2018.11.26 コンプライアンス
第10回 政治活動の要「後援会活動」(選挙時編1)
3 戸別訪問の禁止(法138条)
(1)投票を得るための戸別訪問は禁止
前回も触れましたが、誰であっても選挙期間中に投票を得る等の目的で戸別訪問をすることは禁止されています(法138条1項)。
要件は、
① 選挙に関して行うこと
② 投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的があること
③ 戸別訪問をすること
ですが、判例では相当緩やかに解釈されています。
ア 要件① 選挙に関して行うこと
選挙運動のためのみならず、選挙に際し又は選挙に関連する場合も含まれます。
どのような場合が「選挙に関して」といえるかは、その訪問の時期や態様、方法などの諸般の状況を総合的に見て判断せざるを得ません。ただし、要件②の目的が必要ですので、選挙に際して訪問したからといって直ちに公選法の禁止する戸別訪問に該当するものではありません。
イ 要件② 投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的があること
この要件は、目的という内心に関わるものです。そのため、その目的があるかどうかは、訪問者や被訪問者の説明に加え、訪問の時期・態様や訪問時の行動内容といった客観的な事情から判断されます。
例えば、選挙運動期間中にたすきを掛けて訪問したり、「○○(候補者名)の後援会員です」と名乗る行為、後援会員であるかどうかを問わず選挙区域内の家を手当たり次第に訪問して声かけをするといった訪問態様、訪問時に本来は配布できない公職者等の名称が入った後援会報を渡す行為、訪問目的はそこそこに公職者等の選挙戦の話をするなどの状況があれば、上記の目的を有していたのではないかと推認されることになります。
ウ 要件③ 戸別訪問をすること
ここでいう「訪問」は、家や事務所などの中に入らなくとも、敷地の入り口や軒先で声をかけた場合や、不在の場合でも該当します。さらに、インターホンを鳴らすことなくビラや選挙葉書をポストや戸内に入れ歩くことも「訪問」となります(この場合は法142条にも抵触します)。
なお、「戸別」の訪問は2戸以上の訪問をすることが必要ですが、連続性についてはかなり緩やかに判断されています。手分けして各自1戸ずつであっても、日をまたいでであっても、全体を見て連続性が認められています。
(2)戸別訪問類似行為も禁止
選挙運動のために、戸別に、演説会の開催や演説を行うことについて告知をする行為、特定の候補者の氏名若しくは政党その他の政治団体の名称を言い歩く行為についても、戸別訪問行為とみなして禁止されています(法138条2項)。
要件は、
① 選挙運動のために行うこと
② 演説会の開催若しくは演説を行うことについて告知すること、又は、特定の候補者の氏名や政党その他の政治団体の名称を言い歩くこと
③ 戸別に行うこと
です。
ア 要件① 選挙運動のために行うこと
純粋な政治活動のためであればこれに当たりませんが、「選挙運動のため」かどうかは主観的な要素が強いため、行われた行為の時期・態様などによっても判断されることになります。
したがって、政治活動だと主張しても、行われたのが選挙告示直前であったり、選挙の候補者であることをほのめかして説明することなどがあれば、選挙運動のためと見られるおそれがあります。
イ 要件② 演説会の開催若しくは演説を行うことについて告知すること、又は、特定の候補者の氏名や政党その他の政治団体の名称を言い歩くこと
これらは直ちに投票依頼等の目的を有する行為とはいえませんが、要件①を満たす限り、これらの行為は候補者の印象を強めるものとして実質的に投票へ向けた行為といえることになるため規制されています。
また、「名称を言い歩く」こととは、投票を求めて名称を述べることが典型ですが、後援会への入会説明の際に付随して述べることも含まれます。
ウ 要件③ 戸別に行うこと
戸別ではなく、歩道を歩きながら演説会を告知することは、「戸別」の訪問には当たりません。また、街頭で出会った知り合いなどに個別に告知することも、後述の許された「個々面接」であって禁止されていません。
(3)「個々面接」や「電話作戦」
街でたまたま出会った人に公職者等への投票依頼や演説会の告知をしたり、電話をかけて電話口に出た人に対して投票依頼をすることは、「戸別」の「訪問」に当たらないため認められています。
しかし、戸外に出ていた人を敷地入り口に呼び出し、投票依頼や候補者の氏名や演説会等の告知をすることは、訪問して行う行為であって「戸別訪問」に当たり禁止されます。