2019.01.28 文書図画
届出と異なった選挙運動用ビラ/実務演習〈地方行政〉
中村正紀 総務省地域力創造グループ地域振興室
県議会議員選挙において、選挙管理委員会に届け出たビラと実際に頒布されたビラが以下の点で異なる場合、同一種類のビラとして認められるか。
(1)記載に誤植があり、訂正されていた場合
(2)紙質等が次の点で異なっていた場合
① 用紙の種類が「上質紙」から「コート紙」となっていた場合
② 用紙の形が「A4」から「円形」となっていた場合
1 はじめに
都道府県及び市の議会の議員の選挙において選挙運動のために使用するビラの頒布を可能とすることを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成29年法律66号。以下「改正法」という)が、平成31年3月1日から施行されることから、選挙運動用ビラの頒布に関し公職選挙法(昭和25年法律100号。以下「法」という)上疑義が生じ得る事例について論ずる。なお、文中意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りする。
2 法における文書図画の頒布について
法では、142条において、文書図画による選挙運動のうち、文書図画の頒布に関する制限について規定している。
法では、選挙運動のために頒布することができる文書図画は、「選挙運動用通常葉書」と「ビラ」に限っているものであるが、この例外として、法142条の2では、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙において、候補者届出政党若しくは衆議院名簿届出政党等又は参議院名簿届出政党等が、総務大臣に届け出た国政に関する重要政策等を記載したパンフレットについては、選挙運動のために頒布できることとされている。
また、平成25年の法改正により、インターネット等を利用した選挙運動が解禁され、ウェブサイト等を利用する方法や電子メールを利用する文書図画の頒布も一定の要件の下に可能とされている。
3 選挙運動用ビラの頒布について
(1)選挙運動用ビラの頒布に係る経緯
従来選挙運動のために使用する文書図画については、通常葉書のほかは頒布できないこととされていたが、昭和50年の法改正により候補者が行う選挙運動手段を拡充し、有権者の選択の判断に資するため、衆議院議員及び参議院議員の選挙に限り、新たに選挙運動用ビラを頒布することができることとされた。
その後、平成6年には衆議院議員の選挙において、候補者のほか、候補者届出政党及び衆議院名簿届出政党等に、平成12年には参議院議員の選挙において、選挙区選出議員の選挙の候補者のほか、比例代表選出議員の選挙の参議院名簿登載者に、平成19年には地方公共団体の長の選挙において、選挙運動用ビラの頒布が認められることとなった。
加えて、平成29年には、全国都道府県議会議長会や全国市議会議長会の要望等があったことを踏まえ、都道府県又は市の議会の議員の選挙において選挙運動用ビラの頒布を可能とすることを内容とする改正法が公布され、平成31年3月1日から施行することとされている。
(2)選挙運動用ビラの種類及び枚数制限
法に基づく選挙運動用ビラについては、それぞれの選挙ごとに、次に掲げる種類及び枚数以内に限り頒布できる。このうち、種類制限を受けるビラについては、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会(参議院合同選挙区選挙にあっては、参議院合同選挙区選挙管理委員会、衆議院比例代表選出議員及び参議院比例代表選出議員の選挙にあっては、中央選挙管理会)に届け出たものに限られる。
① 衆議院小選挙区選出議員の選挙
・候補者:1人につき2種類。7万枚。
・候補者届出政党:種類制限なし。候補者を届け出た都道府県ごとに、4万枚に当該都道府県における届出候補者の数を乗じて得た数(ただし、候補者を届
け出た選挙区ごとに4万枚以内)。
② 衆議院比例代表選出議員の選挙
・衆議院名簿届出政党等:名簿を届け出た選挙区ごとに2種類。枚数制限なし。
③ 参議院選挙区選出議員の選挙
・候補者:1人につき2種類。枚数については、当該都道府県の区域内の衆議院小選挙区選出議員の選挙区の数が1である場合には10万枚、当該都道府県の区
