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2018.10.25 小規模自治体

喫緊に解消されるべき法令制約とは? ──『町村議会のあり方に関する研究会報告書』について(その8)──

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法令制約はあるのか

 第2に、そうであるならば、「現行法令の枠内では課題解決に制約がある」とされるところの「制約」とは何かが重要である。この点は、『報告書』の構造からいえば、「Ⅰ3(3)」で検討された議員のなり手不足の「要因の分析」の法令制約を指すことになるはずである。議決事件、定数、議員報酬、兼職禁止・請負禁止、議会運営、勤労者参画のうち、自治体議会の自主的取組みを妨害しているのはどれであろうか。
 定数は自由化されているし、議員報酬は条例事項であるから、法令制約はない。もちろん、財政的制約はあるから議員報酬は無尽蔵に支給できるものではないし、財政的制約は地方財政制度によって枠付けられているから、広い意味では法令制約が全くないとはいえない。各自治体が決めた議員報酬を、言い値で地方交付税の基準財政需要に算定するわけにはいかないだろう。また、財政的制約を緩めるために、議員報酬を引き上げるための個別補助金を出すのであれば、むしろ自治体の自律性を阻害するので逆効果である。ともあれ、定数と議員報酬は自治行政局的な法令制約ではない。
 議決事件は、条例で追加することができるので、基本的に増やす方向では自由である。要因の分析で示されているのは、議決事件の多さなので、議決事件を減らす方向では自由ではないという法令制約はあり得るだろう。もっとも、議決事件が多すぎで困るのであれば、自治体はいかようにでも運用で対処できるし、また、してきた。むしろ、してきたにもかかわらず、議員のなり手不足が解消しないのが実態である。
 有り体にいえば、「三ない議会」を実践して、何でもかんでも執行部提案どおり、無条件で認諾の議決をすればよいだけである。こうしたことは褒められたことではないだろうが、対策としては可能である。あるいは、首長の専決処分を使えばよい。地方税条例という、自治体議会にとって最も重要な条例の議決事件でさえ、専決処分が横行しているのが実態なのである。ましてや、他の議決などは簡単である。さらには、正面から首長に委任をしてしまえばよい。委任に関しては、法令制約はあり得るから、一定の限界がある。あえていえば、委任の範囲を拡大するだけで充分である。

議会運営と自律的招集権

 議会運営も、自治体議会としては基本的にかなりの自由度が得られてきた。端的にいって、平日昼間連続数日開催という会期制定例会方式は、もはや法令制約によって強要されているのではなく、単なる慣行か、各議会の選択でしかない。
 あえていえば、招集権が首長にあることぐらいが、法令制約である。首長が議会を招集すると、議会は開催されてしまうので、議決事件が発生してしまう。仮に、議会に自律的招集権が与えられれば、議会は自ら招集しないことができるので、『報告書』の指摘するように議決事件が多すぎて困るのであれば、議案を放置して首長による専決処分をさせることができる。しかし、総務省はかたくなに議会の自律的招集権を否定しているので、こうした法令制約の問題は『報告書』に登場しない。

勤労者参画

 地方自治法制側に、勤労者が議員になることを制約する法令はない。議員を専業・常勤職とするならば、時間的に常勤(フルタイム)勤労者参画は無理である。しかし、これは法令の制約ではなく、個々人の時間配分の問題でしかない。むしろ、現行法令では、議員はいかようにでも自ら働く時間を決めることができるので、専業的にも兼業的にも選べるのである。これをむしろ、議員は専業的・常勤的であることを法令によってパッケージで示すことは、結果として勤労者参画の可能性を現行法令よりも狭めることにしかならない。
 そうすると、実態として、勤労者参画が進まないのは、企業や労働法制の問題である。正確にいえば、労働法制では勤労者参画を保障しているにもかかわらず、実態の企業・労働慣行がそれを阻止しているにすぎない。であるならば、現行法令以上に積極的かつ追加的な労働法制によって、勤労者参画を強化する、つまり、使用者・企業に規制を加えることはあり得るだろう。しかし、それこそ、研究会の設置者である総務省の能(よ)く為(な)し得るものではない。厚生労働省又は内閣府・内閣官房で処理してもらわなければならない。あえて法令制約を挙げるならば、総務省設置法・厚生労働省設置法それ自体としかいいようがない。

おわりに

 結局のところ、法令制約とは、兼職禁止・請負禁止に尽きるのである。『報告書』としては、兼職禁止・請負禁止を緩和・撤廃することができるか、それによる弊害を除去する代替・代償措置があるか、に焦点を絞って、現実的に検討すればよかったものと思われる。もちろん、これらの禁止にはそれなりの理由があるので、簡単に緩和・撤廃ができるとは限らない。しかし、全くできないわけではないだろう。とはいえ、それは微調整を要するテーマであり、粗雑なパッケージを上から示すものではないと思われる。にもかかわらず、なぜか、『報告書』は「2つの議会」というパッケージを提示することに向かったのである。そこで次回は、本丸である「2つの議会」を検討してみよう

【つづく】

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