を忖度すれば同じことである。こうして考えると、最末端の担当職員から、直属上司、関係課合議、部長等幹部、理事者と押印を並べていけば、それだけ個人的な不適正は不可能になる。しかし、行政部局全体としての不適正が避けられるとは限らない。いわゆる「組織ぐるみ」である。また、あまりに決裁文書に印鑑を並べると、全ての人が無責任になり、実は個人の不適正が容易になる危険もある。
 行政の「組織ぐるみ」又は個人的暴走を阻止しうるのは、行政とは独立した機関、すなわち、議会の議決である。しかし、首長側が議会多数派を「与党」化していれば、容易に議決を得ることは可能である。そうなれば、「自治体ぐるみ」となる。個別契約が議決事件であっても、行政の不適正な執行を監視しきれるとは限らない。とはいえ、より同意を必要とする範囲が広がれば広がるほど、個人又は少人数による恣意的な不適正が困難になることは、傾向としては期待できよう。

請負禁止緩和への代替的適正確保スキーム

 『報告書』では、「② 考えられる制度の詳細 (c)請負禁止を緩和することに伴う代替的適正確保スキームについて」において、請負禁止を緩和することについても、議員としての活動の信用を確保するスキームが必要としている。簡単にいって、自治体に対し請負をする議員が、自治体の意思決定に関わることは、住民全体の公益ではなく、自己利益を図る方向に意思決定をゆがめるおそれを招いても、あながち不思議ではないだろう。その意味で、『報告書』の発想は理解できる。
 『報告書』は、議員の請負関係について認めた上で、住民監視に委ねる方向性を趣旨とした。具体的には、議員関係企業等と一定額以上の契約を締結した場合において、契約関係事項(契約の概要、相手方の名称、契約金額、相手方を選定した理由など)の公表を長に対して義務付ける、という提案をしている。情報を公開して住民による衆人監視を導入できれば、首長又は行政職員と議員との間で、公に理由を説明できないような個別契約は困難になるだろうし、仮にそのような不適正な契約関係になれば、世論や選挙で自浄できると期待できるかもしれない。
 このあたりは微妙な問題である。公開して不適正ならば、住民が問責すればよい、というのは一つの考え方である。しかし、問責答責過程とは、多数が納得すれば、あるいは気づかなければ、気にしなければ、それで了解されるというものであるが、住民の間の一定割合にもんもんとした不満を残すことになる。それゆえ、自己利益を図っていると思われないようにする、つまり、「李下(りか)に冠を正さず」とは、多数の住民が納得すればよいというものではないかもしれない。その意味で、あらかじめ一律に禁止して身綺麗(みぎれい)にしておくのは、一つの考え方である。
 とはいえ、超高齢化と人口減少が進行すると、議員のなり手として期待される壮年層が相対的にも絶対的にも減ってくる。また、自治体が直営ではなく発注することが増えてくると、自治体と住民が関わる事業者との契約関係が増えてくる。しかも、自治体は、傾向としては、官公需が域外に流出するよりは、域内地元業者に落ちることを指向するから、必然的に、住民の関わる事業者と自治体との契約は推奨される。それだけ、住民が関わる事業者と自治体との経済関係が濃密になる。
 そのような中で、議員として自治体の意思決定に関わった場合は、自治体と経済関係を取り結べないとなると、個人としての経済活動においてかなりの困難をはらむ。議員報酬だけで食べていけるような水準であればともかく、議員のなり手不足に悩むような自治体では、それだけで生活できるような水準の議員報酬は困難である。つまり、議員は兼業して生活していることが前提になっている。しかし、それが自治体との請負契約を禁止していることを前提にするならば、制度的に無理が多いといえよう。その意味で、請負禁止の緩和は不可避かもしれない。しかし、そのときの適正性の確保は難問である。『報告書』でも答えが出ていないが、本論文でも答えは出せない。確かに、請負禁止の緩和は明らかに議員による、又は、議員に対する請負を通じた癒着の可能性、又は、おそれを拡大する。ただし、担い手不足の解消が、そのような危険性よりも、より喫緊の必要があるかどうかという価値判断の問題であろう。【つづく】

 

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