域内の衆議院議員小選挙区選出議員の選挙区の数が1を超える場合にはその1を増すごとに、1万5千枚を10万枚に加えた数(その数が30万枚を超える場合には、30万枚)。
④ 参議院比例代表選出議員の選挙
・参議院名簿登載者:1人につき2種類。25万枚。
⑤ 都道府県知事の選挙
・③に同じ。
⑥ 指定都市の長の選挙
・候補者:1人につき2種類。7万枚。
⑦ 指定都市以外の市の長の選挙
・候補者:1人につき2種類。1万6千枚。
⑧ 町村の長の選挙
・候補者:1人につき2種類。5千枚。
⑨ 都道府県議会の議員の選挙(※)
・候補者:1人につき2種類。1万6千枚。
⑩ 指定都市の議会の議員の選挙(※)
・候補者:1人につき2種類。8千枚。
⑪ 指定都市以外の市の議会の議員の選挙(※)
・候補者:1人につき2種類。4千枚。
(※) 改正法により新たに選挙運動用ビラの頒布が認められる選挙。平成31年3月1日以降にその期日を告示される選挙について適用されることとなる。
選挙運動用ビラの記載内容等については、当該候補者、候補者届出政党又は衆議院名簿届出政党等の選挙運動のために使用されるものであれば、その内容が犯罪を構成する場合を除き自由に記載することができるが、頒布責任者等の氏名及び住所等を記載しなければならないものとされている。
また、衆議院比例代表選出議員の選挙において衆議院名簿届出政党等が頒布するものを除き、選挙運動用ビラには当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会(参議院合同選挙区選挙にあっては、参議院合同選挙区選挙管理委員会、衆議院比例代表選出議員及び参議院比例代表選出議員の選挙にあっては、中央選挙管理会)の交付する証紙を貼らなければ頒布することができない。
4 設問の検討
県議会議員の選挙においては、改正法により、平成31年3月1日以後その期日を告示される選挙については、選挙運動用ビラを頒布できることとなる。
選挙運動用ビラについては、それぞれ種類制限及び枚数制限が設けられているが、当該選挙を管理する選挙管理委員会に届け出たビラと頒布されたビラが同一種類であると認められるためには、そのビラに印刷、表示されている文字、図形等がそのレイアウト(構成割付け、配置配列)を含めて同一であることを要するものと解される。
(1)記載に誤植があり、訂正されていた場合
選挙管理委員会に届け出たビラに記載誤りがあり、当該誤りのある記載を訂正して実際に頒布した場合については、当該選挙を管理する選挙管理委員会に届け出たビラと頒布されたビラが同一種類といえないとも考えられるが、記載の訂正が、新たな事項の追加と認められない範囲であれば同一種類と認められると考えられるものである。
したがって、設問のような場合については、ビラの記載の訂正が新たな事項の追加と認められない範囲であれば同一種類と認められ、直ちに法に抵触するものではないと考えられる。
(2)紙質等が次の点で異なっていた場合
① 用紙の種類が「上質紙」から「コート紙」となっていた場合
② 用紙の形が「A4」から「円形」となっていた場合
当該選挙を管理する選挙管理委員会に届け出たビラと頒布されたビラについて、用紙の質や大きさに若干の差があっても、そのビラに印刷、表示されている文字、図形等がそのレイアウト(構成割付け、配置配列)を含めて同一であれば、直ちに同一種類のビラと認められないものではないが、異なった効果を持たせるような場合は同一種類のビラとは認められないものと考えられる。
したがって、①の場合については、印刷内容や外見から、異なる効果を持たせるものと認められる場合を除き、同一種類のビラと認められるものと考えられる。②の場合については、届け出たビラとは規格が異なったビラを頒布しているものであり、一般に同一性を損なわない範囲の差異とは認められないと考えられることから、別の効果を有する新たな種類のビラの頒布といえ、法に抵触するものと考えられる。
5 おわりに
以上、選挙運動用ビラに関して、設問に従って検討した。公職の選挙において法など選挙法規を十分理解し、適切かつ公正に選挙が実施されることを期待している。
(※本記事は「自治実務セミナー」(第一法規)2018年12月号より転載したものです)