2018.12.10 ICT活用・DX
第41回 タブレット導入は改革にどう役立つのか
回答へのアプローチ
回答案Aは当初、タブレット導入のメリットとしていわれたことです。ただ、実際に導入してみると、思っていたほどコストダウンにならなかった議会もあるはずです。というのは、それぞれの自治体での文書環境に左右されるからです。執行部側もタブレットを導入しているかどうか、議案や資料をどの程度まで電子化できるかに左右されます。執行部に導入されていないと、当然、自治体全体でのコストの削減率は低くなります。また、タブレットを導入しても、議案や資料の中には、すぐにはペーパーレス化に賛成してもらえないものもあります。国会の場合には、「議案を印刷して各議員に配付する」(衆議院規則28条2項)のような規定があり、議案や質問主意書・答弁書など、紙で配布することが義務付けられているものがあります。こうした規定のない自治体議会では、やろうと思えば完全なペーパーレス化も可能なはずです。しかし、そう簡単にはいかないものなのです。例えば、議案の中で一番、紙を使うのは予算書でしょう。タブレット導入と同時に完全なペーパーレス化をするのが理想ですが、議決対象としての予算の「款・項」だけでも結構な資料となりますが、予算にはさらに細かい「目・節」といった区分もあり、それも資料として併せて議会に提供されるのが普通です。こんな分厚い資料こそ、電子化してタブレットで読むのにふさわしいのですが、議員からは「紙の予算書も配ってくれ」という声が必ず出るものです。
しかし、この要望を「ペーパーレス化に協力してください」の一言で断れないのが難しいところです。予算関係の資料もそうですが、「読む」というよりも、関連個所を確認しながら参照していくという使い方をする資料があります。こうしたものは、やはり紙の方が便利なのです(1)。「タブレット導入でペーパーレス化したら、審議が不十分になった」というのでは本末転倒ですから、ペーパーレス化は様子を見ながら少しずつ進めていくことになるでしょう。予算を獲得するためや、住民向けには「コストダウン」はアピールしやすいのですが、初期投資分をカバーするには時間がかかることも知っておかねばなりません。Aは回答としてとれません。
Bは本音の部分で、こう思っている議会や議員もあることでしょう。しかし、改革があって、「改革の見える化」があります。改革がないのに、改革の見える化を図るというのは、変な話です。もちろん、回答としてはふさわしくありません。当たり前ではありますが、回答はCとしたいと思います。コストダウンという切り口だけで説明できないとすると、どんな使い方やメリットを想定し、導入可否の議論をするかです。
実務の輝き・提言
タブレットの導入をコストダウンのためではなく、議会としての力の入れどころを変えるためのツールとして捉えてみるのはいかがでしょう。例えば、タブレットの導入で最も恩恵を受けるのは議会事務局であるという話も聞きます。各議員への連絡、議案や資料等の配布などかなりの時間と神経を使います。タブレットを使うことで、こうしたことに費やされていた時間を、本来の議会運営や政策立案へのサポートに振り分けることができるはずです。また、一般質問などで使用される資料をタブレットで共有し、議場内の大きなモニターで映すことは、メリハリをつけた議会運営にもつながります。議案の差替えなどで中断されることもなく、また、議会・委員会運営のために議長や委員長の指示などをタブレットを通じて行うことで、議場の議員にはより審議に集中してもらうことができるでしょう。
住民への情報提供の面でもプラスになります。大きなモニターで映される映像は、得てして置き去りにされがちな傍聴人への資料提供にもなりますし、こうした資料は電子化されているのですから、ウェブサイトなどを通じて提供することも可能なはずです。会議の中継や録画も、議案や審議資料、議員提供の資料と同時に見ることができれば、住民の情報環境は格段に上がることになるでしょう。また、久慈市議会では、災害時の情報共有ツールとしてタブレットを活用したことも報告されています(2)。
中には、「タブレットなんて触ったこともない」という議員もいるかもしれません。大丈夫です。導入業者や事務局職員がそれこそ、親切、丁寧に教えてくれるはずです。
提言
タブレット導入に際しては、議会として整備しなければならないルールがあることも忘れてはいけません。まず、一般質問などに際して、資料をタブレットに配布するための会議規則の規定などを整備する必要があります。一般に、議場で印刷物などを配布するには議長の許可が必要です。タブレットにより「配布する」ことやモニターに投射するにも、これと同様な手続が必要となるでしょう。また、会議中などに、審議に必要なこと以外にタブレットを使うのも禁じておく必要があります。
〇東かがわ市議会会議規則 |
審議中の他事使用は禁止ですが、タブレットを議会から貸与する場合でも、普段、持ち歩いて使ってもらわないと、連絡などの用を果たさなくなります。扱いに習熟してもらうためにも、議会外で使用を禁止するのは好ましくありません。となると、私用に使われることも考えられるわけですから、その通信費をどうするかの問題があります。議員に一部を負担してもらうという議論も当然出てくるでしょう。タブレット使用に関するルールは細かいことも含めて、いろいろと考えられますから、「タブレット使用要綱」などとしてまとめておくといいでしょう。先進議会の視察に当たっては、どの辺りまでルール化しているのかも確認しておきたいものです。
タブレットは議会改革の成果ではなく、議会改革の成果をもたらす可能性のある「物」にすぎません。成果を生むかどうかは、調査を含めて、事前の準備にかかっているといえるのです。
(1) 米山知宏「地方議会におけるタブレット活用」自治体法務研究2014年夏号41頁ではすでに同様の指摘をしています。
(2) 「災害対策本部の会議資料はPDFスキャンするほか、会議に使われたホワイトボードを写真撮影し、全議員でデータを共有した。河川の水位の状況、児童生徒の保護者の引き渡しの状況など、刻一刻変わっていく情報を、台風直撃前に議員は各地域にいながらリアルタイムで把握していた」長内紳悟「大災害の教訓を台風被害に生かすICT活用、チーム議会で組織的に行動」日経グローカルNo.325(2017年)36頁。